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2話 剣聖の特訓

「え? リアン君が……」

「冒険者に?」


 よほど意外だったらしく、ティア姉とフィアは目を丸くして驚いていた。


 でも、俺からしたら不思議なことじゃない。

 こうして家に帰ってくる度に冒険譚を聞かされている。

 弱気を助け悪をくじき、前人未到の偉業を成し遂げる。


 身内だということを抜きにしても、憧れるのは自然な流れだと思う。


 俺は冒険者になりたい。

 ティア姉やフィアのような冒険者になって、世界を旅したい。


 もう一つ、秘めている想いがあるのだけど……

 それは今は秘密にしておいた。


「リアン君……それは本気なの?」

「本気だよ」

「でも、リア兄……冒険者はとても危険な仕事ですよ?」

「それでも、なりたいんだ」

「「……」」


 俺の決意の深さを感じ取ってくれたのだろう。

 ティア姉とフィアは互いに顔を見て、そこで言葉を止める。


 それから、二人で小声で相談する。


「……どうする? 私達の影響でリアン君が」

「……冒険者なんて反対です。危険しかありません。リア兄は、私達に一生養われて、隣でずっと天使のような笑顔を見せてくれれば、それでいいんです」

「……同意よ。でも、それで本人が納得するかしら?」

「……それは」

「……リアン君の願いだからこそ、私は叶えてあげたいわ。心配はあるけど、でも、止められないと思うの。男の子だもの」

「……わかります。なら、せめて私達で」

「……そうね、私達で」


 よく聞こえなかったけど、相談が終わったみたいだ。

 二人がこちらをまっすぐに見る。


「リアン君、本当に冒険者になりたいのね?」

「なりたい」

「どんな困難に襲われたとしても、その意思を曲げることはありませんか?」

「曲げないよ、絶対に」

「「なら」」


 姉妹は声を揃えて言う。


「「私達が鍛えてあげる」」




――――――――――




 まず最初に、ティア姉による特訓が行われることになった。


 冒険者になるには、それなりの力がないと難しいらしい。

 その力を得るために、ティア姉とフィアがそれぞれ稽古をつけてくれるという。


 感謝だ。


 ただ、二人の得意分野はまったくの正反対だ。

 なので、一人ずつ特訓が行われることになった。


「今日からここで特訓をするわ」


 そう言うティア姉に連れて来られたのは、怪鳥が飛び交う絶壁の谷だった。

 足場は脆い上に不安定。

 足を踏み外せば、数百メートルはある崖下に真っ逆さま。


「すごいところだね……」

「怖気づいた? なら、今からでも辞めることは……」

「いや、大丈夫。どんな特訓だとしても、必ずやり遂げてみせるよ」

「……そう。さすがリアン君。お姉ちゃん、惚れ直しちゃった」

「ティア姉?」

「というわけで……さっそく、特訓開始といこうか」


 げしっ!


 なぜか、ティア姉に蹴られて……

 突然のことに成すすべなく、俺は崖下に落ちていった。


「ティア姉!?」

「最初の特訓は、この崖下から這い上がり、ここまで戻ってくることだよ」

「そんな無茶な!? 俺、まだ、戦い方もなにも知らないのに!?」

「大丈夫。フィアが見守ってくれているから、本当に危ない時は助けてくれるよ。でも、その時は失格。冒険者になることは諦めてね。これくらいできないと、やっていくことはできないもの」

「えぇ!?」

「獅子は我が子を谷へ突き落とす……がんばってね、リアン君♪」

「うあぁあああああ!?」


 ニコニコ笑顔のティア姉に見送られつつ、俺は崖下に向かい落下した。




――――――――――




 崖から落ちるリアンをティアハートとフィアムーンが見る。


「落ちたね」

「落ちましたね」

「……本当に大丈夫?」

「大丈夫ですよ。すでに魔法を展開しているので、ふわりと着地できるはずです。落下死、なんてことはありえないかと。万が一、そのような事態になったとしても、私の魔法で生き返らせることができますから」

「さすが賢者様」

「茶化さないでください。それよりも……」


 もう一度崖底を覗きつつ、フィアが尋ねる。


「これで、リア兄は冒険者になることを諦めてくれるでしょうか?」

「諦めると思うよ」


 ティアハートは、ニヤリと悪役顔で笑う。


「ここは、一流の冒険者でも避ける『死の谷』。普通なら、ここを這い上がることはおろか、一日と生き延びることも難しいわ。もちろん、私達が影で見守っているから、リアン君に危険が及ぶことはない。でも、這い上がることは絶対に不可能」

「でも、リア兄は意外と運動神経がいい。もしかしたら、という可能性はありませんか?」

「あるわね。でも、Aランクの冒険者でも、ここを這い上がるのは最低でも一ヶ月かかると言われているわ。今日、初めてこういう特訓をしたリアン君は、うまくいったとしても半年はかかるはず。もちろん、その前にリタイアさせるけど……」

「ここを這い上がれないようなら才能はないから諦めなさい、と言うわけですね」

「正解♪」


 姉妹は揃ってとても悪い顔になる。


「姉さんは悪ですね」

「フィアには負けるわ」

「ふふふ」

「うふふ」




――――――――――




 姉妹が悪巧みをしている頃。


 崖下に落とされたリアンは、絶望することなく、諦めることもなく、一生懸命がんばることにした。


「よし! 大変かもしれないけど、これも冒険者になるための特訓だ。がんばらないと!」


 彼の武器は、とてつもないポジティブシンキングだ。

 常人なら絶望して発狂するような場面でも、どうにかしてがんばろう、と前を向くことができる。


 こんなこともあろうかと、密かに毎日、独自にトレーニングを積んでいた。

 いつか姉や妹のように活躍することを夢見て、鍛錬に励んでいた。


 その成果を見せる時だ。


「やるぞ! がんばるぞ!」


 リアンはキリッとした表情で決意を口にして、高くそびえ立つ崖に手を伸ばした。




――――――――――




「あふぅ」


 ティアハートはあくびをこぼした。


 時刻は夜。

 空は闇に染まり、星が輝いている。


 隣でフィアがすぅすぅと寝息を立てていた。

 うらやましい。

 できることなら自分も寝たい。

 眠い。


 でも、リアンに危険が迫るかもしれないので、昼夜を問わず見守る必要がある。

 そのためにフィアムーンと交代で休憩を取っているのだ。


「とはいえ、まだ初日。なにか起きるとは考えづらいし……リアン君も、私達に秘密でこっそりトレーニングを積んで鍛えていたみたいだから、すぐにどうこうってことないと思うけど……あれ?」


 ふと、何者かの気配が近づいてきた。

 ほどほどに睡魔に襲われているせいで相手を特定することはできない。


 敵意はないようだけど、無警戒というわけにはいかない。


「フィア、起きて」

「ふぁ……なんですか?」

「何者かが近づいているわ。危険がある場合、リアン君の見守りは任せてもいい?」

「わかりました」


 なんだかんだ、フィアも超一流の冒険者だ。

 秒で意識を切り替えて、キリッとした表情を見せる。


 二人が警戒する中、姿を見せたのは……


「よしっ、なんとか戻ってこれたぞ!」

「リアン君!?」

「リア兄!?」


 リアンだった。

 あちらこちらボロボロになっているものの、元気そうな笑顔を浮かべている。


「え? いや、あれ……え、どういうこと?」

「どうしてリア兄がここに……? 崖の下に落ちたはずでは……?」

「そうだね、ティア姉に落とされたよ」

「なら、どうして……」

「もちろん、這い上がってきたからだよ」

「「……」」


 姉妹は唖然とした。


 這い上がってきた?

 それ、マジで言っているの?


 この『死の谷』は、一流の冒険者でも這い上がるのに一ヶ月はかかる。

 それをリアンは、一日も経たず、半日で這い上がったというのだろうか?


「いやー、すごく大変だったよ。途中で妙な鳥に絡まれて、何度か落ちそうになったりしたんだ。でも、なんとかここに戻ってくることができたよ」

「妙な鳥、っていうのは?」

「えっと……なんだろう? 見たことない種類だったよ。赤くて羽が燃えていて、火を吐いてきたんだ」

「……それ、Aランクの危険種のフェニックスじゃないですか?」

「……一羽で小さな村を壊滅させることができるわね」

「……そんなものに狙われて、リア兄は無事だったんですか?」

「……ここにいるから、無事なんだと思う」


 マジか?

 姉妹は再び唖然とした顔になる。


「えっと……リアン君。ちなみに、その赤い鳥はどう対処したの?」

「あまりにしつこいから、石を投げて叩き落としたよ。たぶん、魔物っぽいから、あれくらいしても問題はないよね?」

「そうね、問題はないわ……」

「別の意味で問題が浮上しているような気がしますが……」

「叩き落とした、ってありえないんだけど。たぶん、私でも無理よ……」

「フェニックスは常に炎で覆われているため、よほどの攻撃でないと貫通しないのですが……」

「?」


 姉妹の言うことがわからず、リアンは小首を傾げた。


「とにかく、これで最初の特訓は完了だよね!?」

「あ、うん」


 あまりに予想外の出来事に思い切り混乱したティアハートは、ついつい特訓の合格を言い渡してしまうのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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[良い点] この姉妹たちの誤算は弟の潜在能力を見極めてなかったにつきるな。
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