Sequence58:初心者たちは議論する
第1シークエンスは、相手の裏をかく選択肢をとってきたマリンブルーの攻撃に対して、レッドブレイズが見事な対応を見せ、互いに均衡状態を保ったまま終了している。
両チームはすぐさまシークエンス間に次の作戦をどうするかチームメイト同士でフィードバックを行うため集合していた。
そして、それを見守るフィールドの外でも、キングスフィールドの面々が筆頭選手であるウィルを中心に、先程に見たプレイの整理を始める。
「まず、二人はさっきのプレイ、どういうものだったか理解は出来ている?」
ウィリアムが、未経験者組であるエリオットとサフィアスの二人に質問を投げ掛ける。それは、この練習試合を行う目的が、彼らに経験を積ませるためのものであることを意識したものだった。
ただ、エリオットは彼からの質問に対して大きく首を振る。
エリオットからすれば、第1シークエンス開始時は、自分たちと試合した際と作戦と同じ形の盤面展開だと予想していたのに、それを裏切るような別の形に展開が行われたため、整理が全く追いついていない状況だった。
エリオットの実感的に言えば、本来、出てくるはずのない場所から攻撃手が現れたのだ。正直に言えばまだ全く理解が追い付いていない状況だった。
それに対して、横にいたサフィアスは顎に手をあてながら思案するような顔をしている。
「サフィアスは何か思いついているみたいだね。さっきもプレイ中に幻影と叫んでいたやつかな。」
それを見たダンデリオンが発言を促すように声を掛ける。
「……はい。Bロングに設置されていた魔術を、最初は私たちと試合した際に使用されていた障壁と同じものだと思っていました。しかし、実際に設置されたいたのは、絶対に突き破ることの出来ない障壁と見た目だけ同じ幻影だった、のだと思います。」
「その通りです。」
サフィアスの言葉に、ウィリアムが頷いた。
なるほど、そんな魔術もあるのかと、エリオットは感心した。
流石は、天才的な魔術師と名高いノーリッジ家の嫡男だけあって、先程のシークエンスで使用されていた魔術の見極めは既についていたらしい。
こうした知識は、あまり魔術に触れて来なかった商家の息子であるエリオットにはないものだった。同じくデュアルフットの経験こそなかったものの、彼がこれまで積み重ねてきた魔術の訓練が活かされているのだろう。
そして、サフィアスのお陰で、エリオットの疑問も一つ解消される。
「確かに、Bロングに設置されていたのが障壁ではなく幻影だったと整理が出来ると、Bロングは侵入が不可能だったはずという疑問が解消されるね。そうすると、次はあの攻撃手がどうやってBロングに現れたのか、考えれば良いのかな。」
未経験ではないものの、まだ初心者の枠からは抜けていないダンデリオンも、サフィアスの出した解答に触発されるような形で議論に加わる。
「私の見間違えでなければ、Bロングに吶喊してきたのは、シークエンス開始時にはAロングにいた選手だったんじゃないかな。」
「「正解。」」
ダンデリオンの言葉を、グレイ兄弟が同時に肯定する。
「……であれば、あの攻撃手は、両ロングに魔術が設置されたことによってぐっと幅が縮まって出来たミッドと両ショートの三人が作る前衛ラインの裏を通ってきた、ということか。」
そして、それを受けて再びサフィアスが盤面の整理をまた一つ進める。
「だな。実はあの時、相手側からの視界を塞ぐ効果を発揮していたのは両サイドの魔術だけじゃあなかった。実際には、攻め込むと見せ掛けていた前衛の三人も、その後ろを通ってAロングから反対のBロングまで大きくレーン・チェンジする選手を隠すための目くらましだった、ってことだな。」
そう言って盤面整理を改めて言語化してくれたのはアレクシウス。
「彼ら前衛はAショートで格闘戦を行うフリをしながら、その裏を通るAロングの選手にスパイクをバック・パスしておいた訳ですね。そうすると、仮に相手側が先程の試合で私たちが対応していたようにAショートに敵が四人で攻め込むと想定して対応して同じ人数を割くと、反対のBロングにぽっかり人数有利の穴が開くことになる状況の出来上がりです。デュアルフットでは、このように同じ盤面からその逆を突けるような展開へ持ち込むことを裏選択肢……縮めて裏択と呼んだりします。」
そう言ってウィリアムが纏めてくれてようやく、エリオットも先程のシークエンスでどういう攻防が行われていたのか、少しずつ理解が追い付き始めてきていた。
「裏択のある盤面は非常に強力な作戦です。仮に、今度はBロングに来ると予想してそちらに人数を割いた場合、バック・パスせずAショートに吶喊する前衛三人にAロングの選手まで攻撃支援に参加されれば、やはり人数有利を作られてしまうため、常に二つの選択肢のどちらで相手がくるのかチーム全体できちんと意思疎通を図りながら組織的に動いて、尚且つ読み合いに勝たなければ通常は守り切れません。」
「……じゃあ、いまのシークエンスではレッドブレイズが組織的に動いて、読み合いに勝った、と?」
ウィリアムの言葉に、エリオットが訊ねる。
しかし、それに対して返ってきたのは、大きく首を横に振る否定だった。
「本来であれば、そうです。だけど、いまの攻防はそうじゃあなかった。それが事前に言っていた、レッドブレイズの恐ろしいポイント、個人の力というやつなんです。」
そう言ったウィリアムが視線を向ける先では、レッドブレイズのメンバーたちが、シークエンス間のミーティングを行っていた。




