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1.屋上

※このお話はブロマンスです。直接的な描写はありませんが、友情以上恋人未満の関係性です。

苦手な方は回避などの自己判断をしていただき、大丈夫だと言う方はお話をお読みくださいませ。

 ネオン煌めく夜の街ライハイトは、人口も千人を超える活気のある街だ。

 ふと見上げれば様々なビルが立ち並んでおり、バーやカジノの看板が色とりどりに明滅している。

 交通の便も良く、地下鉄が街中に張り巡らされ、主要道路には車やバスなどの乗り物が多く行き交う。

 この街では人間だけではなく獣人や魔物など多種多様な種族が自由に暮らしているが、一部区域ではならず者たちの犯罪行為も多発している。

 ライハイトの中心部から外れたD区域も、決して安全とは言えなかった。


「よくこの距離からいけるよな。さすが、腕のいいことで」


 廃ビルの屋上に怪しい人影が二人。一人の男は地面の上で腹ばいの体勢になっている。

 男は上から聞こえてきた声を無視し、口にくわえた煙草をくゆらせていた。

 男のボロい黒のトレンチコートの裾が時折風に吹かれて揺れる。

 結わえた黒髪はやや痛んでおり、右の頬には昔ナイフのような刃物で付けられたらしい古傷が縦へ一直線に伸びていた。

 月明かりの下で見えた風貌は、容姿に気を遣わないことが(うかが)える。

 

 男はガッシリとした身体で構えたスナイパーライフルのスコープを、鋭さが増した濃紺の瞳で覗き込んでいる。

 狙うターゲットは、D地区で幅をきかせているマフィアのボスだ。

 だが男は敵対組織の殺し屋ではなく、協会に所属しているバウンティーハンターである。

 男はターゲットに照準を合わせ、決定的な瞬間を狙う。


「おっさん、僕が協力してやるんだし絶対外すなよ」

「煩い。気が散るだろうが」


 側にいる青年は男とは真逆の優男で、つまらなそうに男の隣で様子を見守っている。

 彼の顔は黒の仮面で隠されており、目の色が薄桃であることとたなびく髪が濃紺の長めのショートであることしか分からないがどうやら美男子のようだ。

 風に揺れるマントは漆黒で、品の良いシャツとベストには銀のボタンが鈍く光っている。

 全身黒で統一された服は夜に溶け込みやすそうではあるが、仕草も含めてどこか気障ったらしい。


 男は青年の存在を無視するかのように狙いを定め、ためらいなく引き金を引く。

 弾は微かな音と共に鋭く一直線に飛び、取引に夢中だったボスの頭を的確に撃ち抜いた。

 血しぶきが飛んだところで周りにいた手下たちが状況を理解して狼狽え始め、銃を一斉に取り出しながら辺りを警戒し始める様子が確認できた。


「さっさと取ってこい」

「人使いが荒いな。僕としても完璧な仕事は助かるけどね。じゃあ、いつもの約束の場所で」

「ああ」


 青年は男に笑顔を向け、マントをバサリと翻す。

 その姿が一瞬にしてコウモリへと変化し、廃ビルから飛び立っていった。

 彼が世間を騒がせている怪盗であることはこの街に住むものならば知っている情報だが、人ならざる存在であることを知っている者は少ない。

 男もその一人だ。


「アイツを捕まえた方が稼げるってのに」

 

 怪盗アンノウン。宝石ばかりを狙う怪盗であり、国宝級のお宝を簡単に盗みだす手口はまるで物を簡単に消してしまう手品の様に鮮やかで未だ誰も尻尾を掴めていない。

 しかし気まぐれな性格なのか盗んだ宝石に執着はなく、数日後とんでもない場所から発見されることもある謎に包まれた怪盗だった。

 彼には金持ち連中から賞金がかけられており、捕まえればそれなりに暮らせる金額を稼ぐことができる。

 だが、男はアンノウンを簡単に捕まえられない理由があった。


 +++


 男はいつものように仕事をこなしていたのだが、別のバウンティーハンターに邪魔をされたせいで男がターゲットに狙われて怪我を負ってしまった。

 その時ターゲットの宝石を狙っていたアンノウンに運悪く男の潜伏場所が見つかってしまったのだが、アンノウンは自分の能力を開示し宝石を手に入れるため男にも協力するよう迫ってきた。

 男は元来一匹狼で他人を信用することは無かった。

 だが、怪我の具合とアンノウンの提案を思案した結果、アンノウンを一旦信用することにしてその場は手を組むことに決めた。


 +++

 

 初めての共闘以来、アンノウンは時折男の前に姿を現しては協力を迫ってきた。

 しかも、男にとっても悪くない条件を提示するため自然と協力関係にならざるを得ないのだ。


 (奴の手口にはまって(はま)っているようで、気に入らない)

 

 男は心の中で毒づいてから起き上がり体勢を整えると、何事もなかったように銃をケースへ仕舞い屋上から姿を消した。

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