1話
ワシの名前は…遠い昔に忘れてしまった。だがみんなからは地獄の"エンマ大王”と呼ばれている。見た目は10歳くらいの幼女なのは気にしないでほしい。コンプレックスだから。
そんな私だが
「エンマ様、天界と戦争をしましょう。これ以上天界の好き勝手にはさせてはダメです。」
現在、部下にどえらいことを言われている。
「これで5回目だろ。何度も言うがワシは天界と...」
「はぁ、またそれですか。それで何年経ったっていうんですか?」
「だからって戦争を起こしていいなんで義理はねーよ。話がそれだけなら帰れ。仕事しろ。」
「これが最後です。あなたの力があれば有利に事を進めることもできます。私たちと一緒に…」
答えは決まっている。もちろん
「断る」
「力があるというのに行使しない。本当に無駄ですよ。」
いい加減私の堪忍袋の緒が切れた。
「お前、ワシがいつまでも穏便だと思うなよ。部下としての口の利き方を知りたいか?」
脅しのつもりで手から大量の炎をだした。
すると、
「落ち着いてください、エンマ様こんなところで力を使わないでください。」
「あぁ、すまない。」
こいつは長年というか900年間くらい私の側近を務めていて私が唯一気を許せる部下である。
しかし、その唯一気を許せる側近が突然ポケットからデカい手錠をだしたと思えば、それを私の右手の手首に付けてきた。
──は?
あまりに急すぎたため反応ができなかった。
「な、何すんだよお前…」
「すみません、エンマ様は尊敬をしています、しかし彼女の言うとおり天界に不満を持っているのも事実です。」
私は咄嗟に手錠を外そうとさっき同様、大量の灼熱の炎を出そうとした。
しかし、出るには出るが少量の炎しか出なかったのである。
「な、なんで?クソッ!」
「無駄ですよ、それはエンマ様の力をほぼ抑えることが出来る優れものです。お似合いですよ。」
「あぁ、そうかい」
私は手錠を外すことを諦め、相手の方に飛び込み、直接手を出すことにした。
しかし彼女の前にイカつい男たちが盾になるように立ちはだかってきた。
──なめんな、こいつらごと”吹っ飛ばす"
そのつもりで殴った。が、そのようには行かず、1人しか吹き飛ばすことができなかった。どうやら相当弱体化してしまったようだ。
「ちっ…」
そのままワシは一気に取り押さえられ身動きが取れなくなってしまった。
「さすがはエンマ大王、力をほぼ失ってでもなおこの力とは…だがもう終わりだ。」
そういい終えるとワシの頭に付けている王冠を取り、自分の頭につけた。
「無駄だぞ、それは一定の支持力がなければ使えない…」
するとワシを小馬鹿にするように笑い
「あるんだよな、それが。まずここにいる全員もそう、そしてこの地獄にいる民にもな。私はこの時のためにコツコツと布教して言ったんだ。そしたら私みたいに天界への不満があるやつはわんさかいたぞ。」
そうして手を前にかざし
──しまった、王冠が使われれば…
私は全身の神経を集中させ取り押さえている奴らを振り払った。そして急いで王冠に手を伸ばした。
だが、1歩遅かった。
『扉よ開け、ここにいる罪人を無限の地獄へ』
その瞬間後ろに扉が現れた。
──クソったれが…
その扉が開き、私は足掻くも、まるで意味はなく扉の中に吸い込まれてしまった。
「そこでじっとしていてくださいね。」
◼️◼️◼️
起きるとそこは嫌というとほど知っている塔があった。
──あいつとんでもないとこに飛ばしやがったな…ん?あれは…
駆け寄るとそこには人間で言うと20代くらいの女性がいた。いきなりここにとばされてしまったようでかなり動揺しているようだ。
ワシはその少女と目が合い、話すことにした。
「奇遇だね、ワシと一緒に落ちてくるなんて」
「え、幼女?」
「誰が幼女だ。こんな見た目でも一応9000歳は超えとるぞ。」
「え、ええとここってどこなんですか?」
無理もない反応だ。いきなりデカい塔の前で目を覚ましたんだ、そりゃ驚く。
「ここは1番刑罰の重い人がいく最悪の場所、無限地獄だ。」
少女は唖然としていた。
「まぁ、時期にわかるさ。それより君…」
通常、地獄に落ちてきたものには皆、手の甲に紋章が刻まれる。だがこの子の手を見てもそれらしきものは無かった。
つまり…
──あーなるほど…そうか気の毒に…
「ど、どうしたんですか、私の手の甲に何かありました?」
「い、いやーちょっと言いにくいんだけど…君間違ってここに来てるよ…えーとだから…」
とりあえず説明した。
「えーとつまり…天界のミスでこの無間地獄に落とされたってコトォ?!」
「えーはい、詰まることそう言うことですね…あはは…」
──なんか、申し訳なくなってきた…
「とりあえず!!こちらにも少しは責任あるし、ちゃんと君をこの無限地獄から出してあげるよ!!」
「えーとその前にあなたは誰なんですか?ここを知ってるみたいですけど…」
「ワシ?ワシは”エンマ大王"さ!!」
しかし、反応がなかった。
──あれ、聞こえなかったかな。
もう1回自信満々で
「ワシは"エンマ大王”さ!!」
「はい、とりあえずここを出る方法教えて。」
──ガン無視かよ…
「ここを出たいならこの無間地獄の塔を昇る、それだけだよ。まぁ、そう簡単にはいかんけどな。」
「なんで?」
「この無限地獄を脱した人はこの地獄ができてから"1人”も居ないから、じゃの。」
この塔は大きく5層に別れていて1層につき10階、だから合計で50階ある。そして、各層にはそれぞれ担当の門番がいる。
第1層 罪の間
ひたすら化け物がいる。
第2層 極寒の間
ひたすら寒い。
第3層 灼熱の間
ひたすら暑い
第4層 叫喚の間
ひたすら不快
第5層 暗黒の間
ひたすら暗い
そして1番重要であることは死ぬことがなく傷もできない、ということだ。
「なるほど、死なないならできそうじゃないんですか?」
「最初は皆そう言うさ。だが死にはしないだけで痛みはすごいんじゃよ。だから1番最初の1層を乗り越える人はわずか2%そこから2層3層と上がっていくにつれどんどん生存率は低くなる。」
それを聞いた途端絶望の顔へと変わっていった。
「私、本当にでられるんですか?」
「安心しろ、絶対に出してやんよ。なんせワシは"エンマ大王”なんだから」
「それ本当に言ってんですか?」
──こいつ失礼じゃの…まぁいい
私は軽くため息を吐き、塔の扉を開けた。
「詳しくは塔の中に入ったら説明するよ。あ、名前を聞いてなかったな人間。」
「私の名前は柏木ゆず、あなたは…」
ワシは何千年も生きてるうちに忘れてしまった。とりあえず
「あーエンマとでも呼んでくれ。」
◼️◼️◼️
第1層 罪の間
塔に入って数十分後…ワシたちは1層の3階に来ていた。
「おーい、ゆず。あんまり離れんなよ怪我するから」
第1層はひたすら化け物が出てくる、がこの程度の化け物じゃ弱体化した私でも倒せる。グーパンで。
──問題はここの門番だ…
本来門番は対象の人物が前世での罪を反省しきるのを確認すれば次の層にいける。
だが、あの反逆者どもも馬鹿じゃない。おそらく各層の門番に話をつけているはずだ。何がなんでもエンマを通すな、と。
「そういえばエンマってなんでエンマ大王なんでしょ。なんでこんな所にいるの?」
「あーそれな、実は…」
ワシが部下の反乱によってエンマ大王の座をおろされた話をゆずにした。
「みたいなことがあって現在、力がほぼ抑えられてる状態なんじゃよ。」
するとゆずは悲しげに
「ひどい、でもなんでわざわざそんなことを…」
「まぁ、憶測でしかないけど奴はエンマ大王の力を使って天界と戦争するつもりじゃろうな。」
「えーと、さっきからちょくちょく言ってるけど天界ってなに?」
確かにここに来たばかりの人間であれば当然知らないはずだ。
「えーと天界ってのはお前らがいう天国、悪いことをせず真っ当に生きてたやつを世話するところじゃな。本来お前が言ってた場所じゃ。」
そして天界に戦争を仕掛けた理由も恐らくこれが関係してる。どうせ、地獄では罪人の処理やら泥臭い仕事しかないというのに天界といえば…みたいな感じだろう。
「あ、あともう1つ聞きたいんだけど、なんでここに人が1人も居ないの?絶対に死なないなら1人くらいいてもおかしくないんじゃ?」
「あーそれか、死なないとは言ったけど1つだけ死ぬ方法があるんだよ。それはこの無限地獄を出ることを完全に生きる希望を失った時…そいつはこの世界から完全に消える。」
ゆずはかなり驚き少し怯えているのが分かった。
「だ、大丈夫だよ!!そんなことにはさせないから!!それとここに人が居ないのは単純に数百年前に無間地獄を閉鎖しただけだよ。」
「で、でもぉ…」
ゆずを慰めつつそのまま上の階に向かった。ワシは1つ嘘を着いている。この無間地獄で死んだやつは消失するわけではなくここを徘徊している化け物に変わってしまうことを。
──これ言うとゆずもビビっちゃうし言わない方がいいよね。
すると手前から異様な雰囲気を感じ取った。
「おっと、そろそろ門番さんのご登場のようじゃ」
そこには今までとは明らかに違うオーラを持っている化け物がいた。
──できれば話し合いで終わらせたい所だが…その気はなさそうだ…
「お久しぶりですね"元”エンマ様。お似合いですよ、その手錠。」
「あぁ、それ言われたの2回目だわ。てめーも、ワシにやられた傷が似合ってんな。」
拳をポキポキとならし
「じゃあ始めようか。ゆずは下がっとけ。」
お互い地を蹴り、勝負は始まった。
──弱体化したワシがこいつにどこまで戦えるか…
しばらく乱戦状態になったが、ワシの攻撃はほとんど通じていない。
「相変わらず、ゴリ押しの戦闘スタイルですね。いくら死なないとはいえ、エンマ様でもお辛いでしょう"ね"!!」
その瞬間私は蹴り飛ばされ壁に思いっきりぶつかった。その衝撃が襲ってくる。
「カハッ」
「弱体化したというのにこの強さか…さすが1000年間続いた戦乱をたった1人でまとめあげただけある。」
するとゆずが心配するように近ずいてきた。
「エンマ!!大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃ、今すぐ下がっとれ。」
「私になにかできることとかない?」
「ない」
立ち上がろうとしたが足に上手く力が入らない。
──ここで負ける訳には…
「おやぁ、どうやらキツそうですね。」
相手はどんどん近づいてくる。
その時
「なんだ、邪魔をするのか人間風情が」
ワシの前でゆずが手を広げ庇ってくれた。
「よせ、ゆず。そいつは冗談の聞く相手じゃない。」
しかし、ゆずは全く聞く素振りをせず
「私からしたら、あなたなんてただのか弱い女の子でしかないんだよ。なのに、そんなボロボロで…黙って見過ごせるわけがない!!」
──ワシがか弱い女の子か…今まで生きてきた中で初めて言われたわい…
自分の体を奮い立たせ、なんとか立ち上がったてみせた。
「ゆず、できることはないか?と言ってたな。さっきワシが倒した化け物に武器を持ってたやつがおったろ。それを取ってきて欲しい。」
するとゆずは張り切った声で「分かった」と言いそのまま下の階へと降りていった。
すると相手は「フフフッ」と笑っていた。
「なんだ、何かおかしいか?」
「いやー呆れてるだけですよ。あなたであろうお方が人間の力を借りるとはってね。」
「うるせぇな、お前はこんな狭い世界しか見てないから分からん無いだろうから分かんないと思うが案外人間にもいいやつは沢山いるぜ。」
「ふん、戯言だな」
そして、再び戦いが始まった。
―――――
――…
戦況は相変わらず不利の状態が続いた。
「さっきまでの威勢はどうしましたか。エンマ様」
──まずいな、防戦一方になっている。そろそろ限界も近い。
その時、
「エンマ!!おまたせ!!」
ゆずが手に刀を引きづりながら戻ってきた。
「ゆず!それをワシに投げろ!!」
一瞬困惑していたがすぐに投げてくれた。
「ほほう、武器を持ったところで変わるのですか?」
「さぁ、それは戦ってからのお楽しみだ。」
戦っていると相手はすぐに異変に気づいたようだ。
「あなた、首をずっと狙ってますよね。」
「正解♪」
いくら攻撃が通らないとしても地道に削ればどんな者でもいずれは倒れる。
「だが、首さえ守れば終わる話…」
──まぁ、そうなるよね。だがありがたい、おかげで"動きが読みやすくなった"。
今度は別の箇所を集中狙いしていくことにした。その箇所に少しでも意識が向いた瞬間今度は首を狙う。
続けていると、相手もだいぶ混乱してきたようで防御が雑になってきた。
「人間を信じたワシの勝ちじゃ!!」
「クソッ」
雑になった防御を貫通し首に刀を打ちつけ相手は倒れていった。
「か、勝ったーーーー」
しかし、私も意識があるが疲れと痛みで倒れてしまった。
──痛みが蓄積されて体が全然動かせない…
「今回はゆずのおかげじゃ。本当にありがとう。」
「いや、私なんて何にもやってないよ。」
──もし、ゆずが居なかったら刀があったにせよ、負けていただろう…
「よし、ゆず。さっさとあの扉を開けるぞ。こいつが起きる前に。あとワシをおぶるんじゃ。」
「あはは、分かったよ。これであと4層か…私、エンマに命を預けるよ。最後まで一緒に戦おう。」
「え?あ、言い忘れてたけど、このまま4層を真面目に攻略するつもりなんてないぞ。」
ゆずはワシをおぶりながら口をポカンとさせプリーズしていた。
「え、それってどういうこと?」
「えーとね、次の2層のどっかにこの手錠を開けられるやつがいるはずなんじゃよ。それでワシの力を解放するんだけど…言ってなかった?」
するとゆずの顔が赤くなり
「言ってないよ!恥ずかしいこと言わせんな!!」