15話 拳と拳でぶつかり合っても……?
「ふふん」
訓練場に移動してミレイと対峙する。
大きな自信があるらしく、彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
拳で戦うスタイルなのだろう。
武器は持っていない。
「それじゃあ、決闘を始めるぞ」
ライズ先生の合図で、クラスメイトとその他の観客達がざわめいた。
どこからか話を聞いて、見学にやってきたらしい。
「リアン君に決闘を挑むなんて……やっちゃえー、リアン君! ぎたぎたのけちょんけちょんよ! もしも負けたら……うふふ」
「死刑一択ですね。リア兄、違いというものを見せつけてください。なお、万が一負けるようなことがあれば……わかっていますね? ふふふ」
なぜかティア姉とフィアもいた。
応援に来たのか脅しに来たのかよくわからない。
うん。
絶対に負けられない。
「ルールは単純。降参するか、相手を戦闘不能にするか。当たり前だけど殺すんじゃないぞー? おじさん、そんなことになったら訴えられちゃうからな。勘弁してくれ」
「と、いうことだけど、今のうちに降参した方がいいんじゃない? 私、うまく手加減できるか自信がないの」
「手加減なんてしないでいいよ。これは決闘なんだから、お互い、全力を尽くそう」
「……私なんて脅威にならない、っていうことかしら? 舐められたものね」
いや、そういうわけじゃない。
互いにがんばろう、と伝えたつもりなのだけど……
なんで、マイナス方面に解釈してしまうの?
そもそも、俺の方が格下だろう。
必死にがんばらないといけないのは俺の方だ。
「じゃあ、開始」
やる気のないライズ先生の合図で決闘が始まる。
「はぁっ!!!」
最初に動いたのはジェイルストームさんだ。
地面を蹴り、急加速。
突撃の勢いを乗せて拳を繰り出してきた。
単調な突撃なので避けるのは簡単だ。
俺は横にステップを刻んで回避。
ただ、彼女は止まらない。
そのまま駆けて……
ガン!
ジェイルストームさんは、訓練場に設置されていた前学長の石像を打ち砕いてしまう。
「ふふん」
「おいおい、あれ、売ろうとしてたのに……」
ドヤ顔をするジェイルストームさん。
一方、ライズ先生は涙目になっていた。
「おいおい、拳で石像を砕くとか、なんて力だよ……」
「彼女、格闘家? ただ力が強いだけじゃ石像なんて砕けないわ。高い技術がないと……」
「俺達と変わらない歳なのに、どれだけの修練を積んできたんだ……?」
観客が再びざわついた。
そんな反応に満足した様子で、ジェイルストームさんは口元に笑みを浮かべる。
「どう? 私くらいの実力になれば、拳で石像を砕くことも可能よ! 姉妹の七光りであるあんたには、到底真似できないでしょうね」
「いや、できるけど」
「……なんですって?」
「できるよ」
「冒険者なんだから岩を砕くことができないとダメ。それくらい、新米でもできるのよ?」
なんてことをティア姉が言っていた。
だから、それくらいできて当然だ。
それを証明するように、俺は近くにあった前学長の石像をこつんと叩く。
ガァンッ!!!
粉々に砕けた。
「……あいつ、今、こつんって軽く叩いただけだよな? それなのに砕けたよな?」
「……彼女よりもすごいわ。ほら、見て。粉々になっている」
「……衝撃を余すことなく、一点に集中させた? そんな技術、聞いたことがない」
「なぁ……!?」
今度はジェイルストームさんが唖然とした。
「岩を砕くとか、それくらいでドヤ顔をされても困るというか……」
「そ、それくらい……?」
「だって、こんなことは冒険者なら誰でもできるよね? 簡単すぎることだよね?」
ティア姉は言った。
冒険者は岩を素手で砕き、指で穴を開けることができる。
それくらいできないと冒険者としてやっていくことはできない。
だから、がんばってできるように訓練した。
すごく大変だったけど……
でも、俺も最低限のことはできるようになった。
「あ、もしかして冒険者としての心得を教えてくれようとしているとか?」
「そんなわけないでしょ!? 岩を砕くのが心得とか、どんな蛮族よ!?」
違ったのか。
「な、なかなかやるわね。いいわ、あなたのことを少しは認めてあげる」
特になにもしてないけど、なぜか認められた。
「でも、これはどうかしら? はぁ!」
ジェイルストームさんが二人、三人……五人に増えた。
俺の周囲をぐるぐると駆けている。
「あれは分身!? 超高速で動くことで残像を残す、高等技術よ!」
「す、すごい。分身の使い手なんて、国に数人いるかいないかだろ?」
「それに……見て。本物がどれなのかまったく見分けがつかないほど精巧な分身よ。あれだけの技をも持っているなんて、すごいわ」
「ふふん!」
五人のジェイルストームさんが気分よさそうに笑う。
「これが私の実力よ! 七光りなんかに、こんなことは……」
「できるよ」
「は?」
「だから、できるよ」
フィア曰く……
「一対多という状況はよくあることです。なので、そういう時に備えて『自分を増やす』魔法を覚えておいてくださいね」
と言われていた。
「力技じゃなくて魔法だけど……来たれスプライト、光の幻影!」
影が膨れ上がり、そこから俺が二人、現れた。
外見はそっくりで、ドッペルゲンガーと言ってもいい。
ただ、意思はない。
俺の思うように操ることができる。
「ほら、できた」
「なっ、なっ……なぁあああああ……!?」
ジェイルストームさんが止まる。
同時に分身も消えた。
「でも、これも初歩の初歩だよね?」
フィアが同じ魔法を使うと、百人くらいは可能だ。
対する俺は二人が限界。
まだまだ足りていない。
「しょ、初歩って……それ、上級魔法なんだけど……」
「またまた、そんな冗談を。そんなもの、俺が使えるわけないじゃないか」
「なんであんた、そんな意味不明に自己評価が低いわけ!?」
「だって、ティア姉とフィアが『まだまだ』って言っていたから」
実際、俺はまだまだだ。
二人ができることを、俺はできないことが多い。
「じゃあ、遊びはこれまでにして、ちゃんと決闘をしようか」
「あ、遊び……私の本気が遊び扱い……?」
ショックを受けたような顔に。
「う……うぅううううう……」
それから、ジェイルストームさんは涙目になる。
こちらを睨みつつ、ぷるぷると震える。
そして……
「なんでそんなことができるのよバカぁああああああああああぁ! うわぁあああああーーーーーんっ!!!」
泣きながらどこかへ走っていってしまうのだった。
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