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何を話していた

「何を話していた?」

「レイリュール王太子殿下のことかしら。別に、大したことじゃないわ」

「…それが嘘だということくらい、僕にだってわかる。何を口止めされた?」


 揺れる馬車の中、目線を逸らす私に、カルロスは顔を近づけて何度も問いただした。

 レイリュール様の体調が優れなかったことは内密にという約束なのである。

 しかし仮にも夫婦としてあの場に同席していたカルロスが、私を心配して探してくれたことに誠意を持って返すのが筋ではないか。少しだけ思いを巡らせてから、しっかりとカルロスに向き合った。


「レイリュール様は、体調を崩されて座り込んでしまって、東屋で休まれていたのよ」

「ならすぐ人を呼べば良かっただろう。ミレーネが介抱して、それで何かあったらそれこそ大問題になるぞ。場合によっては、わざと呼ばなかったのではないかと疑われかねない。君はそれをわかっているのか?」

「微妙なお立場にあることは貴方も知るところでしょう?それに、さっき貴方が言ったように、内密にして欲しいと口止めされたのよ」

「へえ?…なるほどな。僕には君と共に時間を過ごしたい言い訳に聞こえるけれどな」

「まさか仮病だと言いたいの?この国の王太子殿下ともあろう方が、わざわざ私如きに仮病まで使って割く時間などありはしないわ」


 ふいと窓の方に顔を向けた。後ろから「はあ」とため息が聞こえてくる。


(なによ)


 帰れば愛しの君が眠ったまま待っているのだ。私なぞに気を揉んでいるほど心のゆとりなどないわけである。こちらだって、そんなことくらい分かっている。

 とはいえ、旧体制派であるスノウレスト家にとってレイリュール王太子殿下と私がどんな話をしたのか気になるところなのであろう。


(つくづく自分が嫌になる)


 今の私は、年増が拗ねているというかなり恥ずかしい状態にある。けれど、どうやったって素直になれそうにない。


(私はもう、恋をすることが恐ろしくなってしまった)


 自分の見た目だけではない。カルロスに対して仄かに抱きつつある淡い感情は、ロシュアと過ごした日々が結果悪夢となって齎されたことを否応なく想起させる。


(…これは…いつまでもスノウレスト家の世話にはなれないわ)


 何を今さら、である。そんなことはとうにわかっていたことではないか。

 神様は意地悪だ。残念ながら奇跡はそうそう起こるものではない。ジェニーが目覚めるなどということはあり得ないのだ。


(雷に打たれるより遥かに低い確率で、私が例外的にそうなってしまっただけのこと)


 ジェニーの目覚めまで偽の夫婦生活を続けていたら、カルロスの一生が終わってしまう。

 私は私でロシュアへの復讐心を焚きつけられたけれど、これもどうやら裏がありそうだ。理由こそ分からぬけれど、カルロスもロシュアに対する憎悪を暴露している。


(随分長く腰を落ち着けてしまった)


 私はようやく決意を固めることができた。幸い荷物は少ない。

 彼の方を見ると、ぼんやりと窓の外を眺めている。その後頭部に向かって独り言のように呟いた。


「…今日は疲れたわ、とっても」

「帰ったらすぐに湯浴みをすると良い。すぐに休め」

「カルロスは、ジェニーと過ごしてから休むでしょう?」

「そうだな」

「ごめんなさいね…なんだか二人の時間を奪ってしまったみたいで」

「建国祭なんだから夫婦揃って行かなきゃおかしいだろ」


 カルロスの放った言葉に、私はなぜだか胸の鼓動が重たく跳ねたのを感じた。「そう、よね」と返すのが精一杯で、それからのことはよく覚えていない。

 いないけれど、その日の遅い時間に、花束を抱えたカルロスがジェニーの眠る部屋に入って行くのを見た。


(わざわざノックをするのだな)


 などと過って、私は早々に部屋に戻って無感動に荷造りを進めた。

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