4話 姉妹会議
「第一回、姉妹会議を開催したいと思います」
シュバルツァー家のティアハートの部屋。
寝間着姿の姉妹が集まっていた。
まだ早い時間だけど、リアンはすでに寝ている。
さすがに煉獄の特訓で疲れたのだろう。
「議題は、リア兄の異常な身体能力について」
「うん……リアン君のことを異常とか言いたくないけど、でも、あれは本当に異常だよね」
「あれ、姉さんに匹敵していませんか?」
「んー……正直なところを言うと、かなり近いところまで来ていると思うわ。ただ、それは身体能力だけの話。技術は素人もいいところ。フレイムリザードに岩で殴り合いを挑むのがいい証拠ね」
「ですが、姉さんに近い身体能力を持つというだけで、色々とおかしいのでは?」
「そうなんだよね……リアン君、いつの間にあんな力を?」
「推測ですが」
フィアムーンは考えるような仕草をしつつ、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「リア兄が冒険者に憧れるようになったのは、ここ最近じゃないと思います。たぶん、ずっと前から憧れていて……それで最近、想いが爆発して冒険者になりたい、って言ってきたのかと」
「それで?」
「憧れを抱いた時から、リア兄なりに、こっそりと訓練を積んでいたのでは?」
「あー……確かに。その可能性は考えていたよ」
姉妹の目を忍び、こっそりと筋力トレーニングなどを行うリアンの姿が思い浮かぶ。
二人の目を盗むことは簡単だ。
日中、姉妹は冒険者としての活動に出ているため、その間に秘密の訓練をすればいい。
「でも、それだけであそこまでの力を手に入れることができるかしら?」
「普通は無理ですが……シュバルツァー家ですからね。私達だけじゃなくて、リア兄も才能があった。同じ血が流れていた……そういうことなのでは?」
「そっか……リアン君も、シュバルツァーの血が流れているんだものね」
「私としては、実は血が繋がっておらず姉妹で結婚、というルートも捨てがたいですけどね」
「それはアリだね!」
「でも私は、姉妹で禁断の愛も捨てがたいです」
「それもアリだね!」
妙なところで意気投合して話が脱線してしまう。
ただ、すぐに姉妹は真面目な顔になる。
「まいったわね。無理難題をふっかけて諦めてもらおうと思っていたんだけど、この様子だと、大抵のことはクリアーされちゃいそう。かといって、本気で死ぬような課題を与えるわけにはいかないし……」
「ふと思ったんですけど」
フィアムーンは真面目な顔で言う。
「もういっそのこと、リア兄を冒険者にしてしまった方がいいのでは?」
「え? でも、冒険者は危険なこともするから……」
「はい。リア兄は私達においしいごはんを作ってくれて、家に帰ったら天使のような笑顔で迎えてくれて、たまに一緒に寝る。そうやってずっと一緒にいてもらう予定でしたけど、こうなると考え直した方がいいかもしれません。あそこまでの力があると、私達が気をつけていたとしても、今後、リア兄がなにかしらの事件に巻き込まれてしまうかもしれません」
「それは……そうね」
「血の問題もあります」
「ええ、わかっているわ。私達が望まなくても、リアン君が表舞台に出ることになるかもしれない」
「なら、その前に私達が舞台を用意する。そうすれば、ある程度は安心できるのではないかと」
「うーん」
ティアハートは悩む。
妹の言うことはわからないでもない。
というか、正しいだろう。
予期できないからこそ不測の事態なのだ。
そんなものに巻き込まれる前に、自分達でできる最大限のフォローをしておいた方がいい。
「そしてなによりも」
「なによりも?」
「リア兄が冒険者になれば、パーティーを組んで日中も一緒にいることができます!」
「乗った!」
迷いは一瞬で吹き飛んだ。
そもそも前から不満に思っていたのだ。
冒険者としての活動に出る日中は愛しいリアンと一緒にいることができない。
リアンには家を守ってもらっているのだから、それは仕方ないのだけど……
それでも、できるなら四六時中一緒にいたいと思うのが姉妹の想いだ。
愛だ。
どうにかできないかと考えていたものの……
そうだ。
リアンも冒険者になって、一緒のパーティーを組めば問題解決だ。
なんて素晴らしいアイディアなのだろう。
「さすがフィアね。ナイスアイディアよ」
「ふふ、ありがとうございます」
「それじゃあ、決まりね。私達は全力でリアン君のサポートをして……」
「そして将来的に、同じ冒険者になったリア兄と一緒に楽しい時間を過ごすのです!」
姉妹はニヤリと笑い、がんばろうと激励の意味を込めて握手をした。
――――――――――
「え? 俺が冒険者になるのを応援してくれるの?」
朝。
ごはんを食べていると、そんな話が飛び出してきた。
「ええ。昨日、フィアと話し合ったんだけど、その方がいいかな、って」
「リア兄の想いはしっかりと感じました。なら、反対するのではなくて応援した方がいいと思いました」
「ティア姉、フィア……ありがとう!」
「「ふぁ!?」」
二人の手を取り、感謝を伝えるようにぎゅっと握る。
なぜかティア姉とフィアの顔が赤くなる。
手を握ったから暑くなったのかな?
そう思い手を離すと、なぜか残念そうな顔をされてしまう。
「じゃあ俺、冒険者になれるの!?」
「落ち着いてください。望んだからといって、すぐになれるようなものではありませんよ」
「あ、そっか。ごめん、嬉しくてつい」
「冒険者になるには色々な段階を踏んでいかないといけませんが、まずは、このまま私達の特訓を継続しましょう」
「特訓を?」
「リアン君は冒険者の才能があると思うわ」
「本当に!?」
「でも、現時点ではダメダメ。スライム以下ね」
「……スライム……」
容赦ないダメ出しに凹んでしまう。
「……姉さん、さすがに言い過ぎではありませんか?」
「……リアン君だから心配ないと思うけど、万が一、俺はやれるんだ! とか増長しちゃったら大変でしょう?」
「……リア兄なら大丈夫だと思いますが」
「……あと、凹むリアン君可愛い」
「……なら良しですね」
二人共、小声でなにを話しているんだろう?
「だから、これからきちんと特訓しましょう」
「立派な冒険者になれるように、私達がしっかりと面倒を見てあげます」
「ティア姉、フィア……ありがとう」
優しい姉と妹を持つことができて、俺は幸せものだ。
危うく涙が出てしまいそうになる。
「それじゃあ、これから毎日、特訓をがんばりましょう」
「うまくいけば、三年くらいで強くなれると思いますよ」
「うん。俺、がんばるよ!」
こうして俺は、冒険者になるための第一歩を踏み出すことができた。
将来の夢は、立派な冒険者になること。
そして、姉や妹のような英雄になること。
さあ、がんばろう!
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