Sequence55:好敵手は盤外戦術を仕掛ける
「いやあ、引き分けとは、良いもん見せて貰ったなあ!」
練習試合を終えたキングスフィールドとマリンブルーの面々が引き上げてくるなり、そう言って大きな声で迎え入れたのはレッドブレイズのアレン・ダイア―。アレンは、拍手しながら満面の笑みを浮かべている。
「本当に良い試合だったぜ、今度はさっきの反省を活かして、あらかじめ見るべきものをきちんと全て見たしな!」
それは、まるで相手の手の内を全てを見透かしたかのような言い方だった。
「随分と余裕そうですね。しかし、私たちもまだ全て手札を切った訳ではありませんよ。」
それに対して、次に続けてレッドブレイズとの練習試合を予定しているマリンブルーの一年生筆頭選手であるジャン・ジャック・ピエリネリラが問い掛ける。
ウィリアムも、まだマリンブルーの戦術に関する底は見えていないという点については同意する。
デュアルフットは攻守を同時に行うために消耗が激しいスポーツであり、求められる運動強度的に試合時間をそこまで長くすることが出来ない。それ故、延長を除いた基本的なシークエンスは5と設定されている。だからこそ、いまの一試合のみで露わになったマリンブルーの戦術があくまで一部に過ぎないのは明らかだった。
当然ながら、それはアレンも同様に理解している。
「そりゃ、そうだ。俺らも、マリンブルーの戦術を全て見切ったとは流石に思っちゃいないさ。ただ──」
しかし、その上で、アレンは自信満々にこう言い切った。
「さっきの試合で見せてくれた障壁、あそこから次に発展させる形なら、幾つか予想を立てられたぜ。」
「……ほう?」
その言葉に、ジャンの目が鋭く光る。
アレンの宣言は明らかに盤外戦術としての挑発であった。
マリンブルーには、鉄壁の守備を基礎とした上で、多様な魔術を使い分けることによって相手に狙いを一つに絞らせないという強みがある。
本来であれば、レッドブレイズとの試合は、先程の対キングスフィールドで使用していた障壁とはまた異なる魔術を選択するべき場面に違いない。
しかし、それをアレンはいま、出来る限り縛ろうとしている。
当然、マリンブルーの側にはそれに付き合う義理は存在しない。
だが。
「良いでしょう。それじゃあ、答え合わせといこうじゃあないですか。」
しかし、戦術を肝とするマリンブルーだからこそ、こんな勝負を仕掛けられて黙ってはいられない。
その意味では、アレンの第一手は間違ってはいなかった。
「ありがてえな。その代わりに、こっちも出し惜しみはしねえから、存分に味わってくれ。」
そう言ったアレンの目線は、ジャンだけではなく、ウィリアムにも向けられている。
その圧は、彼が本気であることを充分に伝えていた。




