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真実を確かめたくて

 シャルマン家といえば、このマレスト国において有数の事業家である。

 だが、その裏で詐欺まがいの取引を行い、後ろ暗い金を王族に横流ししているのではないかと噂されている、という信じられない言葉に頭がくらくらした。

 そもそも、この国の王族は血生臭い世継ぎ争いの末に、前王妃と王子、王女が暗殺されている。側室の御子が正式な王太子となり、今では側室であるヤエラ様が正室の座に収まって、実質政権を握っている。


(横領、裏取引、そういったものに王族が絡んでいても不思議ではない…けれど)


「…国王陛下もロシュア殿とは懇意にしているだろう?」

「そう、みたいですが…でも、横領なんて…そんな素振りは全く…」

「厳しいことを言うようだが、君を通してドトレスト家を乗っ取るのが目的だったのだとしたら、ミレーネとの結婚自体なにか裏があったのかも…」


 がしゃん、

 テーブルの上の水が倒れた。

 私が勢いよく立ち上がったからだ。


「…で、でも私、旦那様とは確かに愛し合って結婚したのよ」

「ミレーネ」

「カルロスの父君とシャルマン家の間に何かあったとして、だったらなぜ私の両親は結婚を許したの!?」

「ミレーネ、落ち着いて」

「旦那様が詐欺を!?そんなことあり得ない!」

「ミレーネ!!」


 呼吸が荒い。こんな言い合い自体、カルロスとは初めてかも知れない。

 ローラがあたふたしている。


「…もう良さないか」

「なっ!私たちの何を知っていると…!旦那様は…」

「旦那様?もうアイツは他の女と暮らしているんだろ。それに、その旦那様とやらは君が死に戻って喜んで出迎えてくれたのか?」


 ローラが「カルロス様!」と主人の名を呼んで窘めている。

 私は、怒りが収まらずに屋敷から出てしまった。

 外の陽光が強すぎる。ギラついた光が、割れた玻璃のように目に刺さる。喉が渇く。

 人々は平然と歩いていると言うのに。


(やっぱり、私が死に戻りだから…)


 とにかくめちゃくちゃに歩いた。


(死に戻り、どうして私は生き返ったのだろう…それに…)


 なぜ私は冷たい土の下ではなく、生家のベッドの上に寝かされていたのだろう。

 カルロスが言っていた。私の死には謎が多すぎるのだ、と。ならば、父が私の死体を持ち出してまで何かから匿ってくれたのだろうか。

 だとすれば、その何かとは何なのだろう。それはやっぱり旦那様…ロシュア様なのだろうか。


『死んだ人間が生き返るわけがないだろう』


 旦那様に言われた言葉が、頭の中で反響しながら何度も何度も繰り返される。


(それはそうよ、こんな皺だらけになって。そもそも旦那様は、私が死んでいると思っているのだから。私を騙る、妖か何かだと思ったのに違いないわ)


 だったらやはり、私は生きていると主張しなければ。

 もう一度、もう一度旦那様の元に行ってみたい。真実を、確かめたい。


 私はふらつく足で、シャルマン邸を目指した。


「ミレーネッッ!」

「っっあ!」


 誰かに後ろから抱きしめられて息が止まる。

 それは息を上げて汗をかいているカルロスだった。


「私を…探して?」

「当たり前だろ。おい、どこに行く」

「もう一度、旦那様の元に行かなくては。私は生きていると説明すればわかってくれるはず…」


 カルロスは、私の腕を掴んで「もう止めろ」と言った。


「君が生きていると分かったところで、あちらはもう結婚されているんだぞ?生きていました、それでどうしろって言うんだ」

「それは…そうかも知れないけれど…でも、私が死んだ時の事やその後のことを聞くことはできるでしょう!?」

「僕は、君を行かせない」

「だって私は、カルロスからの話しか聞いていないわ!こんな嘘みたいな話を…一方の情報だけで判断できるわけないでしょう」

「僕はまだ、君を行かせられない」

「なら、どうしろと」


 仕方がないというふうに眉根を寄せて、前髪を掻き上げている。暫く逡巡してから、横目に私を見て言った。


「…僕に考えがある」

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