13話 相部屋
「えっ、ティア姉とフィアも冒険者学校に?」
僕とココアは試験に合格して、今日から冒険者学校の生徒になった。
授業は明日から。
今日は寮に移動して明日に備える。
そうして寮に向かうのだけど、途中、ティア姉とフィアも冒険者学校の生徒になったことを聞かされた。
「どうして、今更二人が冒険者学校に?」
「初心忘るべからず、よ」
「というのは建前で、これも依頼の一つなんですよ」
「入学するのが依頼?」
「元学長のように、困った人がいるという情報がありまして……そのような人物が関わっていたら健全な冒険者が育たない。それは冒険者ギルドにとって好ましくない事態です」
「だから、私達が潜入っていう形で調べることにしたの」
「なるほど……でも、そんな依頼をいつの間に? なにも話してくれなかったよね?」
「そ、それはその……秘密だったから!」
「そ、そうです。決してリア兄と一緒にいるため強引にねじ込んだとか、偉い人を脅したとか、そういうことはありませんからね?」
なんでそんなに慌てているんだろう?
「でも、そっか。冒険者になるため、一年、一人でがんばらないといけないと思っていたんだけど、これからもティア姉とフィアと一緒なんだね。嬉しいや」
「リアン君……そんな嬉しいことを言われたら、お姉ちゃん、抱きしめたくなっちゃう」
「ダメですよ、姉さん。リア兄を抱きしめるのは私です」
家族離れしないといけない。
いけないのだけど……
でも、やっぱり二人が一緒というのは嬉しかった。
これからの1年、よりがんばれるような気がした。
「ところで……」
「……にゃあ」
「ココアは、いつまで俺にしがみついているの?」
二人から逃げるような感じで、ココアは俺の背中に隠れている。
猫耳がぺたんとなっていた。
「大丈夫?」
「ダメかもしれない……」
「重症だね。ティア姉とフィアとなにかあった?」
「……リアンについて色々な話をされた」
「色々?」
「思い返すだけで震えが……ひぃ」
どうしよう?
こういう時は……そうだ。
「寮について荷物を置いたら一緒にごはんを食べよう?」
「ごはん!」
「腕によりをかけて美味しいご飯を作るよ」
「美味しいご飯! リアンのご飯! じゅるり」
ココアの尻尾がピーンと立つ。
「お肉あるかな? お肉! 肉汁あふれるステーキがいいぞ!」
「うんうん、あると思うよ」
「うへへへぇ、楽しみだなあ、早く食べたいなあ。お肉はやっぱり最高だ」
うん。
やっぱりココアは元気な方が似合っているな。
そんなこんなで寮に到着。
部屋割りを確認すると、
「俺と……」
「あたしが……」
「「一緒?」」
俺とココアが相部屋になっていた。
「「私達が一緒!?」」
一方、ティア姉とフィアが相部屋になっていた。
「なんで私がフィアと一緒なのよ!? リアン君と一緒になるように手配したのに!」
「どうして私が姉さんと一緒なんですか!? リア兄と一緒になるように手配したのに!」
「「……」」
「「今、なんて!?」」
「フィアが余計なことをするから裏工作がミスって、こんなことになっちゃったじゃない!」
「姉さんが余計なことをするからですよ!」
「「むううう!!」」
ティア姉とフィアが睨み合い、バチバチと火花を散らす。
できればやめてほしい。
ただの姉妹ケンカじゃなくて、剣聖と賢者の睨み合いだ。
それだけでも相当なプレッシャーが撒き散らされて、たまたま近くを通りかかった人が気絶していた。
「あ、あたしがリアンと相部屋……なのか」
「驚いたね」
「どうしてリアンはそんなに落ち着いているんだ? その……驚かないのか?」
「驚いているよ? こんな偶然、あるんだね。大げさかもしれないけど、なんだか運命みたい」
「そ、そうだな……うん」
なぜかココアが赤くなる。
「うぅ……でも、男と一緒か」
「冒険者になったら、異性とパーティーを組むことは珍しくないからね。相部屋なのも、そのための予行演習なのかも」
「そ、そっか。そういうことなら仕方ないのかな……」
「えっと……もしかして、俺と一緒は嫌なのかな?」
「「あぁん、文句あるって!?」」
なぜかティア姉とフィアが反応するけど、気にしない。
「あ、いや!? そんなことはないんだ。嫌とかじゃなくて、その……恥ずかしいな、って」
「恥ずかしい?」
「一緒の部屋で暮らすっていうことは、あたしの変なところも見られるかもしれないから、それを考えると……」
「俺は楽しみだよ」
「え?」
「ココアともっともっと仲良くなれるかもしれないからね」
「……リアン……」
「だから、一緒にがんばろう? 大丈夫。俺だって変なところを見せるかもしれないし、失敗したとしても、一緒に乗り越えていけばいいよ。俺達、パートナーみたいなものじゃないか」
「パートナー……うん、うん。そうだな! あたし達はパートナーだな!」
「じゃあ、改めてよろしくね」
「うん、よろしくだ!」
俺達は笑顔で握手をした。
「……姉さん、ヤッちゃいますか?」
「……それもアリかもね」
後ろでティア姉とフィアがなにから小声でつぶやいていたけど、それはよく聞こえなかった。
――――――――――
「意外と広いね」
部屋に入ると、まず最初にリビングダイニング。
小さいけどキッチンもきちんと備え付けられている。
そして、左右に個室へ繋がる部屋。
相部屋でもプライバシーは確保されているみたいだ。
「ココアはどっちの部屋を使う?」
「んー……じゃあ、あたしは右で」
「なら僕は左を使うね」
それぞれの部屋に荷物を置いた。
それからリビングに戻る。
「改めて、これから一年、よろしくね」
「ああ、よろしくな!」
「じゃあ、よろしく記念というか、そんな感じでごはんを作るね。肉がいいんだっけ?」
「あ、待って。あたしも手伝うよ。リアンだけに任せるとか、そういうのはダメだと思うんだ。だって……パートナーだし」
「うん、そうだね。じゃあ、手伝いをお願い」
「うむ!」
二人でキッチンに立つ。
俺はメインを、ココアはサポートを。
自分で言うのもなんだけど、俺とココアは相性が良いみたいだ。
長年、一緒に料理をしていたような感覚で、サクサクと工程をこなしていく。
「よし、完成だ」
「おぉおおおおお! 肉! お肉! ビーフぅううう!!!」
ステーキをメインにしたら、ココアの目が輝いていた。
ついでによだれも垂れていた。
さっそくテーブルに移動して、一緒に食べる。
「「いただきまーす」」
ぱくりと一口。
肉汁があふれ、肉の旨味が口いっぱいに広がる。
そこにピリ辛のソースが絡んで、旨味が倍増した。
「うん、成功だ。おいしくできたと思うんだけど、どうかな?」
「……」
「ココア?」
「……はっ!? あまりの美味しさに気絶してた」
「そんな大げさな」
「大げさじゃないぞ!?」
ぐぐっと、ココアが詰め寄ってきた。
「こんなに美味しいステーキ、初めて食べた! リアンはすごいな! 本当にすごいな! 強いだけじゃなくて料理も得意なんて……うん。将来はきっと、素敵なお嫁さんになると思う!」
「それを言うなら主夫だよ」
「そうとも言う」
「それより、おかわりあるけど食べる?」
「食べる!!!」
「了解。じゃあ、すぐに用意するね」
「ふぁあああ、あたし、今すごい幸せだぁ♪」
俺の作ったごはんで誰かが笑顔になってくれる。
これはこれで幸せだと思った。
――――――――――
……一方、リアンとココアの部屋の前。
「あううう、良い匂いがするぅ……リアン君のごはぁん……」
「それに、すごく楽しそうです……あぁ、なんで私はこの中に入れないのでしょうか?」
姉妹は涙を流しつつ、カリカリと扉をひっかいていた。
それは、いたずらをして怒られた猫そのものだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
「面白い」「続きが気になる」「長く続いてほしい」と思っていただけたら、
『ブックマーク』や『評価』などで応援していただけると嬉しいです!
評価などはモチベーションに繋がるので、どうか応援よろしくお願いします!




