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愚かな男

「レ、レイリュール…様…。どうしてここに…?」


 身体の弱い殿下は、何度か咳き込んだ後、細い指で前髪を掻き上げた。


「…私だけでは、ない」

「え…?」


 唸るような声が微かに聞こえてきた。まるで地鳴りのように、微かに建物が振動している。


「…これは…一体…?」

「ドトレスト侯爵は本当に見事な仕掛けを作った。そして、そのカルロス・スノウレストは巧みにその仕掛けの作動をやってのけた。実に巧妙で、実に愛に溢れている」

「なんの話をしていらっしゃるのか…」

「…スノウレスト伯爵、姉上をよくここまで導いてくれた。感謝申し上げる」


 カルロスは少し不服そうにしながらも、胸を手に当てて頭を下げた。


「なっなっ…!!レイリュール殿下…っ!一体これは何事で…」


 あちこちを指差しながら慌てているのはロシュアだ。ぶるぶると震えながら、レイリュール様とカルロスを交互に見ている。

 この国の王太子殿下がなぜわざわざここに出向いたのか。レイリュール様は手慣れたように口端に滲んだ血をハンカチで拭いてからキッパリと言った。


「…残念だったな、ロシュア・シャルマン。私は生憎、貴様の傀儡にはならぬ」

「く、傀儡などと…聞こえの悪い…」

「このマレスト国に置いて、真に由緒正しき王家はサンリエストロのみ。私にはその血が流れていない。国王である父と王妃である母でさえも」

「なっ…!何を仰いますか!現国王陛下のご子息であるレイリュール殿下こそ次期国王に相応しいではありませんか」

「黙れ」


 なんと冷たい目であろうか。ロシュアはひゅっと空気を吸い込んで黙ってしまった。


「私がこのまま次期国王の座に収まれば、きっとこの身体は保たないだろう。貴様はそれを知っていて私を王座に押し上げようとしておるな?」

「な、なんのことやら…」


 すっと手を伸ばした先にいる妖精の粒子が、レイリュール様の指先に触れるや、バチっと爆ぜる。顔を歪ませた殿下は、手を胸の前で庇った。


「この通り、私はステリア様とロイ殿が暗殺されたあの日から、この空気すら毒霧のように身体を蝕んでいるのだよ」


 コンコン、と乾いた咳。押さえたハンカチが赤く染まっているのが分かる。

 虚弱で表舞台には現れなかった王太子は、空気を吸うことすら命を縮めている。それはつまり…


「ま、まさかその妖精の粒子がレイリュール様の身体を蝕んでいるのですか!?」

「…そのようだ。私はまだ、死ぬわけにはいかぬ。母上とロシュア…お前にこの国を好きなようにはさせん。ましてやステリア様やロイ殿の暗殺を見て見ぬ振りをした父に国政をまかせることもできん」


 ふう、と息を整えながら切ない目で私を見ている。私は堪らず叫ぶ。


「妖精さん!お願いよ…レイリュール様の身体を害するようなことは……」


 私の懇願とは裏腹に、レイリュール様の周囲で粒子がバチバチと爆ぜた。


「ど、どうして……」

「こんなにも妖精を集めて……私はあまり長くここにはいられない…」


 ロシュアはギョロギョロと周囲を見回してから、レイリュール様の下に跪いた。


「こ、このスノウレスト伯爵が、私の妻たちの墓を荒らし、遺骸を攫って、魔術によって生き返らせて……!しかも、あろうことか屋敷で私の妻たちを侍らせていたのです!!私は自分の妻を取り戻したに過ぎないっっ!」

「……だから?」

「だ、だからって…」

「お前が姉上を殺したのは事実だろう?」

「レイリュール殿下、これは私の妻ミレーネでございます。何を仰って…」

「ははははは!」

「で、殿下?」

「そもそも、新政権派の改革などと銘打ったステリア様の暗殺事件が、ティファリー殿の略奪を目的としていることくらい分からぬと思っていたか?」


 かつ、と高い足音が響く。ロシュアが尻餅をついたまま後退した。


「そのミレーネこそが、ティファリーであることくらい、匿ったドトレスト侯爵から、とうの昔に聞き及んでいる」

「なっ!なっ!殿下は……!」

「愚かな男だ、ロシュア・シャルマン。私を押し上げてまで姉上を手に入れたかったようだが…残念だったな。自分自身がこの世界に拒まれていることくらい、分からぬわけがないだろう。とうにお前の腹の中など筒抜けだ」


 寂しい顔で笑ったレイリュール様は、二歩三歩とロシュアに近づいた。


「くっ!くそっ!!」


 外からわあわあと声が上がる。怒号が飛び交いあい、物々しい雰囲気が伝わってくる。


「こ、これは…」

「聞きたまえ、民衆の声を。サンリエストロを王に求める革命の声だ」

「…ま、まさか…!!」

「ドトレスト侯爵の巧妙な仕掛けの発動だ。サンリエストロの魔力の香りはマレスト国民を扇動する。国民一丸となって国を守る力が、この国の強みなのだから」


 レイリュール殿下はカルロスに向かって再び頭を下げた。


「…マロニカ庭園を守り抜いて頂き、感謝申し上げる」

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