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君との思い出(ロシュア視点)

 マレスト国の王族は魔法使いの血が流れている。王族の中でも、稀に魔法使いの始祖・カグツチの力を受け継ぐ者がいる。光り輝く炎がその象徴とされた。


 初めてティファリー様をお見受けしたのは、私が十三の頃だっただろうか。彼女はまだ五つくらいだった気がする。

 ティファリー様は、その魔力量に小さな体が耐えきれずふわりと浮いては地に降りることを繰り返していた。時折体を包むように発せられる炎は形容し難いほどに美しい。

 その光景を見て、弟君のロイ様が足を踏み鳴らしてはしゃいでいる。


『娘は、まだ魔力の制御ができないのです』


 困ったように微笑んだステリア様は、けれど楽しげに急浮上急降下を繰り返すティファリー様を窘めたりなどしなかった。


『…ほう、ティファリー様はカグツチ憑き、ですかな』

『ええ、困ったことに魔力量が計り知れないのです。今から自分で制御することを覚えなければ、困るのはあの子ですから』


 私は殺したいほど嫌いな父に連れられて王宮に来たので、用事が済んだら父を殺してしまおうと思っていたが、あまりにも美しい光景を目の当たりにして、そんな瑣末な思考などすぐに吹き飛んでしまった。


(あれが欲しい)


 あれを閉じ込めて、自分だけのものにしたい。膨れ上がる一方の欲望を抑えることが難しい。胸の辺りがうずうずした。

 穢れを知らぬ、何者にも染まっていない真水のようだ。その真水を真水のまま閉じ込めておかなければ、いつか何かに染まってしまうではないか。


 私がしばし見惚れていたのを父が気がつき、帰り際の馬車の中で口論になった。

 父は私が知る中で最もつまらない死に方をしたと思う。

 よせば良いものを、狭い馬車の中で拳を振るったのだ。


『最近のお前は狂っている』


 そんなことを言っていたような気もする。当然私はその拳を避けた。父は玻璃の窓に突っ込む。玻璃が割れた。偶然石に乗り上げた馬車ががたりと跳ねる。父の心臓あたりに割れた玻璃が深く突き刺さった。

 馬車は父の死を知らずに進んだ。私は窓枠にぶら下がる父をいつまでも見ていた。


 帰路の間、どうやってティファリーをこの手に入れられるだろうかと言うことばかりを考えていた。


(純粋な魂は貴重だ。あの膨大な魔力も…)


 そもそも、現国王陛下は隣国の王族から婿入りしたわけであって、正当なサンリエストロの継承者はステリア様である。

 ならば、僕が爵位を継げばなんとかして婿入りできるだろうか。いや、婿に入りたいんじゃない。そうじゃない。あれが欲しいのだ。


『…そうだな』


 僕はヤエラ様とレイリュール様を担ぐことを思いついた。

 新体制派、なんとも馬鹿の集まりだと主張するような良い響きじゃないか。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 ヤエラ様を持ち上げるのは実に簡単だった。魔力にばかり頼る政治も、突けば貴族からの不満が噴出した。今求められているのは目が覚めるような新しさである。もっと裕福に、もっと貿易を盛んに、もっともっともっと。

 あとはもう、暗殺にかこつけてあの子を攫ってしまうだけだ。特注で作らせたガラス瓶のような鳥籠にあの子を入れて愛でるのだ。


「やめて!こないで!」


 僕達はどこまでも追い詰めた。両脇に子を抱えて走るステリア様を。

 ステリア様とロイ様はあっけなく死んでしまった。食前酒に混ぜた毒に気がつかれてしまい、計画とは少し異なったが目的は果たした。

 さて、とティファリー様へと手を差し伸べたが足が動かない。


「ああ、なんという母性なのでしょう。子を思う母の気持ちとは死をも乗り越える」


 ステリア様が私の足を掴んで離さぬのでその手首ごと切り落とした。


「ああ……」


 ティファリー様の姿はもうどこにもなかった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 きっと旧体制派の誰かがティファリー様を匿っている。

 カグツチは殺そうとしても死なぬという。ならば片っ端から年頃の令嬢を殺してみれば良い。


(そうもいかぬか…)


 面倒だが一人ずつ、確実に。騒ぎ立てるようなら家族ごと消して仕舞えば良い。

 悪魔も恐れる所業だろうが、後ろ盾がある今は怖いものなどない。


『ティファリー、早く君をこの檻に閉じ込めてしまいたいなあ』


 私は回りくどいが一人ずつ娶ることにした。その方が確実で、病死の工作もしやすい。数ある方法の中から毒殺を選んだのは、美しい身体がもっとも傷つかずに済むからである。

 あの、煌々と燃える炎に包まれながら楽しげに笑う君を、ずっと見つめていたい。

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