14話 自己紹介とツンデレさん
翌日。
さっそく授業が始まるのだけど、まずは自己紹介を行うことになった。
ちなみに教官は、試験官を務めて、成り行きで新しい学長になったライズ先生だ。
人手が足りないらしく、学長も教官を務めているらしい。
「じゃあ、一人ずつ自己紹介だ。おじさん、面白い自己紹介をしたヤツは贔屓するぞ」
そこはかとなくダメな大人っぽい。
順番に自己紹介が進んでいき、ココアの番が訪れた。
「ココア・アールグレイ、見ての通り獣人族だ。双剣を使う戦闘が得意で、魔法はちょっと苦手。忍者としての訓練も受けた猫忍だ。将来の夢は、剣聖様や賢者様のような立派な冒険者になること。そう、剣聖様と賢者様はトテモスバラシイ方。強いだけじゃなくてウツクシクカワイラシク……はっ!? つい、あの時のことを思い返してしまった……危ない危ない」
ティア姉とフィア、ココアになにをしたんだ……?
「と、とにかく、よろしくお願いします!」
最後は元気な挨拶で締め。
元学長のような獣人を差別する人はおらず、拍手で迎えられた。
それから順々に自己紹介が進み、俺の番に。
少し緊張しつつ前に出た。
「えっと……リアン・シュバルツァーです。得意な戦闘は……武器も魔法も、両方、少しくらいはできると思います。将来の夢は、物語に出てくるような英雄になること。これからの一年、がんばって色々なことを学んでいきたいと思います。よろしくお願いします」
ココアの自己紹介を真似しつつ、最後にお辞儀で締めた。
「「「……」」」
あれ?
なにも反応がない。
一発ギャグをして滑ったわけじゃないんだけど……
「はいはい、質問!」
ふと、クラスメイトが挙手した。
「シュバルツァー君は、剣聖様と賢者様の弟って本当!?」
「え? あ、うん。本当だけど」
「「「おぉおおおおお!!!」」」
「な、なに……?」
一気に湧き上がるクラスメイト達に驚いて、ついつい一歩下がってしまう。
「すごいっ、本当に二人の弟なんだ!」
「入学試験で先生を叩きのめしていたけど、やっぱり、剣聖様と賢者様の兄弟だからできたこと!?」
「剣聖様って、普段はどんな風に過ごしているの? 彼女の好きな食べ物は? 好きな本は? 教えて!」
「賢者様、マジかわいいんだけど、今度紹介してくれない? 一生大事にするから!」
「えっと……」
次々と質問をぶつけられてしまい、たじたじになってしまう。
さすが、ティア姉とフィア。
二人の人気はすさまじい。
「……はっ、ばっかみたい」
ふと、冷めた声が響いてきた。
一人のクラスメイトが腕を組んで、こちらを睨みつけている。
「剣聖と賢者の弟とか、それだけでチヤホヤともてはやすわけ? そいつがすごいわけじゃなくて、姉妹の方がすごいんじゃない。それなのに目をキラキラさせてバカみたい」
「うん。確かにその通りなんだけど……君は?」
歳は俺と同じ十五くらいだろうか?
炎のような赤毛が特徴的だ。
瞳も同じ赤。
ルビーのような輝きを放っている。
「ミレイ・ジェイルストーム。あなたなんかとは違う、本物の冒険者になる者よ」
とても強気な女の子だ。
でも、凛としててかっこいい。
「かっこいいね」
「はぁ?」
「ジェイルストームさんのそういうところ、なんだか、すごくかっこよく見えたんだ」
「なに、今度はあたしに取り入ろうとしているの? やめて、そういうの一番嫌いなんだけど」
「そういうわけじゃ……」
「英雄の弟っていうだけで、あんた、大した実力ないんでしょ? そこの先生を圧倒したとか噂が流れてるけど、尾ひれがついているだけ。本当はコネを使って入学したんじゃない?」
「そんなことは……」
「おい、なんだその言い方は!」
ないよ、と否定しようとしたところで、ココアが割って入る。
本気で怒っているらしく、尻尾がピーンと逆立っていた。
「リアンはちゃんと強いんだ! コネとかじゃなくて、実力で試験に合格したんだ! それなのにそんなことを言うなんて酷いな!」
「その実力が怪しいんじゃない。あたし達、まだ見習いなのよ? それなのに教官を圧倒するなんて、あるわけないでしょ。本当に圧倒したのなら、教官もグルでしょ。姉妹のコネを使うなり脅すなりして、不正をしたんでしょ」
「あのな! だから、リアンはそんなことはしない」
「証拠は?」
「ない。でも、あたしはこの目でちゃんと見た。それに、リアンは悪いことは絶対にしないってわかる」
「だから、証拠は?」
「あたしの勘!」
「バカみたい」
ジェイルストームさんがため息をこぼす。
「で……あんたは反論しないの? かばってもらうだけ?」
「俺は不正なんてしていないよ。どうすれば信じてもらえるか、わからないけど……でも、ティア姉とフィアを利用することはないし、恥をかかせることもしていない。俺の大事な家族に賭けて誓うよ」
「ふーん……なら、私と決闘しましょう?」
「決闘?」
「あんたの力、あたしが確かめてあげる」
「おいおい、勝手に決められても困るんだよなあ」
さすがにライズ先生の待ったがかかる。
「シュバルツァー君は実力で合格した。おじさんに勝った、保証する……と言っても、おじさんの言葉じゃ意味ないのか」
「そういうことです」
ジェイルストームさんは席を立ち、こちらにやってきた。
俺の前で止まり、びしっと指先を突きつけてくる。
「あなたが本物か、それとも偽物か……あたしが見極めてあげる。それに、他のみんなも彼の強いのか弱いのか興味あるでしょう?」
ジェイルストームさんが笑いながら周囲を見ると、大半のクラスメイトがこちらを見た。
彼女の言う通り、興味があるみたいだ。
「決闘、受けてくれる?」
「うーん」
ティア姉とフィアに色々と教わる際、いくつかの約束をしていた。
「いい、お姉ちゃんとの約束よ? 意味のない戦いはしないこと。誰かを傷つければ恨みを買うことがあるし、それが連鎖していくこともあるの。守るために刃を向けない。それも大事なことなのよ」
「それに、一流の冒険者はやたらめったら攻撃的になることはありません。その力をなんのために、誰のために使うのか? そのことをきちんと理解しているから、本当に必要な時以外は戦うことはありません」
……なんていうことを二人に言われていた。
今回の件、ココアを巻き込んでしまっている。
それに、ティア姉とフィアの名誉にも関わる話だ。
俺が我慢すれば収まる話ならそうしたけど、もうその範囲は超えている。
「わかったよ、決闘を受ける」
「いい返事ね。徹底的に叩き潰してあげるわ」
ふふふ、とジェイルストームさんは不敵に笑うのだった。
……その笑みが泣き顔に変わることを、まだ誰も知らない。
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