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20話 絶対は絶対

 地上に生還するため奈落の探索を開始した。


 ジェイルストームさん曰く、奈落は普通のダンジョンと大きく異る構造をしているものの、基本的には同じダンジョン。

 地上に繋がる道はどこかに必ずあるとのこと。


 それを探しているけど……


「あわわわ……い、今のドラゴンよね? しかもただのドラゴンじゃなくて、一匹で街を滅ぼせるダークネスドラゴン……ひぃ」

「大丈夫、俺達には気づいていないから」

「じ、実は気づいていて、私達が油断したところを……とか考えているかも」

「なら戦うよ」

「……」


 即答すると、ジェイルストームさんは不思議そうな顔に。

 未知の存在を目の当たりにしたような表情だ。


「どうしたの?」

「どうして……ううん、なんでもないわ」

「?」

「早く行きましょう。隠れながらならなんとかいけるかもだから……地上に繋がる道じゃなくて、奈落を抜けることができればなんとかなるわ」

「そうだね、がんばろう」


 奈落の強敵と戦うように事態は避けたい。

 身を隠しつつ、慎重に前に進んでいく。


「……ねえ」

「なに?」

「もしもの話なんだけど……私が死んだら、家族にこう伝えてくれない? 迷惑かけてごめんなさい、わがまま言ってごめんなさい……って」

「それ、どういう意味なの?」

「……私、冒険者になるのに反対されていたの」


 ジェイルストームさんは、実は名門の貴族らしい。

 淑女としての教育を受けて、将来は女性としての幸せを掴む。


 しかし、彼女はそれを良しとしなかった。

 冒険者に憧れて、反対されても我が道を貫いて、半ば勘当同然で家を飛び出して冒険者学校に入学したという。


「パパとママが嫌いなわけじゃないの。むしろ大好きよ。私のことをしっかり愛情をもって育ててくれたもの。感謝しかないわ。でも……私、どうしても冒険者になりたいの」

「なにか理由が?」

「深い理由なんてないわ。ただ、子供の頃に読んだ本で冒険者に憧れて、将来はぜったいになる! って誓ったの。単純で笑う?」

「そんなことないよ」


 むしろ、その気持ちはよくわかる。

 同じく冒険者に憧れを抱いた。

 本じゃなくて姉妹がきっかけだけど、絶対になりたいと強く思った。


 同じ夢を持つ者をバカにできるわけがない。


「俺は尊敬するよ」

「え?」

「大好きな両親の言うことに逆らうのはすごく大変なことだと思うんだ。でも、ジェイルストームさんは自分を貫いた。夢を追いかけた。そして……叶えた」

「うん」

「それは本当にすごいことだと思うんだ。俺も、最初はティア姉とフィアに反対されたけど、なんだかんだすぐに応援してくれたから……ジェイルストームさんの真似はできないかもしれない。だから、俺はジェイルストームさんを尊敬するよ」


 ジェイルストームさんは目を大きくして驚いて。

 次いで、ちょっと泣きそうになって。


 その顔を隠すかのように、ふいっと横を向いてしまう。


「……ミレイでいいわ」

「え?」

「私のことよ。ミレイって、名前で呼んで」

「いいの?」

「代わりに、あんたのことも名前で呼ぶから……リアン」

「うん。改めてよろしくね、ミレイ」


 ジェイルストームさん……もとい、ミレイと仲良くなることができた。

 奈落に落ちたけど、悪いことだけじゃないな。


 よし。

 絶対に二人で帰らないと!


「あっ!? 見て、あそこ!」


 ミレイが指差す方向に光が見えた。

 その先に上に続く階段がある。


「やった! あれ、きっと最下層に繋がる階段よ!」

「上も奈落っていう可能性は?」

「たぶん、それはないわ。絶対にないとは言い切れないけど、大抵、奈落は一つの階層で終わっているの。でなければ生還率はゼロになっていたと思う」

「よし。なら、すぐに脱出しよう」

「ええ! ……ひゃっ」


 その時、ズズズと地面が揺れた。


 地震?

 いや、これは……


「オォオオオオオォォォ……!」


 学校の校舎ほどもある巨大な岩が動いていた。


 いや、あれは岩じゃない。

 魔物だ。


「うそ、でしょ……グランドドラゴン……」


 巨大な岩を背負う亀に似た魔物だけど、ドラゴンに分類される。

 そのパワーは圧倒的で、自分の手で地震を起こすことができるらしい。


 さっき見たダークネスドラゴンが可愛く思えてくるレベルだ。

 グランドドラゴンは天災と同等の存在で、人が抗うことは不可能。


 そいつが現れて、俺達に牙を向けていた。


「逃げよう!」

「ええ!」


 俺達は出口に向かい同時に駆け出した。


 すると、グランドドラゴンが追いかけてくる。


「ガァアアアアアッ!」


 ヤツの足は遅いが、しかし、圧倒的に体が大きい。

 一歩一歩がとても大きく、動きは鈍くても速い。

 一気に距離を詰められてしまう。


 このままだと追いつかれる。

 なら……


「先に逃げて!」

「リアン!?」


 俺は反転して剣を抜いた。

 そのままグランドドラゴンに立ち向かう。


「来たれイフリート、紅の火炎竜!」


 魔法を叩き込んで、


「断て、ライディングスライサー!」


 武技を放つ。

 しかし、グランドドラゴンに傷をつけるどこから怯ませることさえできない。


 それでも諦めず、全力で攻撃を繰り出していく。


「リアン、なにをやっているの!? 無茶はやめて!」

「こいつを食い止めないと……! 俺はなんとかするから、ミレイは先に逃げて!」

「できるわけないでしょ!?」


 悲鳴をあげるように叫んだ。


「リアンを犠牲にして助かるとか、ぜんぜん嬉しくないから! バカな真似はやめて、早くこっちに来て! 一緒に逃げるのよ!!!」

「ダメだ。俺は……こいつを抑える!!!」


 俺が死ぬだけならいい。

 でも、このままだとミレイも死んでしまう。


 嫌だ。

 『友達』が死ぬなんて、絶対に嫌だ!!!


 そう思うと、体の奥底から力が湧いてきた。


「うぁあああああああぁぁぁ!!! 穿て、エーテルサーキューラー!!!」


 魔力を剣に乗せて放つ、極大の十五連撃。

 奥義と呼ばれている領域にある武技だ。

 刃の嵐が吹き荒れて、グランドドラゴンの鋼鉄のような体をじわじわと削っていき……


 ギィンッ!


 脚を一本、切断することに成功した。

 当然、その巨体を支えることはできず、グランドドラゴンは悲鳴を上げて倒れた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

「リアン!!!」


 ふらりとよろめいた時、ミレイが駆けてきて支えてくれた。


「ありがとう……でも、どうして逃げなかったの……?」

「バカっ!」

「えっと……」

「このバカっ、アホっ、マヌケっ、バカバカバカ……大バカっ!!!」

「いや、その……」

「だから、私一人、逃げられるわけないでしょう! 見損なわないで! 私は仲間を……友達を見捨てるようなヤツじゃないわ!」

「……ミレイ……」

「こんな無茶をして……ああもう、限界を超えた技を放ったせいで、反動であちこちボロボロになっているじゃない。どうして、ここまでするのよ……?」

「約束したから」

「……あ……」

「ミレイを守りたかったんだ」

「……ばか……」


 ミレイは俺の胸にこつんと頭を寄せて、ぽすぽすと叩いてきた。

 心配させてしまった罰として、そのままにさせる。


「んっ……とにかく、今のうちに逃げましょう。他の魔物がやってこないとも限らないわ」

「そうだね、今のうちに……」


 それに気がついて、言葉が途切れてしまう。


 グランドドラゴンが立ち上がっていた。


 まさか、再生した?

 脚一本をこの短時間で?


「グゥウウウ……ガァアアアアアッ!!!」


 そして……グランドドラゴンは怒りに吠えて、俺達に向けて突撃した。


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