24話 最強姉妹の不在
「リアン君」
「ちょっといいですか?」
昼休み。
ココアとミレイと一緒に学食でご飯を食べて、のんびり談笑していたら、ティア姉とフィアがやってきた。
ちょいちょいと手招きされる。
「ごめんね」
二人に断りを入れて、ティア姉とフィアのところへ。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん達、依頼でちょっと学校を離れないといけないの。一週間くらい」
「リア兄はとても寂しいかもしれませんが、我慢してくれませんか?」
「あ、うん。いってらっしゃい」
「リアン君の反応が適当……」
「行ってほしくない、と泣いて引き止めてほしかったです……」
だって、二人は毎日家を明けていたし。
長期の冒険に出ることも、ちょくちょくあったし。
寂しがるとか、今更なんだよね。
「どんな依頼かわからないけど、一週間っていうことはそれなりに大変な依頼なんだよね? 二人なら心配はいらないと思うけど……でも、怪我をしないように気をつけて」
「うん。ありがとう、リアン君」
「ただ、出発前にこれを渡しておきたくて」
「指輪?」
「なにかあった時に、この指輪の宝石を壊してね。そうしたら、私達に連絡が行くようになっているから」
「一種の魔道具ですね。宝石に込められた魔力を私が常に感知。そうすることで異変が起きた時はすぐに察知することができます」
「それ、間違えて壊したら大変では……?」
「大丈夫ですよ。ちょっとぶつけたくらいでは壊れないので」
「思い切り地面に叩きつけるとか、そうすれば壊れるよ」
「そっか。ありがとう、心配してくれて」
二人共、俺の心配をしてくれているのだろう。
ちょっと過保護な気もするけど……
でも、俺を想っているからこその行動だ。
「あ、そろそろ行かないと。でも、その前にリアン君を抱きしめて弟成分を補給して……」
「そんなことをしている時間はありませんよ。ただでさえ出発しないといけないのに、こうして寄り道をしているんですから」
「あぁ、そんな、殺生な!?」
「私だって同じことをしたいです。でも、リア兄の……で我慢しているんですよ」
「それ、後で私にもちょうだい?」
「仕方ないですね、予備をあげますよ」
「じゃあね、リアン君」
「一週間後に、また会いましょう」
ティア姉とフィアは嵐のようにやってきて、嵐のように去っていった。
俺の……なんだろう?
細かいところは声が小さくてよく聞こえなかった。
「一週間……か」
もしも以前のようなトラブルが起きた場合、ティア姉とフィアに助けてもらうことは難しい。
連絡を取ることができたとしても、すぐに駆けつけられるわけじゃない。
なにか起きたら、俺自身の力でなんとかしなければいけない。
「よし。そのためにも、もっともっとがんばろう!」
――――――――――
3日後。
「やった、お昼だ!」
「はしゃぎすぎよ」
「いいんじゃない? おいしいご飯を食べると元気になれるから、楽しみにするのもわかるよ」
いつもの三人で食堂に向かう。
ここ最近、ずっとココアとミレイと一緒だ。
「お肉お肉お肉~♪ 豚、牛、鶏、どれもおいしいぞ~♪ 素敵だ最高だ完璧だ~♪」
「魚も素敵~♪ ぷりぷりの刺し身、ほっこり焼き身、なんでもあり~♪」
ついに歌いだしてしまう。
しかもミレイも一緒に。
この二人、すっかり仲良くなったみたいだ。
「ああ、いたいた」
振り返ると教師が駆けてきた。
慌てているみたいだけど、どうしたんだろう?
「ちょっと学長室に来てくれないかな?」
「え、今からですか?」
「そうだね。貴重な昼休みに悪いけど、急ぎの要件なんだ」
「はぁ……そういうことなら」
よくわからないけど、教師にそこまで言われたら断ることはできない。
「そういうわけだから……ごめんね、ココア、ミレイ。今日は二人で食べて」
「ああ、わかったぞ。仕方ないことだけど……」
「でも急に気になるわね?」
「後で話すよ。じゃあ」
二人と別れて学長室へ移動した。
扉をノックすると、「入って入って」とライズ先生の気楽そうな声が飛んでくる。
そういえばライズ先生が学長だった。
「失礼します」
学長室に入ると、見知らぬ女性がいた。
ライズ先生の対面に座り、優雅そうにお茶を飲んでいて……
あ。
この人、今朝の貴族だ。
確か……セシリー・スケールアルドさん、だっけ?
「やあやあ、よく来てくれたね。というか、昼休みに悪かったね。後で自由時間をあげるから、その時にご飯を食べてくれ」
「それはいいんですけど……」
「うん、そうだね。要件を済ませるとしようか。こちら、セシリー・スケールアルドさん。この学校に出資をしてもらっている貴族の方だ」
「はじめまして。セシリー・スケールアルドよ」
「あ、はい。はじめまして。リアン・シュバルツァーです」
「へぇ」
自己紹介をすると、なぜかスケールアルドさんが楽しそうな笑みを見せた。
「あなたが、あの……」
「あの?」
「いいえ、なんでもないわ。それより、今日は私が無理を言ってあなたを呼んでもらったの。悪かったわね」
悪いと言いつつ、まったく悪いと考えてなさそうな顔で言う。
「実は、あなたにお願いしたいことがあるの」
「お願い……ですか?」
「私の下で働かない?」
まったく予想していなかった言葉に、ついつい思考が停止してしまう。
「……え?」
「私の下で働かない、と言ったのよ。私の護衛や、あるいは求めるものを探してくるなど、主に戦闘面の仕事になるわね」
「戦闘面……と言われても、うーん」
俺、まだまだ未熟なのだけど。
「あなたを英雄にしてあげる。私のところに来ればそれが可能よ」
「それは……」
「嫌?」
「嫌というか、突然すぎて……あと、どうして俺なんですか?」
「あなたは英雄になれる器を持っているからよ。だって、シュバルツァーの一族なんですもの」
「ティア姉とフィアは天才だと思いますけど、でも俺は凡才で……」
「姉妹が天才なら、その血を引いているあなたも天才だと思わない? 天才なのよ。だって、あの二人の血を引いているんですから」
「もしかして、父さんと母さんのことを知っているんですか?」
「ええ、知っているわ。だって……」
スケールアルドさんはたっぷりの笑みと共に言う。
「あの二人は『英雄』だもの」




