キスしないと出られない部屋
二人が気が付くと、そこは見知らぬ小部屋だった。
クーゲルが先に立ち上がり、痛む頭を抑えながら辺りの様子を注意深く窺う。
「悪党のアジトにしては、悪趣味だな」
「参ったね。まさか閉じ込められるとは」
同じくロウもゆっくりと立ち上がる。
この日の二人は完全なプライベートであり、ロウの勧めの個室のバーへ共に行くことになったのだが……飲み終わって帰ろうと立ち上がったところで個室内に煙が放出されたのだ。
「睡眠ガスで良かったな。毒ガスだったら今頃あの世行きだ」
「僕も友人に勧められたんだ。聞いてた話と違うから今度文句を言ってやろう」
ロウの話に乗った自分が浅はかだったのだと、クーゲルは長く息を吐きだした。
それでも命があるだけマシだと、クーゲルも気持ちを切り替える。
辺りを見回した限り、品のないピンク色に統一された部屋にはキングサイズのベッドが置いてある。
いわゆるラブホテルの一室と言うのが一番ピンとくる部屋だ。
ロウがベッドサイドテーブルの中を探ると、ご丁寧にスキンとローションも用意されていた。
「下の引き出しには……見て、手錠もある」
「くだらない。扉はやはり開かないか」
クーゲルが慎重にドアノブを回しても扉はビクともしない。
諦めて扉に体当たりしても、扉が鉄製のせいか力技ではどうにもならなそうだ。
「クーゲル、コレ見て」
ベッドの付近を探っていたロウが、一枚の紙きれを差し出してくる。
そこには『キスしないと出られない部屋』と書いてあった。
「……馬鹿馬鹿しいにもほどがある。暇な金持ちの遊びか何かか?」
「でも、監視カメラで見ていたとして。キスすれば開くっていうならさっさとすればいい……って」
ロウがクーゲルに詰め寄ろうとした瞬間、クーゲルがコートをサッと捲りあげてショルダーホルスターから愛用のリボルバーマグナムを取り出す。
「……は?」
クーゲルはトリガーを引くようにトリガーガードへ指をかけると、くるりと一回転させてからグリップを握って銃口を軽く唇に触れさせた。
すると、ギギっという鈍い音がして先ほどまで開かなかった鉄の扉がうっすらと開く。
「キスならば何でも良かったみたいだな」
「えぇ……いや、銃とキスされても……部屋の仕掛けを作った人はそれで満足なのか?」
何事もなかったかのように銃を仕舞い直して部屋を出ようとするクーゲルに対して、ロウは不満げだ。
だとしても、いつまでも部屋に閉じ込められている訳にはいかないので仕方なくクーゲルの後に付いてくる。
「……残念だったな」
あからさまにつまらなさそうなロウをおかしく思い、クーゲルは少し表情を和らげた。




