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僕と君のワンルーム

作者: 大崎 楓

たんぺーん


君のいなくなった部屋は散らかったままだ。

雑誌と服は散乱するし、皿は洗わずに置かれたまま、灰皿にはタバコの吸い殻が溜まっている。


そんな部屋を僕は片付けようとは思はない。

君を呼ぶための口実にしようとか君が戻ってくるんじゃないかとか考えてしまうんだ。

けれど、もう僕たちは一緒にはいられないのに。そんなことばかり考えてしまう。


君がいなくなったアパートのワンルームはとても広く感じるよ。二人がけのソファに一人で座る。


一人で夜が明けるのを待つ僕を君に知られたくないと思ってしまう。


君がいなくなって気づいた君への愛。

今まで無意識に君を愛していたのかもしれない。そんな愛を君がいなくなって気づくなんて、なんで悲しい愛なんだ。


もしかして、僕の愛に君は気づいていたのかな?


          *



君との関係はそれほど大層なものではなかったね。友達のようだけれど友達ではやらないことをする。恋人ではないけど、恋人のようなことをする。ただの体の関係。


いつからだったのだろう。こんな関係になったのは。


君との出会いは僕が大学生になった時。

君は二年生で僕は一年生。


僕が大学の図書室に行った時だった、

図書室の扉を開けると、春風の香りがした。

そして、視界に入ったのは君だった。


柔和で切れ長な目、目鼻立ちもよく、白磁のような真っ白な肌、絹糸のような髪は肩の辺りで切られ風になびく。

君は髪を耳にかける。

君が本を読む姿は僕を惹きつけた。


僕は本を取る。そして君から目が離せず、君の対面に座った。


あの時は、僕はとても焦った。変な人だと思われてないか僕が君を見ると、君は本を閉じて僕に微笑んでくれた。あの笑みを僕は忘れられない。


「その本は面白いんですか?」

僕は意を決して話しかけた。

君は少し驚いたような表情をしてから答えてくれたね。

「面白いよ、男の叶わない恋の物語。君も読む?」

「大丈夫ですよ。まだあなたが読んでいるじゃないですか。あなたが読み終わったら読んでみます」

「気にしなくてもいいよ。私はこの本を読むのも一回目じゃないから」

「そうなんですか…じゃあ、お借りしますね」

君が本を差し出して、僕が受け取った。


「読み終わったら感想聞かせてね」

君はそれだけ言って、図書館を去った。僕は最後まで君から目が離せなかった。



         *



その後も、僕と君との本の貸し借りをする仲は続いた。

「この本面白かったよ。初めて読むジャンルだったけど、本の中に入ったみたいになったよ。他にも面白い本ないかな?」

「それはよかった。私も好きな本を面白いと言ってもらえて嬉しいよ。また面白い本教えてあげるね」


そして、僕たちはおすすめの本を勧めたり勧められたりしてから、読んで、図書室で感想を言い合う仲になっていた。

夏になるといつの間にか大学の近くにある僕の住むアパートのワンルームで一緒に本を読むようになっていた。蒸し帰るような空気に蚊取り線香の香りが充満する。そんな部屋でいつも集まって本を読んでいた。


君がいつも読む本は悲しい愛の物語。叶わない愛、失う愛、そんな内容の本をいつも読んでいた。僕もそれに影響を受けて好きになっていった。そんなある日…

「私たちもこんな関係になってみる?」

君の言葉で僕たちの関係は変わってしまった。体の関係へと…



         *



君の服が落ちる、そこには芸術品のような美しい体があった。君はベットに横たわり僕を蠱惑な笑みで誘惑する。僕はそれに応えて君に体を重ねる。絹のようなサラリとした肌を撫でる、君の甘い香りが漂う。僕はどうしても欲を止められない。


僕たちは絡み合った。




僕たちは行為を終えるといつもベットの上で背中合わせで座る。僕は君の影響で初めたタバコを吸う。君はスマホを見ながら一緒にタバコを吸っている。

会話がある時もない時もある。

その日もいつも通り背中合わせで座ってタバコを吸っていた。しかし君が一言


「私、大切な人ができたの。だからこの関係も終わりにしましょう」

さも、普通のことのように君はスマホを見ながら言った。

僕は何故か焦らなかった。ただ「そうなんだ」と言った。


それでも一つだけ聞いた。

「大切な人って、どんな人?」


とても長く感じる一瞬の時を静寂が支配した。そして、君が

「あなたには理解できない人」

と言った。

そのあとは、ただただ時が流れた。


君のスマホはまるで月明かりのようで…


君の顔を照らしきっても、

僕の心は沈みきって暗いままだった。



         *



次の日、君はキャリーバッグを持って僕のアパートに来た。タンスの服と私物をバックに詰めて、部屋を少し掃除してくれた。


君は掃除を終えるとバックを持って玄関に向かう。僕も、見送るために重い足を持ち上げて歩く。


玄関に着くと、君はこちらに振り向いた。


「これで、あなたとの関係は最後になると思うの。だから、私と三つ約束をしてくれる?」

僕はコクリと頷いた。


「まず一つ。たまには自炊して健康的な食事をすること。二つ目は、お金は大事に使うこと。そして最後は…


私みたいな存在を私で最後にすること」


僕はそれを聞いて君はずるいと思った。


「今までありがとう」


君からの言葉で君がいなくなるとやっと気づいた。でも、それはもう遅くて…

君の言葉とドアの音が部屋に響く。


部屋には君が忘れたタバコだけが残った。



         *



君がいなくなった日から一ヶ月。

君は大学からもいなくなってたね、まるで元々いなかったみたいに…


君がいない大学はそれほど辛くはなかったよ。けれど、君がいなくなった僕のワンルームはいるだけで辛くなってくる。


君と一緒に寝たベッド、一緒に本を選んだ本棚、夜食を食べた机、君との思い出が詰まったワンルーム。


僕はソファに座る。二人がけのソファに。

机には君の忘れたタバコが置かれたまま。

僕はタバコを手に取る、箱を開けてタバコを取り出した。口に咥えてタバコに火をつけた。


吸って吐く


煙が部屋に広がる


タバコの味はいつもより苦かった。新品の君のタバコはなぜか君の甘い香りがした。


タバコの灰が落ちる。


僕は今も君との思い出が詰まったワンルームに囚われている。


あぁ、もしもあの日あの時、こうなると知っていたら、いつもより君を長く抱きしめていたのに…


読んでいただきありがとうございます。

今回も友達テーマシリーズです。テーマは「忘れられない人」だったのだ曲名は忘れてしまいましたが聴いたことある曲をモチーフに自分の解釈を入れて物語にしました。二次創作に分類されるのでキーワードを入れましたが、利用規約に抵触しそうな場合は削除します。


最後に

少しでも面白いと思って頂けたら「評価」(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)を是非宜しくお願い致します。

感想もお待ちしております。


これからの執筆を続けていく大きなモチベーションとなりますのでよろしくお願いします!

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