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Sequence54:筆頭選手は笑う

 ダンデリオンがマリンブルーの鉄壁を崩し、同点に追いつくまさかのブレイクを決めた直後、フィールドに大きな笛の音が響き渡る。


 それは、審判による試合終了の合図だった。


「キングスフィールドとマリンブルーの試合は、本来であれば延長戦となるが、此度は一年生同士の練習試合であるため、このまま同点の引き分けとする!」


 それに続いて、審判が大声で結果の裁定を言い渡す。


 デュアルフットでは幾度にも渡る攻防の積み重ねを経て、結果的に同じ得点へと至った場合、本来なら最終的に得点差が付くまで延長戦を行うシステムとなっている。


 しかし、今回は審判の言葉の通り、高等学院に上がったばかりの一年生ではまだ体力が仕上がり切っておらず、尚且つこの後も試合が連続して行われる予定のために、同点の場合も延長戦は行わず、このまま同点で終了と決定されていたのだった。


 実際、両校の選手たちは、ウィリアムやアレクシウスたちのように幼い頃からずっとデュアルフットを長くプレイしてきた選手は別としても、ほぼ全員が既に肩を大きく揺らし、その体力に限界が近いことを示していた。


 特に、デュアルフットどころか運動自体が高等学院に入学してからようやくであるというエリオットの消耗は激しく、これ以上の続行は流石に無理をさせてしまうだろうことは誰の目にも明らかだった。


「……勝負が決まらないのは些か悔しい気もしますが、得るものがたくさんありましたから、今回は同点という結果を受け止め、楽しみは本番の公式戦まで取っておきましょう。」


 それを見ながら、ウィリアムがエリオットだけでなく、ダンデリオンやサフィアスに声を掛ける。


「まあ、初めての試合にしてはよくやったさ! それじゃあ試合終了の挨拶だ、さっさと並ぼう!」


 アレクシウスもメンバーを激励しながら、そう叫んだ。


 そうして、フィールド上のセット・ラインに、キングスフィールドとマリンブルーの選手たちが、試合開始時と同様に並び直していく。


「礼!」


 その真ん中に立った審判による締めの合図が叫ばれると、全員が一斉に相手に対して頭を下げ、大きな声で感謝の言葉を述べる。


「「ありがとうございました!」」


 そして、選手たちはお互いにセンター・ラインまで駆け寄ると、まずは自分の対面ポジションに立っていた相手と固く握手を交わす。


 時に互いの身体を激しくぶつけ合いながら競った相手とも、試合が一旦終わればわだかまりなく互いの健闘を称え合う。それがデュアルフットの精神である、敵味方無し(ノー・サイド)の精神。


 そして、そのまま選手たちは思い思いに挨拶を交わしたい相手選手のところへと駆け寄る。


 マリンブルーの選手たちは大半が、最後に同点へと追いつくブレイクの決め手となったダンデリオンの元へと駆け寄っていく。


 彼らは口々に、最後のプレイで見せたプレイは何だったのか、そしてデュアルフットは本当にこれまでやってきていなかったのかなど、立て続けにダンデリオンへと感想戦を申し込んでいた。


 他人に囲まれることの多かったダンデリオンは、しかしこれまで近寄ってきた人々の打算に塗れた目と異なる、純粋に驚愕を示す彼らに幾分か戸惑いながら、それに対応しているようだった。


「いや、すまない。実は、私も咄嗟にやったもので、まだよく分かっていないんだよ。」


 そうはにかみながら告げるダンデリオンを、すぐ横ではサフィアスが見守っている。


 恐らく、多くの選手がこの試合のMVPをダンデリオンだと思っているのだろう。


 そうした中、若干おぼつかない足取りでフィールドの外へと歩いて行こうとする選手が一人。


「はあ、はあ……っ」


 体力の限界を迎えようとしていたエリオットが、しかしフィールドの外へ至る直前に足をもつらせる。


「エリオ──」


 それを見逃さなかったウィリアムが彼を助けようとした、その時だった。


「おっと、大丈夫ですか。」


 倒れかけたエリオットに手を貸したのは、彼の元へと駆け寄ろうとしていたマリンブルーの一年生筆頭選手であるジャン・ジャック・ピエリネリラだった。


「あ、ありがとうございます?」


「いえ、お気になさらず。それよりも──」


 エリオットが体勢を整え直すために貸した手を、ジャンは改めて握手の形に握り直す。


「え、えっと」


 困惑するエリオット。


「今回の試合、尊敬すべき相手であった貴方に感謝を述べにきました。」


 そんなエリオットにジャンはそう言った。


「いや、そんな僕なんかに」


「おや、お味方から自分を卑下するなと伝えられていたのではありませんか?」


「いや、まあ、そうですが」


「なら、誇ることです。確かに、試合中に貴方のレーンを攻撃の起点に絞った僕らが言うことではないのかもしれませんけど、事前の想定では、ダンデリオン王子のように想定外の反撃があったとしても、それ以上の得点を稼いで逃げ切れると考えていました。ですが、そうはならなかった。それは明確に、貴方が僕らが想定していた以上の選手だったということですから。」


 それを少し離れて聞いていたウィリアムも内心で同意する。


 確かに、試合を大きく決定付けるようなプレイをした選手が認められるべきなのは間違いない。それは今回なら、多くの人にとってダンデリオンとなるだろう。


 しかし、試合はそれだけで決まっている訳ではない。幾度にも渡るシークエンスの中で積み重ねられる攻防の一つ一つが重要なのだ。


 それで言えば、試合の序盤から揺さぶりをかけ続けられていたにもかかわらず、初心者のエリオットが自分のレーンを最後まで崩され切ることがなかったのは賞賛に値することだった。


「マリンブルーは決して恵まれた選手ばかりではありません。だからこそ、思考の力を尊ぶ。そういった意味では、貴方は私たちと同類だと思いました。でも、次は貴方のレーンをきっと切り崩してみせます。今回はありがとうございました。」


「……ありがとうございます。」


 口下手のように思われたジャンが率直に述べる感想に嘘がないことは、付き合いの短いエリオットにも伝わっていた。


 だからだろう、エリオットも自然と差し伸べられた手に自然と握手を返すことが出来る。


「ただ──」


「ただ?」


 エリオットの言葉に、ジャンが首を傾げる。


「そう言って実は、今度は裏をかいて別のレーンを攻撃の起点にしませんか?」


 エリオットの言葉に、ジャンは一瞬の間を置いて、大きな声で笑う。


「やはり貴方はきっと油断ならない選手になる。」


 そうして述べられた言葉もまた、本当にエリオットのことを好敵手の一人として認めたジャンの素直な感想だった。

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