10話 言いがかり
「今の審査、納得できないのう」
そんな言葉と共に姿を見せたのは新たな試験官だった。
初老の試験官は鋭い視線を同僚に向ける。
「そこの二人が合格? 文句なし? いやいや、ありえないじゃろう」
「学長は俺の判断に異論が?」
学長だったのか、この人。
「大アリじゃ。そこの少年は百歩譲ってよいとしても……その小娘まで合格を言い渡すとは何事か」
「俺に一撃いれましたが?」
「そんなことはどうでもよい。獣人じゃぞ、獣人。そのようなものを我が校に入学させたら、神聖な校舎が汚れてしまう」
む。
「あー……うちは別に、種族で入学制限をかけているということはないはずですけどねえ?」
「ふん、そんなものは口にするまでもないじゃろう。察しろ」
「あいにく、俺はそういうのが苦手でしてねえ。ちゃんと事前に言ってもらわないと」
たぶん、試験官は俺達の味方だ。
やんわりとだけど、ココアの入学を認めるように説得してくれている。
しかし、学長は頑なに首を縦に振らない。
一部で獣人を差別する人がいるということは知識として知っていた。
人と似て、しかし違う外見を持つ。
そのせいで半端者と蔑まれることがあるのだとか。
「とにかく、だ。獣人なんぞの入学を認めるわけにはいかん! そもそも、入学試験を受けさせることも認めておらんぞ。受付はなにをしていたのじゃ!?」
「学長。今の時代、そのような発言をしたらまずいですよ」
「ふん、知ったことか。ここは儂の学校じゃ。儂が法じゃ。誰にも文句は言わせぬ」
「いや、ですから……」
「さっさとその獣人を追い出せ。それと、すぐに清掃業者を手配しろ。訓練場が汚れてしまったではないか」
学長は酷い言葉を連発して……
「……すまないな、リアン」
「ココア?」
「あたしのせいで、リアンまで巻き込んでしまうところだった」
「まって。まさか、おとなしく帰るつもり?」
「はは、仕方ないさ……あたしは獣人だからな。それはもう、どうしようもないことで……だから、仕方ないんだ。うん、仕方ないんだよ」
ココアは困ったように笑う。
でも、その瞳は潤んでいて……
ぽろりと、涙が流れた。
「……すみません。ちょっといいですか?」
「なんじゃ? 仕方ないからお前は合格でいい。そこそこ強いみたいだからな。それで文句ないだろう」
「いや、大アリなので」
「うん?」
俺は拳を振りかぶり、
「ほぐぁ!?」
学長を殴り飛ばした。
学長が飛んで、飛んで、飛んで……
ガァン! と果てにある壁に激突してようやく止まる。
「「「!?」」」
この場にいる全員が目を大きくして驚いた。
俺も驚いていた。
なんか、思っていた以上に飛んだな……
意外と体重が軽かったのかな?
「な、な……なにをしているんだよ!?」
ココアが一番慌てていた。
「い、いきなり学長を殴り飛ばすなんて……!?」
「あいつ、ココアに酷いことを言って……許せなかったんだ」
「だ、だからって殴り飛ばすヤツがいるか! せっかく合格したのに、いや、逮捕されてしまうことも……ああもう、どうしたらいいんだ!? あたしなんかのせいで……」
「なんか、とか言わないで」
「……あ……」
ココアの頬に手を添える。
その熱で、彼女は少しだけ落ち着いたみたいだ。
「俺にとって、ココアは大事な友達だよ」
「で、でも、出会ったばかりなのに……」
「時間なんて関係ないよ。ココアは大事な友達だ。そのココアが傷つけられた……なら、俺は絶対に許すことはできない」
「……リアン……」
ココアは涙ぐんで、
「ばか!」
抱きついてきた。
ぽかぽかと胸を叩かれる。
「ばかだ、お前は……本当にばかだ」
「ごめんね」
「でも……ありがとう。嬉しいよ」
「うん」
そっとココアを抱きしめて、その頭を優しく撫でた。
「……やってくれたな」
地の底から響くような声。
見ると学長が起き上がり、鼻血を流しつつ、こちらを睨んできた。
タフな人だ。
「この儂に手を上げるとは……許せぬ!」
「おいおいおい……学長、子供がやったことだ。マジにならないで、大人の心で寛大な対処を……」
「黙れ! ここまでコケにされて許すことなどできるか、消し炭にしてくれる!」
学長は吠えるように言い放つと、片手を空に向けて突き出した。
その手の平に魔力が集まっていく。
「汚らわしい獣人と一緒に死ぬがいい。来たれイフリート、紅の火炎竜!!!」
魔力で炎の竜を作り、それを敵にぶつけるという上級魔法だ。
直撃したら骨も残らないと言われている。
「くっ……リアン、あたしがどうにか受け止めるから逃げて!」
「その必要はないよ」
「え?」
これくらいなら、たぶん、なんとかなる。
フィアを相手に魔法の訓練も重ねてきたので、魔法もそこそこ得意だ。
というわけで……
「来たれシヴァ、蒼の海龍」
火には水。
氷で編み込まれた龍を呼び出して相殺した。
「なぁ!? わ、儂の魔法を打ち消した? い、いや、これは単なる相殺ではない……周囲が凍ってしまっているところを見ると、威力は儂よりも遥かに上。ばかな、そのようなことが……」
「謝ってください」
「……なに?」
「ココアに謝ってください」
「……」
狼狽していた学長だけど、その表情がみるみるうちに凍りついていく。
それでも、構うことなく俺は言葉を並べていく。
「あなたが口にした言葉は、教育者としてありえないことです。あまりに酷すぎる」
「だから、儂に謝れと?」
「はい。悪いことをしたら、ごめんなさいをする。子供でもわかることですよね?」
「貴様……!!!」
学長がものすごい勢いで睨みつけてきた。
「この儂に!!! 獣人ごときに謝れと言うのか!!!? この冒険者学校の頂点に立つ、この儂に!!!」
「はい」
思い切り凄まれるものの、関係ない。
「ガキが、調子に乗るな! その気になれば、一生、牢にぶちこむことができるのじゃぞ!?」
「謝るつもりはないと?」
「あるわけがなかろう! 消えろ! お前も獣人と同じ、とても汚らわしい! 儂の学校をこれ以上汚すな」
「……そうですね、そうします。俺は冒険者に憧れていたけど、ここで学ぶことはなにもなさそうだ」
「なに!?」
「女の子を傷つけて偉そうにする人の元で学ぶことなんてない!」
立ち去ろうとして、
「「待った!!」」
再び第三者の声が乱入してきた。
聞き覚えのある、というか……
この声は間違いない。
「ティア姉? フィア?」
いつからそこにいたのか、姉と妹の姿があった。
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