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魔力の訓練

『見ての通り、この玻璃をすり抜けられる代わりに、ワタシ達には実態がない。ワタシたちがあの鍵を開けたり壊したりというのは不可能だ』

「そのようね…。ならやはり魔力を取り戻してあの天窓を開けてみるしか…」


 私は天井を見上げて、胸が締め付けられる。途方もない高さに感じた。


「私には魔力を使っていた記憶もないわ…どうやったら…」

『…サンリエストロの魔力の匂いがそこら中でするのだ。悪いが、これではドトレスト侯爵が隠したというティファリーの魔力の在処が皆目見当もつかない』

「そんな…どうしてお父様は私から魔力を取り上げたのかしら」

『ふはははは!!!』


 妖精は、怒ったような顔で思い切り笑っている。まだ感情と人間の表情の相互関係がわかっていないようだ。

 はあ、とひとつ息をついてから言った。


『まだ魔力の制御もできない幼いお前を匿うのは無理だ』

「あっ……」


 ロシュアの言うように、急浮上急降下をしたり炎に包まれてみたりする子どもをどうやって匿うと言うのだろう。


「お父様は、そこまでして私を…。なら、魔力を取り出すなどどうやって…?」

『さあな。それが分かれば隠し場所も自ずと分かるはずだ』

「隠し場所が分かったとしても、ここから出られないことには…」

『それならワタシたちが運べば良いのだから問題ない』


 私の魔力で光っているという妖精は、腕を組んで頷いた。


「……じゃあやっぱり隠し場所がわからないとどうにもならないのね…」

『いや、方法の一つが潰れたにすぎない』

「というと?」

『方法その二、今の少ない魔力を限界まで高めて飛翔してみる』

「で、でも!私には魔力なんてもの…」

『いや、僅かだが、ある。ワタシたちの光が強くなったのにはティファリーから魔力の匂いがするからだ』

「でも、どうやって…」

『よし、早速やってみよう』


 妖精は顎で机に置かれた綺麗な便箋を指した。ロシュアがどういう趣向で置いたのか分からぬが、恐らくあったら綺麗だから、なのだろう。


『その紙を燃やしてみろ。もちろん魔力を使って』

「え……?」

『…疑ってはならない。あの紙を持ち上げるイメージをすれば自ずと手が動くように、燃えるイメージを持て。そして燃やせ』

「そんなむちゃくちゃな」

『嫌ならずっとここにいるのだな』

「うっ……」


(できるかどうかわからないけれど…)


 燃えるイメージとは、どのようなものだろう。マッチを擦るような?落雷で木が燃えるような?


(それとも、ポッと火が発火するような…)


 思った瞬間、便箋の左上の角からポッと発火して燃えた。


「え……?えっ…、わ、私…」

『よし良いぞ、ティファリー。そのまま一気に燃やし尽くせ』

「燃やし尽くす…」


 ボンッという感じだろうか、それとも焦げていく感じだろうか。それとも…


(メラメラと舐めるように広がる感じ…)


 炎はそのままゆっくりと大きくなり、便箋を燃やし尽くした。

 妖精の光が強くなる。


『なんだ、できるじゃないか』

「え、私……?私がこれを?」

『良いか、疑わない心だ』

「うっ、はい」

『ほら、ティファリーの身体が少し浮いている。やはり魔力に慣れぬ生活を送っていたからか、制御ができていないままだ』

「えっ!わっ!わっっ!!」


 私は空を何度も足で掻き、机にしがみついた。

 体のどこも何にも触れていない浮いた状態というのは非常に不安定だ。


『ああ、もう!慣れろ!』

「こ、こわ、怖くて…!わ、わ!!」

『早く立て。練習の続きだ』

「ううっ……」

『その次はそのクッションを燃やしてみろ』

「ふぁい……」


 私はちらりとクッションを見ると、机にしがみついたまま、大きな炎で綺麗な模様のそれを燃やし尽くしてみせた。


「…燃やしました」

『おいおい、嘘だろう?さっき初めてやってみたばかりじゃないのか?』

「ポッと火が発火して、メラメラ燃やす感じが分かったので」

『…末恐ろしいな。ドトレスト侯爵が魔力を隠したのも頷ける』

「うっわっっ!!!!」


 私の身体はぐんっと持ち上がって、およそ二階部分まで浮き上がった。妖精は更なる光を発している。


「た、たすけ!助けて!!」

『ほう。これはこれは』

「きゃあっ!!!」


 恐らく魔力が安定していないからだろう。急に地面すれすれまで落下した。


「っっっ!はあ、はあ…」

『さて、これ以上浮いてみることは難しいか?』

「い、今のが限界みたい」

『ふむ…よし、両手を出せ。このように』


 妖精は、両手でボールを胸の前で抱えるような形を作った。


『ここに火球を作るイメージをしてみろ』

「火の、球ということですか?」

『そうだ。できるだろう?あれを一瞬で燃やしてみせたんだ。飲み込みも早い。身体が覚えているんだろうな』


(火の球……)


 想像してみる。ここに燃える炎がある。私はそれを操っている。

 ボボボボボ……


「っっく!!」

『安定しないな』


 火は出せるが、大きくなったり小さくなったり火柱が上がったりと思ったような形にならない。


『イメージだ。ティファリー。火を丸く…』

「丸い、火……えいっ!」


 シュウと煙を上げて鎮火したかと思うと、次の瞬間にはまた大きな炎が上がって思うようにいかない。

 妖精は『なるほどな』と顎に手を当てて納得している。


『お前はあの天井ほどまで浮くことはできない。恐らくロシュアが見たティファリーの浮上はあそこまで高くない。そこまでいかぬと踏んで敢えて希望を持たせるようなことをしているんだろう。本当に悪趣味だな』

「えっ、そ、そんな…」

『ティファリーの魔力は取り上げられた時のまま、荒削りで相当訓練しなければいけないようだ』

「じゃ、じゃあ……」


 私の言葉を遮るように、妖精は片手で制した。


『帰ってきたな…』

「え…?」

『悪いが粒子に戻らせてもらうぞ』

「ちょっと、待って……」


 ガチャガチャと大きな音を立てて乱暴に鍵を開ける音がする。

 妖精は細かな光となってあちこちに散らばっていった。

 かつての上品さは失ってしまったのだろうか、どかどかとロシュアの足音がこちらに近づいてくる。


「ああ……ティファリー、飛ぶのを思い出したのかい?」

「あっ……」


 私は僅かに浮いた身体を逆さにして、上下反転した光景を見ている。


「なら、これは必要なかったかな」


 ずるずると引きずっていた何かを、乱暴に置いた。

 どさりと、上がっていたそれの腕が落ちる。


「あっ……」


 よく見ればそれは血に塗れたカルロスだった。

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