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28話 黒幕

「ふふ」


 セシリー・スケールアルドは口元に浮かぶ笑みを扇で隠した。

 そうしている間にも、冒険者学校で起きたスタンピードの卵について、色々な情報が入ってくる。


 冒険者学校の近くに臨時で設置された、スタンピードの卵の対策室。

 無関係ではないということで、セシリーは会議に参加していた。


 口を挟むことはしないで成り行きを見守っている。


「ですから、手遅れになる前に魔法による爆撃をするべきです! 卵ではなくなり、本格的なスタンピードが発生したらどれだけの被害になるか」

「しかしですねえ、ウチの生徒がダンジョンに突入したという報告があるんですよ。もうちょい、信じて待ってもらえませんかねえ?」

「ふん、見習いになにができる。すでに殺されているだろう」

「そうだ、見習いなんかに期待などできん」

「こうして議論をしている時間も惜しい。すぐに爆撃で入り口を塞ぐべきだ。それで冒険者学校が巻き込まれたとしても、それはもう仕方ない」

「……ちっ」


 ライズは舌打ちをした。


 この連中、一見するとまともなことを言っているように見えるが、その実、保身しか考えていない。

 スタンピードが起きた場合、自分の財も被害を受けてしまう。

 また、責任を追求されるかもしれない。


 だから、そうなる前に片をつけたいのだ。

 冒険者学校のことも、ダンジョンに突入したリアン達のこともどうでもいいと考えている。


 ライズは殴り倒したくなる気持ちを我慢しつつ、あれこれと言葉を重ねて必死に時間を稼ぐ。

 今は、とにかく時間が欲しい。

 そうすれば……


「もういい!」


 国に仕える高官が大きな声を出した。


「私の責任で爆撃を許可する」

「しかし、それは……」

「これ以上の議論は無駄だ。今は、犠牲を出したとしても仕方ない。手遅れになる前に行動に移らないといけないのだ。民とその財産が危機に晒されているのだぞ」


 あんたらが気にしているのは自分の財産だけだろう。

 そう叫びたくなるライズだけど、ぐっと我慢した。


「これは決定事項だ。異論は認めない!」

「いいえ、異論を唱えさせてもらうわ」

「そのような暴挙、認めません」


 その時、救世主となる二人の女声の声が響いた。

 ティアハートとフィアムーンだ。


 ざわつく人々を気にした様子はなく、二人は高官のところへ。


「ダンジョンに突入した生徒がいるにもかかわらず、魔法で爆撃とか正気? そのような暴挙、王は認めないと思うけど」

「し、しかし、これ以上の被害を出すわけには……」

「そのために私達がいます。仮に、本物のスタンピードが起きたとしても、姉さんと一緒に秒で制圧してあげますよ」

「うぐ……」


 この姉妹なら可能だ。

 それを知る高官は反論の言葉を失う。


「ま、まあ……あなた達が出てくれるというのなら、これ以上、心強いことはない。爆撃は、最後の最後の手段にしよう」

「そ、そうだな。被害拡大の心配がないのなら、犠牲が出ない方がいい」

「うむ、うむ」


 他のメンバーも次々と賛同した。

 それに苛ついたのはセシリーだ。


「甘いわね」


 パチンと扇を閉じて、怒りの形相で言う。


「剣聖と賢者に任せれば全て解決、なんて都合のいい話はないわ」

「いや、しかし……」

「この二人なら……」

「個としては最強でも、質には圧倒されるものよ。本格的なスタンピードが起きたら、敗北とまではいかなくても甚大な被害が出るのは必須。故に、今すぐにダンジョンを爆撃して、入り口を塞ぐ必要があるわ」

「急に饒舌になったわね?」


 力を疑われているにもかかわらず、ティアハートは落ち着いていた。

 冷静に問いかける。


「そんなに爆撃したいなんて、なにか理由でも?」

「……単純に、被害が拡大することを恐れているのよ」

「嘘ね」


 ティアハートは断じた。


「あなたの本当の狙いは、ダンジョンに突入した生徒を殺すこと。それと、冒険者学校を潰すこと」

「それも、くだらない逆恨みで」


 フィアムーンがそう付け足すと、セシリーの顔色が青くなる。


「な、なにをバカな話を……」

「ごまかしても無駄よ。ここに、あなたがダンジョンに細工をした証拠があるわ。魔物を捕らえてダンジョンに運ばせた。これが、それに関わった違法な冒険者達のリスト。ついでに、奈落の事件を引き起こしたという証拠もここに」

「そしてこれは、あなたが逆恨みをしているという証言ですね。全てリスト化してまとめておきましたよ」


 フィアムーンが資料を会議の参加者達に配る。

 そこには言い逃れのできない決定的な証拠が並んでいた。


 それを見たセシリーは、さらに顔を青くする。

 青を通り越して白になっていた。


「な、あ……ば、バカな……どうしてこのような、私の……」


 ティアハートとフィアムーンがにっこりと笑う。


 ただ、その笑顔の下には怒気が……いや、殺意があふれていた。

 ふざけたことしてくれたなこのやろう? と、今にも殴りかからんばかりの迫力だ。


「あなた、冒険者学校で、ずいぶんと前から好き勝手していたみたいだね。おかげで、冒険者学校はだいぶめちゃくちゃになっていたわ。差別主義者が学長になるくらいに」

「そんなところに大事なリア兄を入学させたくないですが……本人が望んだことですからね。なので、私達は大掃除を行うことにしたんですよ」

「あなたのようなゴミを綺麗にしておかないと……ね?」

「そのために、色々と準備をしていたんですよ」


 そう。

 二人がリアンを追いかけて冒険者学校にやってきた本当の目的は、腐敗を正すためだ。


 そのためにライズを学長にして、協力を仰いだ。

 一週間の依頼というフリをして、そろそろ尻尾を出すだろうと予測して、証拠を固めていた。


 全てはこの時のために。


 ちなみに、学校を正す動機は今言った通りだ。

 大事な大事なリアンが通うところを正常な姿に戻しておきたい。

 やっぱりというか、この姉妹はリアンが一番大事で、なによりも行動指針になるのである。


「ふざけた逆恨みでリアン君と学校を潰そうとする……うんうん、本当にふざけているね。あなたを潰してあげようか? ……物理的に」

「私達にケンカを売ったこと、一生、後悔させてあげますね♪ とりあえず、爵位の剥奪。それから牢にぶちこんで、他の受刑者にたっぷりと可愛がってもらってください。物理的に……ね?」

「くっ……」


 セシリーは敗北を悟ったのだろう。

 がくりとうなだれて、床に膝をついた。


 それでも、まだ悪あがきをする。


「私の負けね……でも、あの生意気な小僧も道連れよ! ダンジョンに突入したみたいだけど、生きて帰れるわけがないわ!」

「帰れるよ」

「帰れますよ」


 姉妹は即座にセシリーの言葉を否定した。


「リアン君なら、なにも問題ないと思うな。だって、リアン君だもの」

「そうですね。リア兄なら、きっと核を打ち倒してくれますよ」


 ティアハートとフィアムーンはリアンを信頼する。

 世界中の誰よりも彼の成功を信じている。


 だって……

 大事な家族だから。

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