訴えられる?
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
それは、通知音一つから始まった。
午前十時過ぎ。
特に予定もなく、離婚を決意してから母がやらなくなった洗濯物を干し終えてソファに沈み込んだ瞬間、スマホが震えた。
最初は、ただのメールだと思った。
マッチングアプリか、動画アプリの運営からの自動連絡。
あるいは、母からの買い物の頼みごと。
だが、件名を見た瞬間、指が止まった。
『 【重要】内容証明郵便の到着について 』
……は?
意味が、すぐには理解できなかった。
内容証明? 郵便?
そんなもの、私の人生には無縁のはずだった。
恐る恐るメールを開く。
『本日、あなた宛に内容証明郵便が配達されております。不在のため持ち戻りとなりましたので、最寄りの郵便局にて受け取りをお願いいたします』
画面を見つめたまま、私は数秒固まった。
いや自宅にいるのに不在にするなって……いや、そうじゃない。
内容証明。
その言葉だけで、胸の奥がじわりと冷える。
――まさか。
脳裏にあの夜のやり取りがよみがえる。
勢いで打った言葉。
削除できないスクリーンショット。
神谷の、静かな忠告。
「……冗談でしょ」
声に出した瞬間、震えが混じった。
私は自分に言い聞かせる。
大丈夫。
ちょっとした注意とか、警告文みたいなものだ。
本気で訴えるわけがない。
だって、私は何もしていない。
本当に殺すつもりなんて、微塵もなかった。
それなのに。
郵便局で受け取った封筒は、思っていたよりもずっと重く感じられた。
白い封筒。
差出人の欄には、見知らぬ法律事務所の名前。
指先が冷たくなる。
家に戻っても、すぐには開けなかった。
テーブルの上に置いたまま、何度も水を飲み、トイレに立ち、部屋を意味もなく行き来する。
逃げられないのはわかっている。
でも、開けた瞬間に現実が確定してしまう気がして。
意を決して、封を切った。
中に入っていたのは、数枚の書面。
『通知書』
その文字が、真っ先に目に飛び込んできた。
『貴殿がSNS上において発信した下記の投稿は、当方依頼人に対する脅迫行為に該当する可能性があり、精神的苦痛を与えるものであるため――』
文字が、頭に入ってこない。
脅迫。
精神的苦痛。
損害賠償。
金額の欄を見た瞬間、息が止まった。
三百万円。
「……は?」
思わず声が漏れた。
三百万円?
私の年収以上じゃない。
ページをめくると、私の投稿のスクリーンショットが丁寧に添付されていた。
赤線で囲まれた一文。
『あなたみたいな人、いつか本当に痛い目見ますよ』
そして、続く説明文。
『一般人がこの表現を用いた場合、受け手に生命・身体への危害を予感させるに十分であり――』
「違う……」
私は小さく首を振る。
そんなつもりじゃなかった。
ただの言い返しだった。
感情的になっただけ。
でも、書面は容赦なく続く。
『当方依頼人は本件以降、外出時に強い不安を覚え、警察への相談を余儀なくされ――』
警察。
その単語が、ズシンと胸に落ちた。
私は一気に現実に引き戻される。
これは、もうSNS上の言い合いじゃない。
大人同士の、現実の問題だ。
頭がぐちゃぐちゃになる。
私は神谷に嵌められたんだ。
どうしよう。
誰に相談すればいい?
兄? いや、絶対に呆れられる。
母? 今の状況でこんな話をしたら、何を言われるかわからない。
私は、スマホを握りしめた。
ネットで「脅迫 損害賠償」と検索する。
出てくる言葉は、どれも不安を煽るものばかりだった。
『冗談でも成立する』
『本心は関係ない』
『未遂でもアウト』
「……そんなの、おかしい」
私は、浮遊能力を得た日よりも、ずっと現実から切り離された感覚を覚えていた。
だって私は、誰かを殴ったわけでも、包丁を持ったわけでもない。
ただ、文字を打っただけだ。
それなのに。
数日後、追い打ちのように動画投稿サイトの運営から連絡が来た。
『コミュニティガイドライン違反により、あなたのアカウントを一時停止しました』
目の前が暗くなる。
ちょっと待ってよ! それ私のアカウントじゃない!
再生数が伸び始めていた動画。
コメント欄で持ち上げられ始めていた私。
すべてが、止まった。
――私、何も悪いことしてないのに。
被害者意識が、胸の奥で膨らむ。
あんなに挑発してきたのは、向こうだ。
私を晒し者にしたのも、向こう。
なのに、なぜ私だけが。
その日の夜、私はついに父と母の前でこの話をすることになった。
食卓の空気は、重かった。
「……訴えられてる?」
父が、低い声で言う。
「まだ、正式じゃないけど……その、通知が来て……」
母は、黙ったまま書面に目を通していた。
ページをめくるたび、表情が硬くなる。
「茜」
母が顔を上げる。
「これ、冗談じゃ済まない話よ」
「でも……私、本気じゃなかったし……」
「本気かどうかは関係ないの」
母の声は、静かだったが、冷たかった。
「相手が怖いと思った時点で、もうアウトなの」
父も、深くため息をつく。
「……お前、何歳だと思ってる」
その言葉が、一番刺さった。
私は何も言えなくなる。
その夜、ベッドに横になっても眠れなかった。
浮遊能力があっても、この現実から逃げることはできない。
むしろ目立ったせいで、余計に叩かれやすくなっただけだ。
スマホを見れば、私の名前を出さずに匂わせる投稿が流れている。
『有名になった途端、勘違いする人いるよね』
『FBBA ~フライング・ババア~』
『言葉の責任、ちゃんと考えよう』
――やめて。
私は、布団の中で小さく丸くなる。
あの夜、一言飲み込めていたら。
あのとき、ムキにならなければ。
後悔は、いくら積み重ねても意味をなさない。
内容証明の最後の一文が、頭から離れなかった。
『誠意ある対応が確認できない場合、法的措置を含めた対応を検討します』
誠意ある対応って、何?
謝ればいいの?
お金を払えばいいの?
それとも――
私が、完全に負けを認めればいいの?
そのとき、私はまだ知らなかった。
この一件が、「社会的にどう裁かれるか」だけでなく、「誰が味方で、誰が敵か」をはっきりと浮かび上がらせることになるということを。
お読みいただきありがとうございます。
拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
いくつか下のほうに表紙とリンク貼っておきます!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!











