11話 落とし前は?
冒険者学校の学長室。
高級な牛の革が使われたソファーにティアハートとフィアムーンが座る。
その手前に平伏する学長と、その他教員の姿が。
姉妹は氷のような眼差しで学長達を睨みつける。
「それで……どういうことかしら?」
ティアハートが静かに問いかけると、学長を始め、その場にいる教員達の体がびくりと震えた。
「な、なんのことでしょうか……」
学長は汗を流しつつ、とぼけてみせた。
学校の頂点に立つ男。
しかし、相手は剣聖と賢者だ。
最強の冒険者。
王国の切り札と呼ばれている。
また、国との繋がりも深く、王とタメ口で話をする仲という噂もある。
絶対に敵に回してはいけない相手だ。
そんな相手が激怒している。
正直、生きた心地がしない。
「とぼけないでください。不当な獣人差別に、言葉による暴力。それと殺人未遂。その全てを私達は見ていました」
「色々とあって、こっそり試験の様子を見ていたんだけど、まさか、こんなことになるなんて思わなかったわ」
色々というのは、リアンのことが気になりすぎて様子を見ていた、ということになる。
この日のために徹夜で仕事を片付けていたのだ。
大好きな弟の活躍を期待していたのだけど……
まさか、こんなにも不愉快な場面を見せつけられるとは。
そして、愛しい弟に手を出そうとするとは。
ゆ・る・せ・な・い。
剣聖ティアハート。
賢者フィアムーン。
王国の切り札は心底怒っていた。
「あれは、その……そう、誤解なのです!」
「誤解?」
「学校を守るためにしたことで、その、少々やりすぎたかもしれませぬが、決して悪気があったわけではなくて……」
「……獣人差別については?」
「獣人は浅ましく、獣と同じレベルです。そのような者を受け入れたら、学校の品位が落ちてしまうでしょう。学校を守るためなのです」
「……生徒に殺意を向けたことは?」
「あれは……あ、愛の鞭というやつですな。彼ならば大丈夫、受け止めてくれるだろうとそう思い、あそこまでしたわけです」
「そう」
ティアハートはにっこりと笑う。
許された?
学長は安堵するものの、それは早とちりだった。
獣人差別も許せないが……
なによりもリアンに害を成そうとしたことを、姉妹は絶対に許さない。
「ねえ、フィア」
「なんですか、ティア姉さん」
「私、学長の話に深い感銘を受けたの」
「そうですね、私もなるほど、と思いました」
「おぉ、お二人ならばわかってくださると信じていましたぞ!」
「だから……私達も愛の鞭を与えるわね?」
「……え?」
学長の顔がひきつる。
「私も愛の鞭とやらを与えてあげますね。思い切り、手加減なく、全力で」
「もちろん、構わないわね? だって、愛の鞭だもの。愛の鞭だから、なにをしてもいいんでしょう?」
「え、いや、それは……!?」
姉妹が立ち上がる。
そして、それぞれ剣と杖を構えた。
「じょ、冗談……ですよね?」
「「マジ♪」」
姉妹はどこまでも本気だった。
――――――――――
学長室で巨大な爆発が起きた。
それと同時に、周囲まで響き渡る悲鳴が聞こえたのだけど……
それはまた別の話。
――――――――――
「さて」
ティアハートとフィアムーンが再びソファーに座る。
学長室の壁に巨大な穴が空いてしまったのだけど、それをまるで気にしていない。
「剣聖と賢者の権限で、あの学長は解雇します。クビです。異論がある人はいますか?」
「「「……」」」
全員が顔を青くして首を横に振る。
「よろしい」
「後任は国に……任せたら、また妙な人が来るかもしれませんね。えっと……そこのあなた」
「俺ですかい?」
フィアムーンに指をさされたのは、リアン達を見た飄々とした試験官だった。
「あなたが学長を務めてください」
「え」
「聞こえませんでしたか?」
「いや、ちゃんと聞こえましたけどね。本気ですかい?」
「本気です。あなたなら、それなりにちゃんとやってくれそうなので」
「はぁ、評価してくださるのは嬉しいですが……」
「嫌ですか?」
「……いえ。やらせていただきます。誠心誠意、がんばりたいと思いやす」
「はい、期待していますね」
「それと」
ティアハートが話を引き継ぐ。
「腐れ外道……ではなくて、元学長が獣人を落第にするように言っていたけど、そのようなことはしないように。冒険者学校の門は種族関係なく開かれていないと、ですからね」
「もちろんですとも」
「わかっているのならよし」
姉妹が席を立つ。
「それじゃあ、私達はこれで帰るけど……」
「もしも同じようなことがこの先も続いたら……わかっていますね?」
「「「はい!!!」」」
「「よろしい」」
こうして、ティアハートとフィアムーンの二人は嵐のようにやってきて、嵐のように立ち去っていった。
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