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シャンパンを飲まされて

「よう、ミレーネ!」


 きゃあきゃあと群がるご令嬢をかき分けて、片手を上げ近づいてきたのは幼馴染のカルロスだ。


「ちょっと、こういう場で話しかけないでってば!カルロス目当てのご令嬢に目をつけられて大変なんだから」

「俺目当て?」

「さっきからすごいじゃないの」

「はあ…。正直、苦手だ。ああいうのは」

「それだけじゃないわ、ほら、あちこちの熱視線に気が付かないの?」

「放っておけば良いさ」

「…おモテになる方は言うことが違うわね…」

「それを言うなら、ミレーネだって…」

「私が、なに?」

「いや、良いんだ。それに君は晴れてロシュア殿の奥方になったんだろう?パーティの場で既婚者の幼馴染に挨拶して何が悪い?やましいことなど何もないだろう」

「そうね、私今すごく幸せだもの。カルロスも早く身を固めたら、あのご令嬢達も諦めて今より過ごしやすくなるかもしれないわよ」

「…僕は身を固めるつもりはない」

「あら、なぜ?」

「放っておいてくれないか。僕は今絶賛傷心中なんだ」

「まあ!そんな話初めて聞くわっ!?どうして言ってくれなかったのよ。間ならいくらでも取り持ったわ」

「そこまで鈍感だといっそ清々しいな」

「む、なによ。失礼ね。なぜ私が鈍感だと言う話になるのよ」

「君な、長い付き合いになるが…」


 カルロスがふいに私の腕を引いた時、誰かに肩を掴まれた。


「あ、旦那様」

「メローデス侯爵夫人が君を探していた」

「新作のワインのことでしょうか」

「…かもね。行っておいで」


 柔らかく手の甲に口付けを落として私を見送った旦那様は、影のある笑顔でカルロスと対峙しているように見えた。


(…いつもとは雰囲気が違うわ。なんだか怒っているみたい。どうされたのかしら)


 けれど私は手招きするメローデス夫人に目線を奪われ、帰宅するまでその事を思い出しもしなかった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





「…あの男と会うのは、もう良しなさい」

「それはカルロスのことでしょうか?嫌だわ、旦那様。彼とは幼馴染で…」


 バン!と机が叩かれる。

 嫁ぐ時に持ってきた大きな一枚板の楠のテーブルの上で、私の実家で作られた新作のワインが溢れた。


「私の前で、他の男を名前で呼ぶのだな」

「あ、えっと…申し訳ございません。決してそのような…」


 相手を萎縮させるような鋭い目線に、声も手も震えて止まらない。


「ああ!ごめんよ、ミレーネ…怖がらせるつもりは…私のつまらん嫉妬なのだ」

「嫉妬…?」

「彼と君が幼い頃から交流があるのは知っている。だが、あんまり仲が良さそうに見えるので…」

「お互いに、兄妹のように思っているだけですわ」

「そうだな、すまない」


 旦那様は「そうだ」と言って、戸棚に大切に閉まっていたシャンパンをポンと空けた。発砲音に肩がすくむ。


「それ、空けて良いのですか?大切なものなのじゃあ…」

「ご覧、君の生まれ年の製造なんだ。君との婚約が決まった時、いつか一緒に飲もうと思っていたのだよ」

「まあ!」


 ワインが溢れて空になってしまったグラスにそのシャンパンを注いでくれたけれど、私は僅かに違和感を覚える。


(あれ、大切にしていた割には…。新しいグラスでないと味が混ざってしまう…)


 私のささやかな疑問はすぐに打ち消されることとなる。

 旦那様に、くいっと煽ったシャンパンを口移しで飲まされたのだ。

 酸味も殆ど味わえないまま、冷たい液体が喉を滑っていく感覚だけが全てだった。


「旦那、様」

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