Sequence59:腐れ縁は苦言を呈する
「いやあ、ナイス・ディフェンス、俺!」
そう大声で笑いながら言ったのは、レッドブレイズのアレン。
アレンの周囲には、シークエンス間の作戦会議のためセット・ラインにチームのメンバーたちが集まっていた。
その中の一人、Bショートを守っていた選手がおもむろにアレンの近くへと歩み寄る。
それを見て、上機嫌なアレンが更に言葉を続ける。
「なあ、レイン、どうだったよ? 俺の咄嗟に機転を利かせたディフェンス、ナイスだった──」
しかし、その言葉を言い終わる前にレインと呼ばれた少年が取った行動は、まさかのアレンの頭をはたくというものだった。
しかし、その手をまるでいつものことで慣れているかのように、アレンはそれを華麗に躱してみせる。
二人の攻防があまりにも自然なせいで、本来ならあり得ない試合中の味方に対する行動も、周囲からは特にざわめきが起きることもない。
実際、二人以外のチームメイトたちも慣れたものだと、彼らのやり取りを笑いながら眺めている。それだけ、こうしたやり取りが彼らにとって日常的なことなのだと見て分かるかのように。
「おいおい、何すんだって。危ないだろ」
想定外の行動にも、おちゃらけた様子を崩さないアレン。
「危ないのはお前だ、馬鹿アレン。」
そんなアレンに、レインは呆れた声で返答する。
「何がさ。」
「何がさって、お前、いまのシークエンスでマリンブルーがさっきの試合の逆択を取ってくることを予想していただろ。」
「え? ああ、うん。」
「じゃあ、何で俺たちに言わなかった?」
「そりゃあ……」
詰められたアレンは、少し悩んだ素振りを見せる。
「何となく勘、だったから、かな。」
その言葉を聞いたレインは、今度こそ本当に呆れた顔で頭を抱えた。
それは、アレンが言っているのは本当にことだと知っているからだ。
「どんな風に?」
「え、いやあ。何となく、さっきとは反対のBロングに来そうだなあ、って。」
その言葉は、聞く者によってはあまりにも意味不明な言葉だったかもしれない。
アレンは、試合の前にジャンを煽っていた通り、確かにいまの逆択を予想していた。
しかし、それは決して論理的に予想していた訳ではない。
通常、相手との読みに勝つ場合は、ミッドと両ショートを目くらましにしながら、その裏でAロングの選手がサイド・チェンジを行うという盤面をきちんと想像して、それに対応する。
しかし、アレンがBロングのディフェンスに反応が出来たのは、実際はただ彼の勘が事前にそう感じていたから、というだけ。
「だから、まあ、そんな勘だけ伝えても説得力ないじゃん? それに、俺なら間に合うと思ったからさ。なら、別に言わなくても良いかな、って。」
そう言ったアレンの目は、自分の発言がどれほど常識外れなのかを本気で理解していない様子だった。
それを昔から付き合いが長いお陰で理解しているレインは、一度だけ大きく溜息を吐く。
「それでも良いから、皆に言え、アレン。それに、お前が猛スピードで突進してくるのに俺がもしも反応することが出来なかったら衝突するだろうが。そうしたら、相手を止めるどころか、俺たちのどっちか、もしくは二人とも怪我する可能性だってあったんだぞ。」
「ああー、確かに?」
レインの指摘に、アレンは両手を叩きながらなるほどと納得する。
「……まあ、でも、お前なら避けるって思ってたよ。」
「はあ。お前みたいなフィジカル馬鹿と一緒にするな。こっちは冷や汗をかきながらギリギリで避けたんだからな。」
「そりゃ、悪かったって。今度からは気をつけっから。」
「そうしろ。」
そうして常識的な顔つきで苦言を呈したレインもまた、全く理解していなかった。
レッドブレイズというチームは、メンバーが揃いも揃ってフィジカルに優れているが故に、自分の判断基準が既におかしくなっており、周囲から見ればあの猛スピードで急転換したアレンを避けられるのは、普通ならあり得ないということを。




