7話 悪い虫?
この世界には色々な種族が暮らしている。
人間族、獣人族、妖精族、精霊族、魔族……などなど。
その中でも獣人族は人間族と仲が良い。
互いに国交を結び、多くの人が行き来している。
ココアもその一人だ。
幼い頃、母が読んでくれる人間族の本が好きだった。
弱気を助け悪をくじく、ありふれた物語。
でも、そんな英雄譚がココアは好きだった。
幼い頃に抱いたきらめきは、やがて夢に昇華する。
本のような英雄になりたい!
かくして、ココアは冒険者になるために、人間族の国に向かう。
剣は得意だ。
将来の夢に向かい、自己流ではあるが、毎日鍛錬を積んできた。
だから、それなりに強いという自負があったのだけど……
謎の襲撃者によって、そのプライドは粉々に打ち砕かれた。
いきなり襲いかかってきた男を相手にしたら、まるで歯が立たなかった。
必死に抵抗したものの、こちらの剣は届かない。
遊ばれて、いたぶられるだけ。
どうにかこうにか隙をついて逃げ出したものの、すぐに追いつかれてしまう。
悔しさに涙が滲む。
無様に捕まるくらいなら死を選ぶ覚悟でいた。
そんな時、リアンに出会う。
彼は気づいていないようだけど……
初めてリアンを見た時、ココアは全身が震えた。
自慢の尻尾がぶわっと膨れて、ついでにぴーんと逆立つ。
なんだ、この人間は?
見た目は同い年くらいの少年だけど、とんでもない力を感じる。
ありえないほどのオーラを感じる。
死神が人間に擬態していると言われたら、即座に信じていただろう。
それほどまでに少年が放つプレッシャーは圧倒的だった。
でも少年は優しかった。
怪我の治療をしてくれて、ごはんも分けてくれた。
さらに男から守ってくれた。
圧倒的な力で撃退してくれた。
その力をリアンはいまいち自覚していない様子だった。
「ティア姉とフィアはすごく強いし、冒険者としてはまだまだだね、って言われているから、もっとがんばらないと!」
なんてことを言っていたけど、いまいち意味はわからない。
それはそれとして、もう一つ疑問があった。
どうして、ここまでよくしてくれるのだろう?
見ず知らずの相手にこんなに優しくしてくれるなんて、どうしてだろう?
不思議に思うココアに対して、リアンは当たり前のように言う。
誰かを助けることに理由はいらないと思うけど。
その言葉はココアの心の深いところに突き刺さる。
「リアンはすごいな。あたしとは大違いだ」
英雄に憧れている『だけ』のココア。
対するリアンは、英雄をその身で体現している。
真の英雄はリアンのような者を指すのだろう。
「リアン・シュバルツァー……どんな人間なんだろう?」
知りたい。
もっとリアンのことを知りたい。
そして……
あれこれと考えるココアは尻尾を忙しなくフリフリさせて、ついでに、ほんのりと頬を赤く染めていた。
――――――――――
王都の冒険者ギルド。
そこには超特急で依頼を終わらせようとする剣聖と賢者の姿があった。
「「むっ!?」」
ふと、同時に動きを止める。
「「今、大事な大事なリアン君に悪い虫がついたような?」」
どうでもいいことに勘が鋭い姉妹だった。
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