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Veil of Night  作者: あざらし かえで
Epilogue

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10/11

一仕事終えて

 純潔のヴァンパイアとの死闘を終えたクーゲルとロウ。

 ロウは怪我をしたクーゲルを、自分の隠れ家の一つへ案内した。


「クーゲルになら知られても構わない僕の隠れ家へようこそ」

「別に興味もないし、誰にも言う気はない」


 クーゲルはロウに気だるい視線だけを投げたが、権能の使い過ぎの反動で視界はぼやけたままだ。

 薄暗い部屋には最低限の家具だけが置かれており、ロウはクーゲルを木の丸椅子へ座らせた。

 更にボロになったトレンチコートを脱がし、着こんでいた防弾チョッキも脱がそうとする。


「……っ」


 クーゲルは眉間に皺を寄せる。

 ヴァンパイアにやられた傷は大したことはなかったのだが、服と傷口が引っ付いてしまっていたらしい。

 ロウはクーゲルの身体の僅かな震えに気づいたのか、ごめんと謝りながら丁寧に服を脱がせた。


「僕のために名誉の負傷をしてくれたし、手当てさせて」

「別にいらない。と言いたいところだが、少し疲れた」

「今回の傷はこれ? って……傷多いな。いつも手当てしてないのか?」


 クーゲルは目と共に身体を休ませるように目を閉じた。

 静寂に包まれた部屋で、ロウが静かにクーゲルの傷を消毒しながら手当てをしているらしい。

 わずかな消毒液の香りはあまり良いものでもなかったが、暗がりと静けさはクーゲルの心を落ち着かせた。


 手当てに身を委ねているうちに、クーゲルに眠気が襲い掛かってくる。

 普段なら人前で寝るなどありえないことなのだが――


「よし、包帯を巻くほどじゃないから軽くガーゼでも貼って……って。え、おっさん?」

「……」


 クーゲルは座ったまま、疲労感に逆らわず眠りに落ちた。


 +++


 どれくらい時間が経過したのか、薄暗い部屋ではよく分からない。

 少しずつ意識が覚醒してくると、クーゲルは自身の身体がソファーに横たわっていることに気づく。

 身体には毛布がかかっており、本当に手当てされながら寝落ちてしまったのだと理解する。


 少し身体を起こし、室内を見回す。

 視界は元通り良好に戻っており、疲労も大分緩和していた。


 (警戒もせずに眠るとは……)


 もう過ぎたことだが、クーゲルは自嘲の笑みを浮かべた。

 背中のひりついた痛みも引いていて、ロウは適切な手当てを施したことが分かる。

 ロウに礼の一つでも言おうかと、クーゲルはソファーから立ち上がる。


 見える範囲にはロウの姿は見当たらないが、突き辺りの扉の隙間から淡い光が漏れていた。

 静かに扉へ近づくとのと同時に、扉がゆっくりと開かれた。


「おはよう? 血も涙もないと言われるバウンティーハンターのクーゲルが可愛い寝顔を晒してくれるなんて。役得だね」

「お前は視力に重大なダメージを負ったらしいな。礼の一つでも言おうかと思ったが……必要ないらしい」

「え……お礼まで? それを言うなら僕もだ。ヴァンパイアが残した宝石だけれど、少し役立つことが分かった。クーゲルと手を組んだおかげだ」


 ロウは優しく微笑みかけながらクーゲルの両肩に手を置くと背伸びをし、クーゲルの耳元でありがとうと囁いた。

 クーゲルは反応を示さず、視線だけロウへ動かす。


「金の配分のことだが、経費とは別計算だ。手当てもお前が勝手にしたことだから、配分には含めない」

「はいはい。本当に色気も何もないな。まあ、それくらいの方が後のお楽しみがあっていいか……。構わないよ、むしろこちらは光明が見えた。宝石を先にいただいてしまったし、僕はあれだけで構わない」

「分かった。金は総取りさせてもらう」

「ああ。ついでに装備代と洋服代を僕から追加で足しておく。で、言われた治療費も無料。これでいい?」


 クーゲルが了承の意で頷き返すと、ロウも交渉成立と言って微笑する。

 

「ソファーの寝心地はいかがだったでしょうか?」

「悪くはなかった。視力も回復したし、ある程度休息できた」

「それは何より。折角お招きしたわけだし、お茶でもいかがですか?」


 片目を瞑り優雅に誘ってくるロウに対して、クーゲルは変わらない仏頂面で呟く。


「コーヒー。ブラックで」

「了解」

 

 どこか楽し気なロウの背中を視線で追うと、クーゲルはソファーへ戻りゆったりと腰かける。

 しばらく待って運ばれてきたコーヒーの深い香りがクーゲルの心に少量の安らぎをもたらしたことを、ロウが気づけたかどうかは――彼の表情を見れば分かることなのだろう。

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