表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/30

23話 不穏な空気

「んー……」


 学長室で一人、ライズは書類と向き合っていた。

 独自に雇った探偵からの報告書だ。


「やっぱり、ねえ」


 学内のダンジョンが奈落に繋がるなんてこと、ありえない。

 生徒の安全にも関わるため、日々、徹底的な管理が行われているのだ。

 教師の怠慢も考えられたが、そこまで愚かな者はいなかった。


 なら外部犯の仕業では?


 そう考えて探偵まで雇い徹底的に調査させたところ、当たりだった。

 犯人の特定までは進んでいないものの、ダンジョンに手を加えられた跡が見つかった。

 だからこそ、生徒が奈落に落ちるという大事件が起きた。


「証拠はないものの……まあ、十中八九、連中の仕業だろうねえ」


 ライズは笑みを消して宙を睨む。


「さて……そろそろ大掃除をしようかね?」


 野望を叶える時だ。


 いや。

 野望というよりは宿願かもしれない。


 ライズがずっと願っていたこと。

 それは、この冒険者学校が正常な場になること。

 浄化されることにある。




――――――――――




「んーっ、いい朝だな!」


 寮を出ると、一緒に登校するココアがぐぐっと伸びをした。

 陽の光が気持ちいいみたいで、尻尾がひょこひょこと踊るように揺れている。


「今日はいい一日になりそうだ。な!?」

「うん、そうだね。元気なココアと一緒にいると、そんな風に思えるよ」

「えへ、そうか? あまり褒めないでくれ。えへへへ」


 今、褒めたかな?


「おはよう」


 校舎に続く道の途中にミレイがいた。


「おはよう、ミレイ」

「うむ、おはよう」

「えっと……私も一緒していい?」

「もちろん。同じクラスじゃないか」

「まあ、寮は学校のすぐ近くにあるから、一緒に登校って気分にはなれないかもだけど」

「ふふ、そうね。ココアの言う通りだわ」


 くすくすとミレイが笑う。

 出会った頃と比べると、ずいぶんと優しい雰囲気になった。


 なにがそこまで彼女を変えたのだろう?


「三日くらい休校になったいたけど、今日からようやく授業が再開するね」

「うむ! あたしは、とてもワクワクしているぞ」

「私も。休みをのんびりするために、ここに来たわけじゃないもの。早く冒険者について色々なことを学びたいわ」

「自主訓練をするにしても限界があるからね」

「というか、色々とトラブルがあったせいで、あまり学校の授業を受けていないからな。そこは問題だと思うぞ?」

「そうだね。早くたくさんの授業を……あれ?」


 校門の手前に大きな馬車が停まっていた。

 複数の護衛の兵士に守られる中、きらびやかな服を着た女性が降りてくる。


 冒険者学校に似つかわしくない格好だ。

 おかげで思い切り目立ち、俺達だけじゃなくて他の生徒達も何事だろうと視線を送っていた。


 女性は二十代後半くらいだろうか?

 妙な色気を振りまいていて、それの虜になっている人もいるみたいだ。


「ふん」


 女性は俺達生徒を見て不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 そして、靴をカツカツと鳴らしつつ校舎に消えていく。


「なんだったんだろう……?」

「今のは……」

「ミレイ、知っているの?」

「確か、スケールアルド家の長女よ」

「すけーるあるど?」


 ココアが小首を傾げた。


「貴族よ。名門中の名門で、国の事業の半分はスケールアルド家が関わっているっていう話」

「ほー、すごい人間なんだな」

「セシリー・スケールアルド。若くして家を継いで、類まれなる才能を見せて家をさらに大きくした切れ者。ついでに言うと、野心家でもあるわ」

「なにかすごいことをした?」

「とにかく上を目指しているらしいわ。そのために家を成長させて、ありとあらゆる分野に手を出して……とても貪欲な姿勢を見せているの。噂だけど、家を継いだのは頼りない両親に呆れ、強引にその地位を奪ったとも言われているわ」

「それはまた、すごい野心家だね」

「まあ、今のは噂だからなんとも言えないけどね。私も直接話したことがあるわけじゃないから、よくわからないし……」

「でも、そんな人間が冒険者学校になんの用があるんだ?」


 ココアの疑問は俺達の疑問でもあった。


 名門中の名門貴族が冒険者と関わる理由が想像できない。

 普通に考えて接点なんてないと思うんだけど……


「あ」


 いや。

 接点はあるかもしれない。


「もしかしたら、ティア姉とフィアに用があるのかも」

「えっ、とても高貴で美しく優しい女神のようなオネエサマ方に!?」


 二人のことになると、ちょくちょくココアはおかしくなるな?

 ほんと、前になにを話したのか気になる。


「そっか、なるほど」

「お? ミレイは理解したのか?」

「あの二人は冒険者だけど、でも、この国で最強なのよ? その活動は冒険者という枠を超えて、もはや英雄と言っても過言じゃない。事実、何度か国を救っているわ」


 ある時は、成功率100パーセントの暗殺者から王を守り。

 ある時は、魔族と通じる邪教の崇拝者を倒した。


 そんな偉業を成し遂げている二人だからこそ、貴族が面会を求めても不思議じゃない。

 あるいは、二人になにか依頼したいことがあるのか。


「まあ、私達には関係ないことね。さ、早く教室に行きましょう」

「うむ!」

「って、リアン?」

「あ、うん。今行くよ」


 なんだか嫌な予感がするけど、でも、それをうまく言葉にすることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=246729578&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ