望遠鏡で見た彼方
俺は親が寝静まったことを確認して家を飛び出した。
自転車で少し下った踏み切りに向かうがあいつの姿はまだない、いつもそうだ、もう慣れたけど一回ぐらい先に着いとけよ。誰もいないフミキリの先を見ながらぐちぐち文句を言ってるとやっと自転車のライトが見えた。
「かなた!遅いよー、早くいこーぜ‼︎」
踏み切りを渡るかなたに急かすように声をかけ、自転車を漕ぎ出す。
「2分ぐらい許してよ、望遠鏡持って自転車乗るの大変なんだから」大袈裟に荷物を抱えてかなたは言う。
2人はここから自転車で15分ほどの丘を目指した。
「俺早く流れ星見たい!来週の金曜日もしようよ、天体観測!」
俺らは毎月、週末の金曜日に天体観測をしていて今日で3ヶ月
つまり3回目の天体観測なわけだ。
「そんなすぐ流れ星見れないよ、それに来週もしたらそら寝ちゃうよ」
「3歳しか離れてないのに子供扱いするなよ!俺が寝たらかなたも寝ちゃうよ、どーせ」
「俺は寝れない。ちゃんと子供を見ててあげないと」
ちらっと俺の方を見て追い越してった。
かなたの背中の先にはあの丘が見えてきて俺も負けじと爆速でチャリを漕ぐ。
勢いよく丘を登り息切れの俺の後から余裕そうな顔でかなたがやってくる。手際よく望遠鏡をセットし「そら、もう見えるよ」そう声が聞こえて飛んでった。
俺は望遠鏡で月を見るのが大好きだ。
今日は下弦の月で暗い部分と明るい部分の差がよく見えて面白い。
「あんまり雲がなくてよかったね、月きれい?」かなたは右手に懐中電灯を持って星座の図鑑を広げていた。
「綺麗だよ、かなたも見る?」
俺たちは毎回月の観察から始める。何回見ても見飽きないけど初めて見た時は目ん玉が飛び出るぐらいびっくりした。
俺たちが初めて会った日だ。
星が大好きすぎて俺は夜の11時に1人で散歩していた。
ぼーと歩いてたからどれくらい経ったか分からないけどその日はやけに星が綺麗でずっと上を見ていた。
急に地面が無くなって気づいたら俺は水浸しになっていた。
そこが川だとゆうことに気づいたのは数秒後だった。
「大丈夫?今助かるからちょっと待ってて」
目の前の家の2階、ベランダからあいつがのぞいてた
タタタとサンダルで川の方へ駆け寄り手を差し伸べる。見られてたのが恥ずかしくて、あいつがカッコよくてドキドキした。
「空ばっか見て歩いてたらダメだよ」って言いながら持ってきたタオルで頭を拭いてくれた。
「服貸してあげるから家に上がりな」
玄関に上がったがやけに静かで人のいる気配が無かった、夜遅かったから寝てたのかも。
2階に上がるとそんな事は頭から一切消えた。部屋が宇宙だらけだったからだ。
月のポスターに宇宙柄の掛け布団、おまけに勉強机に散らばってる文房具も宇宙一色。俺に負けず劣らずの宇宙ヤローだ。
目を部屋の奥にやると彼がのぞいていたベランダがあった
そこには望遠鏡が置かれている。
「きみも宇宙好き⁇」彼が腰を曲げて俺の顔を覗き込む。
「うん好き、あれ望遠鏡?」
「そうだよ、みたい?」
「見たい!」
もちろんみたいに決まってる、望遠鏡で月を見るのが俺の夢だった。
割とすぐ叶った俺の夢は想像以上だった。
初めて見る月の表面、本で何回も見た光景が目の前にあった。
何分ぐらいのぞいてたかは分からないが目の周りには丸く形が付いててあいつにすごく笑われた。
今ではいい思い出だ。
「来月も綺麗に見れるかな?」
俺が聞くと「うーん、」と難しい顔をして言った。
「来月は6月だから雨が降るかもね。」
俺は絶対降ってほしく無くて家に帰っててるてる坊主を作った。