Sequence49(改):未経験者は失策する
キングスフィールド高等学院とマリンブルー高等学院の一年生同士による練習試合は、互いに無得点のまま第1シークエンスを終えた。
よって、第2シークエンスで使用可能な魔術数にも変化はない。
必然、第2シークエンスでも、マリンブルー高等学院側は前シークエンスと変わらず、セット・タイム中に両翼のロングにそれぞれ障壁を設置した。
結果として、ポジショニングも前回と同様に、ミッドとショートの三人が前衛としてセット・ラインに立ち、ロングの二人はその防御支援に回るため彼らの少し後ろに後衛として陣取る形となる。
「プレイ!」
そして、審判のコールと共に試合が再開された。
両陣営がゆっくりと、しかしどのタイミングで均衡が崩れるのか分からない緊張感に包まれながらじりじりにじり寄っていくベタ足のインファイト展開の再演。
初心者であるが故に体力面でまだ鍛え抜かれていないというのもあるにせよ、まだ第2シークエンスにもかかわらず、緊張感にスタミナを急速に奪われているエリオットの額から汗が滴り落ちる。
先程は、自分のスタートが遅れてしまったが故に、アレクシウスを孤立させてしまい、攻撃の連鎖が上手く行かなかった。
あの時、自分が上手く攻撃支援へと入って、相手が守備支援で抑えにくるのと格闘して剥がすことが出来ていれば、スパイクをミッド・ラインで抑え込まれることはなかった。アレクシウスにパスを渡すために最初の攪乱役を担っていたウィリアムが再び攻撃支援に参加し、スパイクを拾って、より前へ攻め込むことが出来たかもしれない。
そうして先程のミスがどうしても頭にチラついてしまったエリオットは、次は足を引っ張りたくないと考えるあまり、無意識に先程よりも少しだけ前に、アレクシウスに寄った形でポジションしてしまう。
たった、数歩の差。
その差は、仮にスピーディーな展開であれば、もしかしたら見逃されていたかもしれない程度のもの。
しかし、マリンブルーの仕掛けるスローな展開が、その小さな差こそを見事に炙り出してしまう。
前回とは打って変わって、第2シークエンスで最初に動いたのは、意外にもマリンブルー側だった。
マリンブルーの攻撃は、ミッドへの吶喊であるかのように見えた。
キングスフィールドは、その動きに対応してショートのアレクシウスとダンデリオンがそれぞれ門を閉めるように中央側へ寄る。
こうした前衛の動きに対して、本来であれば、後衛に立っている選手は、彼らが寄って出来たスペースを埋めるように外側のケアへと回らなければいけない。
しかし、支援の意識ばかりが頭に逸っているエリオットは、アレクシウスと同調して内側へと寄ってしまう。
「解除!」
瞬間、マリンブルーのミッド・レーンを守るジャン・ジャック・ピエリネリラが叫ぶ。その声は、発動している魔術をキャンセルするためのもの。
その声と共にロングに設置されていた障壁が崩れ落ちると、その向こうに、先程まで反対側の後衛にいたはずの選手がスパイクを手に吶喊してくるのが見える。
それは、前衛を目くらましにして、死角に入った後衛へ背面でスパイクをパスしていたマリンブルーの奇襲だった。
本来のポジショニングであれば、スペースを埋めに外側のケアをしているエリオットの守備が、その奇襲にも間に合う状態。
しかし、アレクシウスに寄ってしまい、態勢も内側に向けていたエリオットはすぐさま反応が出来ず、そこまで間に合うことが出来ない。
結果、マリンブルーはそのまま格闘に入ることなくロングのゴール・ラインまでクリーンに駆け抜け、スパイクでブレイクして見事に2ポイントを獲得する。
それに対して、キングスフィールドは第1シークエンスと同様、これといった決め手もなく、センター・ラインを割ることなく無得点で第2シークエンスを終了してしまう。
客観的に見れば、マリンブルー側が見事な布石から得点を挙げたと捉えられる流れ。
城門のように固い守備陣形から放たれるカウンターという、マリンブルーらしい得意スタイルが見事に決まった形である。
初心者であれば、犯しても当然のミス。
しかし、初心者、尚且つ当人であるからこそ、それを当然のことだと捉えられない。
いまのプレイに対して、言葉を失うエリオット。
ショックを受けているのは、誰の目にも明白だった。
初出場の初心者が二連続、しかも二度目のそれは相手のポイントに直結するもの。
そう捉えてしまうのも無理はない。
それを見て、正直に言ってウィリアムは悩んでいた。
初心者に経験を積ませる目的とは言え、余りにもショックを与えすぎてしまっては今後の成長に支障が生まれかねない。
フィールドの外に視線をやれば、連戦のために休ませているグレイ兄弟と目線が合った。幸い、彼らも事前に察知していたらしく、動く準備は出来ているようだった。
ここは変えるべきか、それともこのまま行くべきか、決断が求められるタイミング。
その時だった。
「すまない、ちょっと良いだろうか。」
そう声を掛けてきたのは、意外にもサフィアス・メルツィア・ノーリッジである。
その真っ直ぐにウィリアムを見据える目には、明確な思惑があることが感じられた。
「エリオットのこと、ですよね。」
「ああ、そうだ。私に、彼と話す時間をくれないか。」
なるほど、やはりサフィアスもエリオットのことを心配してるようだった。
ただ、それでもやはり、本当に任せて大丈夫だろうかと、不安も生じる。
何と言っても、彼もまたエリオットと同じ初心者なのだから。
その彼に任せて失敗した場合、責任を感じてしまうのではないか、と。
エリオットに続き、サフィアスまでメンタルに傷を受けさせてしまうよりは、自分が責任を負ったほうがいいのではないか。
しかし、その時、もう一人の人物が声をあげる。
「僕からもお願いするよ、ウィリアム。ここはひとつ、サフィアスに任せてみてくれないだろうか。」
そう言ったのは、サフィアスと最も付き合いが長く、誰よりも彼を知っているだろうダンデリオンだった。
「……タイムを申請します!」
それを聞いて、ウィリアムは審判に大きな声でタイムを要求する。
その申請は即ち、現時点での交代は無しということを意味した。
ウィリアムの下した判断に、フィールド外のグレイ兄弟は頷くと、再びベンチへ戻る。
「感謝する。」
サフィアスはそう言うと、逆サイドを守るエリオットのほうへと駆けていった。
「やっぱり、心配かい?」
サフィアスの背中を見送るウィリアムに、彼に替わって近寄ってきたダンデリオンが話し掛ける。
「……ええ、正直に言えば。でも、彼に対する貴方からの信頼に賭けてみるべきかな、と。」
「なるほど、それはありがたい。大丈夫、僕の腹心はきっと裏切らないよ。二人は何かをきっと得手帰ってくるさ。」
ウィリアムの言葉に、ダンデリオンは迷うことなく断言した。
初心者が最初の試合でパニックになることは決しておかしなことではない。
寧ろ、サフィアスのように落ち着いて行動が出来るほうが珍しいのだ。
だからこそ、この窮地を二人が切り抜けることがあれば、それは事前に予想していたよりも遥かなリターンをキングスフィールドは得ることになる。
「分かりました。それじゃあ、彼らに負けないよう、僕らも何か攻め手を考えましょう。」
ウィリアムはそう言うと、アレクシウスを呼び寄せる。
そこ横で、サフィアスがエリオットの肩に手を置いて落ち着かせながら話をしているのを眺めるダンデリオン。
「そうだな、確かに僕も負けてられないよなあ。」
そして、今度は誰に聞こえるでもない小さな声で、ダンデリオンは呟くのだった。




