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9.決着

 ヴァンパイアは、屈辱的な表情を浮かべながら口から血を吐き出す。

 吐き出された血はべちゃべちゃと水がまかれた地面へ浮かんで水と混じり合う。

 

「グッ……大した力もない脆弱な種族が調子に乗るとは!」


 クーゲルは挑発にも答えずにボーガンを投げ捨て、後ろへ距離を取りながら今度は弓を構える。

 流れるような手つきで地から浮いた状態で弦を引き、矢を放つ。

 ヒュッという風を切る音と共に、矢は真っ直ぐに的を捉えて飛んでいく。

 その姿は、弓が得意な美しい神の姿を思い起こさせた。

 矢も全てヴァンパイアに命中し、身体の関節部を的確に貫いていった。


「へえ、おっさん実はそっちの方が得意だったりして」


 ロウは茶化すような口調で笑みを浮かべながら、託されたクーゲルのマグナムを両手で構えヴァンパイアの心臓付近へ全弾撃ち込む。


「お、お……おのれぇぇ!」


 怒り狂ったヴァンパイアが血の雨を降らせたあとにロウの身体を貫いて引き裂く未来が瞳に映り、クーゲルは弓も投げ捨ててロウの方へ走る。

 自らの身体をロウの前へ投げうち、降ってきた雨を背で受け止める。

 雨はボロボロの黒いトレンチコートを易々と溶かし、下に着込んでいた防弾チョッキすら擦り抜けクーゲルの皮膚の一部を焦がす。


「ッ、グ」

「な、なんで!」

「煩い。今だ、ロウ」

 

 クーゲルが顔をひきつらせながらクルリと身体を反転させてロウの身体を押し出すと、ロウはその勢いでヴァンパイアの(ふところ)に飛び込んでいく。

 一瞬呆気(あっけ)にとられたヴァンパイアの隙を狙い、ロウは太ももから引き抜いた銀のナイフを思い切りヴァンパイアの心臓へ撃ち込んだ。


 その瞬間、ヴァンパイアは断末魔をあげながらもがき苦しみそのうちに身体が灰に変わってその場へ崩れ落ちていった。

 同時にクーゲルも地へ膝をついて荒く息を吐き出す。

 服が水に濡れていくが、そんなことなど気にならないくらいの疲労感に襲われる。


「やった……おっさん大丈夫か?」

「この程度なら何とかなる。ただ、権能を使いすぎて目の前がぼやける」


 クーゲルは額を押さえ、ゆっくりと権能を解除する。頬は血に濡れていて視界も悪いが、敵を仕留めたことだけは理解できた。

 ロウは銃をクーゲルへ返すと、水の中でも溶けずに浮かぶヴァンパイアの灰を取り出した小瓶へ収める。

 同時に近くに転がっていた真っ赤な塊を拾い上げた。


「なんだこれ。というか、まさか……」

「ヴァンパイアがくたばって現れる石か」


 クーゲルは散らばった武器を回収し、普段よりはおぼつかない足取りでバッグを背負う。

 慌てたロウもクーゲルの側へ戻ってきて、クーゲルの身体を支える。


「もしかして、もしかするかもしれない。さて、面倒ごとになる前にさっさと撤収しよう。ついでにおっさんの治療もするからさ」

「今回は経費がかさんだ。それに傷も負った。その分もお前が何とかしろ」

「相変わらず金にシビア。でも、僕のことを身を(てい)して助けてくれたのは嬉しかった」


 ロウがにこやかに微笑むと、クーゲルは何も言わずに胸ポケットでくしゃくしゃになった煙草の箱を取り出して一本口へ咥えた。

 

 いつの間にか白んできた空が、屋上の惨状を照らしていく。

 激しい戦いの跡がそこにはあった。

 二人は敢えて振り返ることなく、ゆっくりと脱出予定場所の非常階段の方へ歩を進めていく。

 

 この奇妙な関係がいつまで続くのか分からないが、クーゲルの顔にも達成感とどこか安堵した表情が浮かんでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 世界観がしっかりしているので、ストーリーの中で迷子にならず、まるで自分もD地区にいて、アンノウンとクーゲルを見ているような気持ちになりました。 クーゲルの能力もかっこよく、「神の目」私もほし…
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