表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

3話 賢者の特訓

 休憩を挟んで、一週間後。

 次はフィアによる特訓が行われることになった。


 彼女の転移魔法で溶岩が吹き荒れる火山地帯に移動する。


「暑いね……いや、熱い?」

「ここは、『煉獄』と呼ばれている危険地帯です」

「すごい名前の場所だね……」

「実際にすごい場所ですよ。『煉獄? 俺はそんなところに行きたくねえ、まだ死にたくないんだ!』って、大の大人が地名を聞いただけで逃げ出してしまいますからね」

「ごくり」

「今日はここで特訓をしますが……怖いですか? 怖いですよね? まあ、私も鬼ではありません。リア兄がどうしてもというのなら、特訓は止めにしましょう。ただし、その場合は冒険者になることも諦めて……」

「それで、ここでどんな特訓をするの?」

「え?」

「すごく怖い場所だけど、でも、冒険者になればこんなところに来ることがたくさんある、っていうことだよね? だからフィアは、今のうちに俺を煉獄に連れてきて慣らしておこう、って思ったんだよね?」

「えっと、いえ、その……」

「大丈夫。俺は、ちゃんとフィアの期待に応えてみせるから。がんばるよ!」

「私が期待しているのは、もっと別の方向なのですが……どうしてこうなった?」


 なぜかフィアが頭を抱えていた。

 その隣のティア姉も頭を抱えていた。


 二人共、どうしたんだろう?


「……ちょっと危ないけど、ここで怖い目に遭ってもらうしかないんじゃない?」

「……そうですね。私達がいれば、どのような危険もリア兄に届けることはないですし」

「……煉獄の環境も怖いけど、ここに生息する魔物はもっと厄介だから。ちょっと試しにぶつけてみるのもありかもね」

「……いいですね。もちろん、怪我なんてしないように魔法はかけておきますよ」

「……それで、『こんな魔物がいるなんてどうしよう!? もうおしまいだ!』ってなったところで、さっそうと私達が駆けつける」

「……好感度、爆上がりですね」

「……そして、『これくらいできないようならダメ』と冒険者を諦めさせることもできる」

「……一石二鳥の作戦ですね。さすが姉さんです」

「……フィアもやるわね」


 なにやら悪い顔をしているような?

 夜、こっそり間食をする計画でも立てているのかな?


「おまたせしました、リア兄。では、特訓の内容を発表しますね」

「うん、お願い」

「特訓の内容は……この先にある、煉獄の『果て』にたどり着くことです」

「果て?」

「簡単に言うと、最北端のことですね。砂漠にオアシスがあるように、煉獄の最北端は綺麗な花畑になっているんですよ。そこに辿り着くことが課題です」

「……言葉だけ聞くと簡単そうだけど、そんなことはないんだよね?」

「ええ、もちろん。煉獄は凶悪な魔物があふれているだけではなくて、地形にも気をつけないといけません。気を抜いたら溶岩に飲み込まれた、なんてことになるかもしれません。それでも……」

「よし、がんばらないと!」

「……」

「あれ、どうしたの?」

「いえ、なんでも」


 怖いもの知らず? なんて言葉が聞こえてきたけど、意味がわからない。


「と、とにかく、特訓を始めましょう」

「私達はゴールで待っているから、がんばってね」

「では、開始です!」


 そして、フィアが主導で行う特訓が始められた。




――――――――――




「なるほど……これは確かに厳しいな」


 煉獄の探索を始めて、1時間くらい経っただろうか?


 ティア姉のように百メートルの長距離ジャンプはできないし、フィアのように転移魔法なんて使えないから、地道に歩いていくしかない。

 でも、地面が凸凹で歩きづらい。


 それに周囲で溶岩が吹き上がり、その熱波が常に押し寄せてくる。

 じっとしているだけでも体力がごっそりと削られてしまう。


「水も限りがあるから、急いだ方がいいな」


 途中、溶岩の川に行き当たってしまう。

 困っていたのだけど、中に小さな岩があることに気づいて、それを足場にして飛び越えた。


 その後、でかいトカゲに襲われた。

 魔物だろうか?


 最初は逃げたものの、数が多いせいで囲まれてしまう。

 仕方ないので近くに落ちていた岩を叩きつけて、喉を踏み抜いて倒す。

 まともな実戦はこれが初めてだったけど、意外といけるものだ。


「ふぅ、さすがに疲れるな。でも、まだまだいける。がんばろう!」


 果てを目指して、俺はひたすらに足を動かしていく。




――――――――――




「「……」」


 フィアムーンの魔法を使いリアンの様子を見ていた姉妹は唖然とした。


 小さな岩を足場に溶岩の川を飛び越える?

 正確に着地して、再び飛び上がる力が要求される。

 そしてなによりも鋼の心臓のような度胸が必要なのだけど、リアンはあっさりと難所を乗り越えた。


 途中、フレイムリザードの群れに襲われた時は、さすがの姉妹も慌てた。


 Bランクに匹敵する個体だ。

 ベテランの冒険者でも、フレイムリザードに遭遇したら逃げ出すしかないと言われている。


 それが十以上。

 世界で一番可愛いリアンの大ピンチ!

 ティアハートとフィアムーンは慌てて飛び出そうとしたけど……

 それよりも先に、リアンはあっさりとフレイムリザードを倒してしまった。

 しかも、研ぎ澄まされた名剣などではなくて、そこらに落ちている岩で。


「「ありえない」」


 姉妹の声がハモる。


 フレイムリザードはBランクなのだ。

 ベテラン冒険者でも苦戦する相手なのだ。


 それを岩で倒すなんて無茶苦茶すぎる。

 しかも、リアンはかすり傷一つ負っていない。

 敵の攻撃を全て避けていた。

 最小限の動きで、ミリ単位で完全に見切っていた。


 圧勝だ。


 いったいどういうこと???


 ドラゴンを倒して。

 魔族を倒して。

 その戦いの時も動揺することなく、冷静さを保っていた二人だけど、今この時は思い切り混乱してしまっていた。




――――――――――




 ここは足を止めたらいけない場所だ。


 常に危険が隣り合わせ。

 下手に立ち止まれば、そのまま……なんてこともありえる。


 そう判断した俺は、ひたすらに前へ進んだ。

 休憩は最低限。

 でも、警戒は最大限。

 そうやってゴールを目指して……


「ふぅ、やっとついた!」


 3日ほどで煉獄の果てに辿り着くことができた。

 フィアが言っていたように、そこはとても綺麗な花畑だった。


 そんな場所に、花に負けないくらい綺麗な女の子が二人。

 ティア姉とフィアだ。


 なぜか二人は目を大きくして驚いている。


「ティア姉? フィア? どうしたの?」

「……え? あ、うん」

「……すごく早かったですね」

「がんばったからね」

「……がんばりでどうにかなるレベルじゃないんだけど」

「……リア兄ってバグってません?」

「……優しくて家事万能で運動も勉強もできて、とんでもないハイスペックな弟だなあ、とは思っていたけど、まさか戦闘もできるなんて」

「……わりと自覚してないみたいですよ。災害であるフェニックスを鳥と言って、凶悪なフレイムリザードをトカゲとか言ってのけましたからね」

「……おかしいね」

「……おかしいですね」


 なにやら小声でよくわからないことを言う。


「それにしても、本当に綺麗な場所だね。今度、みんなでここにピクニックに来たいね」

「……煉獄にピクニックに行きたいっていうリアン君の感性」

「……なんかもう、なにもかも見なかったことにしたいですね」

「どうしたの、二人共?」

「「なにも」」

「ところで、今回の特訓は成功でいいんだよね?」

「「あ、はい」」

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


「面白い」「続きが気になる」「長く続いてほしい」と思っていただけたら、

『ブックマーク』や『評価』などで応援していただけると嬉しいです!


評価などはモチベーションに繋がるので、どうか応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=246729578&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ