21話 最強姉妹
なにもできない。
どうすることもできない。
今更逃げることは不可能。
もう間に合わない。
迎撃もできない。
あれだけの巨体、止めることは無理だ。
アリがゾウに立ち向かうようなもの。
でも……
「ミレイだけは……絶対に!!!」
悲鳴をあげる体に鞭を打ち、俺は剣を構えた。
すると、ミレイが隣に並んで拳を構える。
「ミレイ、君は……」
「嫌」
「えっと……」
「最後まで付き合わせてちょうだい……お願いだから」
「……うん、一緒にがんばろう」
「ええ!」
互いに笑う。
絶体絶命の状況だけど、でも、最後まで諦めるものか。
絶対に帰る。
その意思を胸に、俺達はグランドドラゴンに向けて……
「来たれバハムート、終焉を誘う黒竜!」
どこからともなく飛来した漆黒の光がグランドドラゴンを撃つ。
鋼鉄のような皮膚をごっそりと削り取り、その身に大きな穴を開けた。
「滅びろ、アブソリュートゼロドライブ!!!」
続けて、極限に研ぎ澄まされた武技が炸裂した。
その背中の巨岩ごとグランドドラゴンを両断する。
「今のは……」
「リアン君!!!」
「リア兄!!!」
「ティア姉、フィア!?」
二人が駆け寄ってきて、タックルするような勢いで抱きついてきた。
なんとか受け止めつつ、問いかける。
「どうしてここに?」
「リアン君を助けるために決まっているじゃない」
「転移魔法を連発して、超特急で来ました」
「でも、どうやって場所を……?」
「それはあたしがなんとかしたぞ」
「ココアまで……」
ココアは耳をぴょこぴょこさせていて、どことなく誇らしげだった。
「獣人族は人間より鼻と耳が優れているからな。ちょっと大変だけど、どうにかして位置を特定したんだ」
「奈落にいる俺達を見つけるなんて、それはまた……本当にすごいね」
「にゃーん♪」
褒めてほしそうだったので撫でたら、ものすごくいい笑顔をされた。
「よくやったわね」
「褒めてあげますよ」
「ハイ、アリガトウゴザイマス!」
ティア姉とフィアに対しては、ものすごくかしこまっていた。
でも、よかった。
なんとしてもミレイを逃がす覚悟だったけど、でも、死にたいわけじゃなくて……
またティア姉とフィア……ココアに会いたいと思っていた。
それが叶い、緊張の糸が緩んでしまい……
「リアン!?」
ふっと、俺の意識は闇の中に消えた。
――――――――――
剣聖、ティアハート・シュバルツァー。
賢者、フィアムーン・シュバルツァー。
そんな姉妹が身近にいれば、冒険者に憧れるのは当然の流れだ。
ただ、冒険者になりたい理由は憧れだけじゃない。
他にも理由があった。
強くなりたい。
冒険者になれば姉や妹のように強くなれると思ったのだ。
悪を打ち砕く力を。
理不尽を跳ね除ける力を。
運命を覆す力を。
力を求めたからこそ、俺は冒険者の道を選んだ。
力を得て……
そして、大事な人を守れるようになりたかったのだ。
両親はいない。
父さんはとても優しい人だった。
怒っているところは滅多に見たことがない。
いつも笑顔で、俺達のことも笑顔にしてくれた。
母さんはちょっと厳しいけど、でも、優しい人だった。
いたずらをしたら容赦なくお仕置きされた。
でも最後は優しく笑いかけてくれて、おいしいご飯を作ってくれた。
そんな二人は、ある日、盗賊に襲われて帰らぬ人になった。
その際、俺は二人と一緒にいた。
ティア姉とフィアは留守番をしていたけど、俺は、たまたま二人についていったのだ。
そして盗賊に襲われて……
二人は、文字通り命を賭けて俺を守ってくれた。
小さな俺を二人で抱きしめて、自分の体を盾にしたのだ。
二人は死んでも俺を抱きしめて……
そして俺は、二人の温もりが消えていくのを感じていた。
その後、冒険者に救助されて……
俺達、兄弟だけで生きていくことになって……
だからこそ強くなりたいと思い、冒険者になることを決意したのだ。
両親に守られたからこそ。
俺も大事な人を守りたい。
守るための力が欲しい。
そう願ったのだ。
「……俺は……」
ミレイを守ることができただろうか?
守られるだけじゃなくて、守ることができただろうか?
俺は……




