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Sequence51(改):初心者は変わる

「プレイ!」


 審判から第3シークエンス開始のコールが叫ばれる。


 展開は、やはりこれまでと全く同じく、マリンブルー側が両ロング・レーンを魔術(スキル)によって封鎖して、ジリジリとお互いに間合いを詰めていく接近戦の様相を呈する。


 嫌が応にも高まる緊張感。


 経験者ですら汗の滲み出るその空気が、初心者であるエリオットの身を焦がす。


 そのせいで、ふと先程のミスが頭を過りそうになる。


「エリオ!」


 だが、その時、不意にフィールドの反対側から、大声で自分の名を呼ぶ声がした。


 エリオットが咄嗟に視線を移すと、フィールドの反対側から声を出していたのは、同じ未経験組であるサフィアスだった。


 先程に会話をしたお陰で、エリオットにも、サフィアスの表情から、彼もまた自分と同じく緊張を強いられるスロー展開に締め付けられるかのような圧迫感を覚えていることが窺えた。


 しかし、それでいて尚、周囲に目を配りながら、アイ・コンタクトを通じて緊張するあまり暴発寸前になっていたエリオットを寸前で制止までしてくれたのだ。


 彼は、僕を尊敬するとまで言ってくれたが、その気持ちはそっくりそのまま返したいとしか思えない。


 ありがたい──と、思うと同時に、情けなくもあった。


 そして何より、腹立たしい。


 相手にではない。自分に。


 確かに、サフィアスは宰相家の長男として、商家の三男に生まれた自分よりも遥かに多く修羅場を潜り抜けてきただろう。そういう意味では、彼もまた、他の選手たちほどではないにせよ、自分より先行している非凡な者だった。


 しかし、だからと言って、一度でもフィールドに身を置けば、そうした違いは言い訳にならない。その程度のことは、スポーツ未経験だった自分でも理解が出来る。


 そんな自分を変えたくて、この道を選んだのではなかったか。


 それなのに、先程は自信を勝手に失って自ら交代を言い出す始末。


 そのことが、どうにかなってしまいそうなほど腹立たしかった。


 この腹立たしさを解消するためには、これまで通りの自分ではいられない。


 だとすれば、彼らよりも遥かに遅れている平凡な自分に何が出来るか。


 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ──


 必死に思考を回転させるエリオット。


 この時、エリオットは試合に集中しているが故に、気付いていなかった。


 いままでずっと生きてきた中でいつもニコニコと周囲に優しいと言われ続けてきた自分が、こんなにも煮えくり返るような腹立たしさを覚えたことなど一度もなかったことに。


 もうとっくに、かつての自分とは変わり始めているということを。


 マリンブルー側に動きが生じる。


 狙いは勿論、これまでのシークエンスと同様に、エリオット。


 突然の奇襲に、エリオットの身体は意外にも反応する。


 恐らく、思考がフル回転していた上で、一気に空白へと転換したのが功を奏したのだろう。


 入部してからこれまでに何度も喰らい続けてきたテズニアとの一対一1V1練習が、文字通り嫌と言うほど身体に刷り込まれていたお陰。


 確かに、相手は自分よりも先行している経験者。


 それでも、相手はテズニア先輩ほどではない!!


 そう思った刹那、自然とエリオットの身体はコンタクトの姿勢を取っていた。


 直後、衝突。


 とは言え、完全にタックルを決めるには至らなかった。


 瞬間、エリオットの脳裏には、失敗の二文字が浮かぶ。


 しかし──


「良くやったァ!!」


 そう叫びながら、防御支援カバーに吶喊してきたのは、隣のレーンを守っていたアレクシウス。


 アレクシウスが、エリオットと衝突した直後の敵をそのままグラウンドへ抑え込む。


 結果として、マリンブルーの攻撃は最低限の失点に抑えることが出来た。


 アレクシウスは立ち上がると、倒れていたエリオットのほうへ向かってくる。


「あ、ご、ごめ──」


「何言ってんだ?」


「え? いや、だって平凡な僕じゃあ、皆の足を引っ張って……」


「バーカ。お前が少しでも相手の行動を遅らせたお陰で、俺が追い付いたんだろ? だから、言ったじゃねえか。良くやった、って。お前が足を引っ張ったのは、俺じゃなくて、相手のだよ。」


 アレクシウスにそう言われて、エリオットはようやく少しだけ自分に出来る役割を理解が出来た。


 確かに、自分は周囲の皆よりも遅れているかもしれない。


 だけど、そんな自分だって、相手の進行を少しでも妨げさえすれば、味方が力を発揮することが出来るまでの時間稼ぎになれるのだ、と。


 いまは、まだそれしか出来ないかもしれない。より多くを望めるようになるためには、まだまだ時間が必要だろう。


 ならば、自分はいま出来ることを全力でやるしかない。


「良いか、実戦以上に成長が出来る機会は存在しないからな。気張ってやれよ。」


 アレクシウスが発破を掛けるように、エリオットに言葉を贈る。


 それに対して、今度こそ、謝罪ではなく、感謝の言葉が自然とエリオットの口を突いて出てくる。


「うん、ありがとう。アレク。」


「ミスなんか気にすんな。テズニア先輩に鍛えられたんだ。お前、自分で思っている以上にやる平凡だぜ、エリオ。」


 アレクシウスが、エリオットの手を差し伸べる。


 エリオットは、躊躇うことなくその手を取ったのだった。

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