12話 陰謀と願い
「俺が学長……ねえ」
学長に指名された試験官……ライズ・アルフェインは顎の髭を指先で撫でた。
どのように手配したのか、あれからすぐに冒険者ギルドから連絡が来て、正式にライズが学長に任命された。
あの最強姉妹の仕業だろう。
「元々、学長の座は狙っていたが、まさかこうも簡単に転がりこんでくるとはな。ラッキーというべきか……いや、そうそううまくいかないか」
ちゃんとやれ、と姉妹は釘を刺していた。
妙な真似をすれば、前学長と同じ末路を辿るだろう。
ちなみに前学長は、どこからか姉妹が持ち出してきた不正の記録で逮捕。
投獄されて、今は取り調べが進んでいる。
「冒険者学校は腐っている、まともな教育者を作り出す……ってのが俺の夢だったんだけどねえ。いきなりそれを実行できる立場になると、おじさん、戸惑いしかないよ」
やれやれとため息をこぼす。
ただ、ライズは笑っていた。
「さーて、色々と改革に乗り出したいところだけど……やっぱり、アレをやりたいねえ」
ライズには願いがあった。
いつか、と思いつつ、実行に移せなかった夢があった。
それは、冒険者に冒険者としての誇りを取り戻すこと。
そのためにすることは……
「ま、当面は仕事をがんばりますか」
ライズは笑う。
とある野望を胸に描きつつ、ニヤリと笑うのだった。
――――――――――
「ティア姉! フィア!」
二人が学長室から出てきたところで声をかけた。
「やっほー、リアン君。元気にしていた?」
「おや、このようなところで奇遇ですね」
「いやいや、奇遇もなにもないから」
あれで奇遇を装えていると思っているのなら、失礼だけど、俺は二人の脳を疑うぞ。
「どうしてここに?」
「それは……ちょっとした伝手で、冒険者学校の学長が腐っている、っていう情報を手に入れたの」
「リア兄なら絶対に試験に合格すると思っていたけど、でも、あらぬ言いがかりを受けてしまうことはあるかもしれません」
「そんなわけで様子を見に来たら案の定……っていうわけ」
「腐った学長は私達がこらしめておいたので、リア兄は心配せず、しっかりと学んでくださいね」
「そっか……ありがとう、二人共」
「「ところで」」
ティア姉とフィアの視線が俺の後ろに向かう。
「ひぁ!?」
ココアがぴょんと跳ねて、俺の背中に隠れた。
シャー、と小さく吠えている。
意外と人見知り?
「リアン君、そちらの可愛い子は誰かな?」
「よかったら私達に紹介してくれませんか? ませんか?」
なぜだろう?
二人から妙な圧を感じる。
「えっと……この子は、ココア。王都に来る途中に出会って、友達になったんだ」
「へぇ……」
「友達に……」
「にゃ!? な、なんか怖いぞ、この二人……ガクガクブルブル」
怯えるココアが俺にくっついて。
なぜか、さらにティア姉とフィアの圧が増す。
理由は不明だけど、負のスパイラルに陥っているような?
「ねえ、ココアさん。ちょっと私達だけでおしゃべりをしない?」
「え?」
「そうですね、ちょうど私もそうしたいと思っていました」
「え? え?」
「さあ、あっちの談話スペースに行きましょう?」
「そして、とことんリア兄について語りましょう?」
「な、なんでぇえええええ!?」
ティア姉とフィアに両脇をがっしりと抱えられて、ココアが連行されていく。
目で助けを求めてくるけど……ごめん。
俺に二人を止めることは不可能だ。
「がんばって」
「見捨てられた!?」
ガーン、とショックの表情を浮かべたココア。
それが、俺が見た彼女の最後の姿だった……
……なんていうことはなくて。
「タダイマ、リアン」
「ココア、大丈夫だった?」
「モンダイナイ。ティアハートサマ、フィアムーンサマ、ヤサシイ」
「なんで片言……? っていうか、様つけって……」
「モンダイナイ」
この後、ココアが元に戻るのに半日ほどかかった。
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