30話 姉は剣聖、妹は賢者、そして弟は……
スタンピードの卵から一週間が経った。
奈落に次ぐ事件の連続。
ただ、一連の事件には黒幕がいて、彼女は逮捕された。
ライズ先生は黒幕であるセシリー・スケールアルドを排除したいと願い、ティア姉とフィアと組んで色々と動いていたらしい。
この際だから大掃除をしようと、学校に絡む他の厄介者達もまとめて排除したらしい。
そうして色々な事が慌ただしく動いて。
環境が変わり……
でも、俺の周りにいる人達は変わらない。
――――――――――
「おはよう」
「おはようだ!」
「おはよ、リアン、ココア」
いつものようにココアと一緒に教室に向かっていると、途中でミレイと合流した。
最近は、こうして短い通学を一緒に楽しんでいる。
やっぱり平和が一番だ。
あの時、学校を守ることができて本当によかった。
まあ……
けっこうな無茶をしたせいで、ティア姉に泣かれてフィアに思い切り怒られてしまったけど。
俺はまだまだ弱い。
これからたくさん勉強して訓練をして、強くならないとな!
「……なんか、リアンがまた見当外れなことを考えていないか?」
「……考えているわね、この様子だと」
「……まあ、でもそれがリアンらしいか」
「……ふふ、そうね」
二人も仲が良いようでなによりだ。
――――――――――
「リアン君!」
「リア兄!」
放課後。
帰宅の準備を進めていると、ティア姉とフィアが勢いよく教室にやってきた。
「どうしたの、二人共」
「ちょっと来てほしいところがあるんだけど、時間あるよね? ヒマだよね?」
「大丈夫だけど……」
「よかった。あ、ココアちゃんとミレイちゃんも一緒にどうぞ」
「え? あたし達も?」
「なにかしら?」
案内されたのは、寮のティア姉とフィアの部屋だ。
花が飾り付けられている。
それと、テーブルの上にはたくさんの料理と飲み物。
驚く俺達に向けて、ティア姉とフィアがクラッカーを鳴らす。
「「入学、おめでとうー!」」
これは、もしかして……
「ふふ、驚いた? サプライズパーティーだよ♪」
「ちょっとトラブルがあったので延期していましたが、ようやく実行することができました」
「入学おめでとう、リアン君♪ ココアちゃんとミレイちゃんも、おめでとう。これからもリアン君と仲良くしてね?」
「でも、ほどほどで十分ですからね? 必要以上に仲良くなるとか、ダメですよ? 万が一、恋人になろう者なら……ふふふ」
「「ひっ!?」」
フィアの不気味な笑みにココアとミレイが怯えていた。
それはともかく。
「ありがとう、ティア姉! フィア!」
「「ふぁっ」」
二人の手を取り、ぶんぶんと上下に振る。
「こんなサプライズを用意してくれるなんて……ああもう、なんて言えばいいんだろう。とにかく、本当に嬉しいよ!」
「リアン君が喜んでくれてよかった」
「で、でも、そんなに手を強く握られると……はぅ」
握るくらいじゃ感謝を伝えきれないかな?
抱きしめた方がいいかな?
「その辺にしろ、リアン。それ以上したら、ティアハート様とフィアムーン様が喜び死してしまうかもしれない」
「どんな死因よ」
「私、それでもいいわ……今まで生きてきた中で、一番満ち足りているもの」
「私もです……」
「満足の基準がだいぶ低いわね……まあ、せっかく用意してもらったんだから、みんなで楽しみましょう」
ミレイはやれやれと苦笑して、みんなのグラスにドリンクを注いでいく。
みんなの手にドリンクが行き渡り、ティア姉とフィアが立つ。
「ちょっとだけ挨拶をさせてね? 改めて、入学おめでとう。まだ見習いだけど、でも、みんなは冒険者としての第一歩を踏み出すことができた」
「だけど、これから先は平坦な道ではありません。険しい道が続くでしょう。冒険者とはそういうもので、危険と隣合わせです」
「でも、危険に見合う報酬があるよ。それはお金じゃなくて、もっと素晴らしいもの」
「未知の体験や新しい発見。常識を覆すような絶景……例を挙げるとキリがないですね。冒険者をやっていると、そういう『未知』と出会うことができます。それこそが冒険者の報酬と言えますね」
例えば、海底に眠る神殿。
例えば、空の彼方をさまよう浮遊島。
例えば、世界の果てと呼ばれている終着点。
世界は未知であふれている。
その未知を踏破することが冒険者の本来の目的だ。
そして、その過程で得られる経験は何者にも変えられない宝物になる。
仲間と一緒に経験した時間はかけがえのない絆となる。
それらは確かな財産になるだろう。
「みんなと一緒にそれらを乗り越えていくこと、私は期待しているよ」
「そのために、必要な技術と知識を学校で学んでください。私達も応援します」
ティア姉とフィアの言葉に、ココアはキラキラと目を輝かせていた。
壮大な冒険を思い描いているのかもしれない。
ミレイは口元に笑みを浮かべて、不敵な表情を浮かべていた。
どんなものにでも挑んでやる、と強く決意しているみたいだ。
俺は……
「……っ……」
とてもワクワクしていた。
早く冒険者になりたい。
早く旅に出たい。
そんな気持ちで胸がいっぱいだ。
「「最後に一言」」
ティア姉とフィアは、俺達を見て、微笑みつつ言う。
「「冒険者学校へようこそ!!」」
ここで終わりとなります。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
ちょっとコメディ寄りの物語を書いてみたいと思い……
個性豊かな姉妹を持つ少年の物語なんて楽しそうだな、と思い書いてみました。
どうだったでしょうか?
楽しんでもらえたのなら嬉しいです。
よかったら感想などいただけると、さらに嬉しいです。
では、また次の作品で。




