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アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
その違和感の正体を、私は翌日の夜に知ることになった。
ベッドに横になり、なんとなくスマホを眺めていたときだ。
特に目的もなく、いつものようにSNSをスクロールしていた。
最初は、ただの偶然だと思った。
――あれ?
目に入った投稿が、やけに引っかかった。
『最近、条件だけは一丁前に語る人と会ったけど、自分の立ち位置を棚に上げてるのが一番滑稽なんだよな』
名前は伏せられている。
だが、タイミングがあまりにも良すぎた。
心臓が、嫌な音を立てた。
スクロールする。
同じアカウントの、少し前の投稿。
『選ぶ側だと思ってる人ほど、実は選ばれることがなくなってるの、誰か教えてあげたほうがいいのかな』
喉が、きゅっと締まる。
まさか、とは思いながら、私はそのアカウントのプロフィールを開いた。
年齢、職業、文体。
――神谷だ。
間違いない。
顔写真は載せていない。
だが、言葉の癖、皮肉の混ぜ方。
昨日、目の前で感じたあの「観察する視線」が、そのまま文章になっている。
指先が冷たくなった。
「……は?」
思わず声が漏れた。
これは、私のことだ。
どう考えても。
名前こそ出していないが、内容はあまりに具体的だ。
しかも、いいねの数が、じわじわと増えている。
リプライ欄を開く。
『わかる』
『いるよね、そういう人』
『勘違い女、ほんとキツい』
……何これ。
胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。
私は、馬鹿にされている。
しかも、一対一の場ではなく、不特定多数の前で。
昨日まで「普通の男」だと思っていた相手が、裏ではこんなふうに私を切り刻んでいたのだ。
頭が、カッと熱くなる。
――違う。
私はそんな単純な人間じゃない。
条件だって、現実を見て言っているだけだ。
そもそも、神谷が何を知っているというのか。
私の何を、わかった気になっているのか。
怒りと同時に、強烈な恥ずかしさが押し寄せた。
もし、これを知り合いが見たら?
もし、私だと気づいたら?
私の指は、迷いなくキーボードの上を叩いていた。
「具体的に誰の話ですか? 偏見で人を語るのはどうかと思いますけど」
送信。
胸がドクンと鳴る。
数分もしないうちに、通知が来た。
『別に特定の誰かじゃないですよ。刺さる人がいるなら、それは自覚があるってことでは?』
その一文が、私の神経を逆撫でした。
――なに、その言い草。
「自覚って何ですか? 自分が正しい側だと思ってる発言のほうがよっぽど危険だと思います」
すぐに返す。
すると、神谷は間を置かずに応じた。
『危険かどうかは、受け取る側次第ですね』
完全に、私を弄んでいる。
リプライ欄には、他のユーザーも混ざり始めていた。
『図星だから怒ってるだけでは』
『本人光臨』
『効いてて草』
――効いてない。
私は、効いてなんかいない。
なのに、視界がにじむ。
「あなた、本人に直接言えないことをSNSで言うタイプなんですね」
『直接言いましたよ。理解されなかっただけで』
その返事を見た瞬間、私ははっきりと理解した。
彼は、最初からこれをやるつもりだった。
私を引き出し、観察し、「こういう人間です」と晒す。
善人ぶった顔で。売名行為に使うつもりだったのだ。
怒りが理性を上書きしていく。
「人を値踏みしてるのはどっちですか? 若いからって上から目線なの、気づいてます?」
『上から目線に見えるなら、それは立場の差ですね』
立場。
その言葉が私の中で爆発した。
――ふざけないで。
私は必死にやってきた。
失敗だって、後悔だって、全部背負ってきた。
それを、年下の男に、SNS越しに、笑われる?
「調子に乗らないでください」
その文面は、もはや取り繕っていなかった。
「何様のつもりですか?」
『何様でもないですよ。ただの観察者です』
観察者。
私は、スマホを握りしめた。
呼吸が荒くなる。
頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。
次の言葉を、考える余裕はなかった。
「そんなに人を見下して楽しいですか? いい加減にしてください」
『見下してるように見えるなら、それも受け取り方ですね』
その瞬間、プツンと何かが切れた。
――もう、いい。
私の中で理性が完全に崩壊した。
「あんまり人を舐めてると、いつか痛い目を見ますよ」
送信。
一拍置いてから、後悔が追いかけてくる。
――まずい。
だが、もう止まらなかった。
「本当に。冗談じゃ済まなくなること、ありますから」
さらに送ってしまった。
指が震えている。
心臓が、耳の奥で鳴っている。
すぐに、通知が跳ねた。
『それ、脅しですか?』
その一文を見た瞬間、血の気が引いた。
違う。
そんなつもりじゃない。
ただ、言い返したかっただけだ。
これ以上、馬鹿にされないために。
「違います。そういう意味じゃありません」
慌てて送る。
だが、時すでに遅しだった。
スクリーンショット。
誰かが、それを貼り付けていた。
『これはアウトでは?』
『普通に怖いんだけど』
視界が揺れる。
私の言葉は、私の意図から離れ、別の意味を帯び始めていた。
――脅迫。開示請求。裁判。
そんな単語が頭をよぎる。
そんなつもり、これっぽっちもなかった。
でも、他人がどう受け取るかは、もう私には制御できない。
神谷からの最後のリプライが表示された。
『一線、越えましたね』
その短い文が、まるで判決のように重くのしかかった。
私はスマホを放り投げ、ベッドの上で膝を抱えた。
胸が苦しい。息が浅い。
どうして、こうなった?
ただ、普通に恋愛したかっただけなのに。
ただ、馬鹿にされたくなかっただけなのに。
画面の向こうで、私の言葉は独り歩きし、私自身を追い詰め始めていた。
このときの私は、まだ知らなかった。
このたった数行のやり取りが取り返しのつかない『記録』として、この先ずっと私に付きまとうことになるということを。
夜中だった。
部屋の電気は消していたのに、スマホの画面だけがやけに眩しく感じられた。
ベッドに横になったまま、私は何度も同じ投稿を読み返していた。
『一部の人って、自分が“選ぶ側”だと思い続けないと自我を保てないんだよね。現実を突きつけられると逆ギレするのも、だいたいこのタイプ』
いいね、三百を超えている。
リプ欄には、もう私を直接嘲笑する言葉が並び始めていた。
『年齢考えろ』
『市場価値って言葉、刺さりすぎたんだろうな』
『被害者ヅラきつい』
……やめて。
心臓がドクドクと鳴る。
これは、もう“個人の感想”なんかじゃない。
神谷は、私を見せしめにしている。
自分は安全な位置に立ったまま、私だけを矢面に立たせて。
私は震える指で返信欄を開いた。一刻も早くやめさせないと。
「いい加減にしてください。あなた、やってることが卑怯すぎます」
送信。
すぐに返事が来る。
『卑怯? 匿名で怒鳴り込んでくる人に言われたくはないですね』
カチリ、と何かが音を立てて外れた。
――ああ、そう。
この人は、最初から私を“怒らせるため”にやっている。
周囲を巻き込んで、私が感情的になる瞬間をずっと待っていた。
「人の人生をネタにして、それで正義気取って楽しいですか?」
『正義なんて語ってませんよ。事実を見て感じたことを書いてるだけです』
事実。
その言葉が、私の中で歪んだ。
何が事実だ。
私の何を知っている。
「あなたに、私の何がわかるんですか」
『少なくとも、自分がどう見られているかを把握できていない点は』
リプ欄がざわつく。
『これは効く』
『冷静に論破されてる』
――論破?
違う。
これは、公開処刑だ。
私は、スマホを握りしめたまま、勢いで文字を打ち始めていた。
「そんなに人を追い詰めて、何かあったら責任取れるんですか?」
送った瞬間、胸が少しだけスッとした。
だが、それも一瞬だった。
『また脅しですか?』
その返答を見た途端、血の気が引いた。
「違います。そういう意味じゃありません」
慌てて送る。
だが、もう流れは止まらなかった。
『じゃあどういう意味ですか? “何かあったら”って』
その問いかけが私の中の最後のブレーキを外した。
私は、考えずに打っていた。
「あなたみたいな人、いつか本当に痛い目見ますよ」
送信。
数秒後。
『具体的には?』
挑発。
完全な挑発。
私は、もう後戻りできない場所に立っている気がした。
「具体的も何も、人を追い詰めてたらどうなるかくらい想像つきますよね?」
――やめろ。
頭のどこかで声がした。
でも、止まらなかった。
「受け取る人によっては刺されますよ」
送信。
その直後、通知が一気に増えた。
『これは完全にAUTO』
『スクショした』
『警察案件では』
画面が、ぐらりと歪む。
神谷からの返信は、短かった。
『その発言、“受け取り方によっては殺害予告”になりますが』
殺害予告。
その文字列が、私の視界に焼き付いた。
違う。
そんなつもりじゃない。
私はただ――
もう、見下されたくなかっただけだ。
「そんな意味じゃないです!」
必死に送る。
だが、神谷はもう返してこなかった。
代わりに、別のユーザーの投稿が流れてくる。
『さっきのやり取り、全部保存した』
『怖すぎる』
私の投稿が、文脈を失い、切り取られ、一人歩きを始めていた。
スクリーンショット。
赤い囲み線。『殺害予告』の文字。
私は、スマホを落とした。
心臓が早鐘のように鳴る。
呼吸がうまくできない。
――終わった。
その言葉だけが、頭に浮かんだ。
しばらくして、
神谷からダイレクトメッセージが届いた。
『念のため言っておきます。今後は直接の接触を控えてください』
その文面は、怒りでも、煽りでもなかった。
ただ、冷静で、距離を測るような文章だった。
私は理解した。
彼は、私が越える瞬間を、最初から想定していた。
そして私は、その通りに踊った。
私はなんで彼を上から値踏みしていたんだろう。
私と彼では『人生の経験値』が違いすぎた。
私のほうが十年長く生きているのに、きっとその密度が違いすぎたのだろう。
スマホの画面を伏せたまま、私はベッドの上で小さく丸くなる。
たった数行の言葉が、ここまで重い意味を持つなんて。
お読みいただきありがとうございます。
拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
いくつか下のほうに表紙とリンク貼っておきます!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!











