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Sequence48(改):未経験者は戦慄する

 ──壁。


 初めての試合、エリオットのマリンブルー高等学院に対する第一印象は、その一言に尽きた。

 敵から受ける圧迫感に息が詰まりそうになる。

 最近まで全くの素人だったエリオットは、入学式の際に見たデュアルフットの形式しか知らなかった。即ち、攻撃と防御を同時に行う、互いに相手の喉元へ武器を突き付け合うようなスポーツである、と。

 そして、その後で実際に入部して味わったのも、さながら馬車のように力強いテズニアと一対一1V1を何度も繰り返すというスパルタ練習がメインに置かれていた。

 だからであろう、いま目の前で展開されているマリンブルー高等学校の戦術は、エリオットからすれば想像の埒外にあるものだったのだ。


「プレイ!」


 審判の声と共にスタートした練習試合。


 エリオットの知っていたデュアルフットというスポーツでは、お互いの選手が入り混じって臨機応変に攻防が行なわれる形式だった。

 しかし、マリンブルー高等学院の一年生チームは、自分から相手陣地に攻め込む気配を一向に見せないまま、スパイク保持者も含めた五人が全員で守備の陣形を固く崩さず維持してきたのだ。しかも、両端のロング・レーンにそれぞれ侵入を防ぐための──しかも、エリオットからすればまだ見たことのなかった魔術(スキル)である──障壁を展開し、攻撃可能なレーンを極端に狭めながら。

 両端のロング・レーンを塞いだ分、ミッドとショートを守る三人の後ろで二人が遊撃に回るような守備特化のポジショニニング。更にフィールド上の選手たちの構えも、通常は素早く前に突進が出来るように両脚は前後に開いたスタンスが一般的なのに対し、マリンブルーの選手たちは皆、寧ろ大きくスタンスを開いていた。明らかに、攻撃側が何処へ攻め込もうとしてもすぐさま反応してディフェンス間のゲートを閉じることに特化した構え。

 それ故に、キングスフィールド高等学校の一年生チームは、経験の浅い二人を抱えていることを理由に切れる手札が少ないことも相まって、自陣でスパイクを保持したまま攻めあぐねてしまう。

 そして、マリンブルー高等学校の一年生チームはそのままジリジリと防御陣形のラインをゆっくり上げ続ける。


 一応、事前にウィリアムから伝統的なマリンブルー高等学院の戦術を聞いていた。

 魔術(スキル)の使用に長け、且つ守備に重きを置いたカウンター・スタイル。

 しかし、エリオットは、それでも既知のスタイルとは全く違う種のスタイルを実際に目の当たりにした驚きを隠せない。増して、それがこんなにも相手にプレッシャーを与えてくるものだとは、全く想像していなかった。


 エリオットにとってそれは、完璧に未知のデュアルフットだった。

 きっと、ウィリアムであれば、これを知った時は激しく驚喜したに違いない。

 しかし、いまのエリオットにはそこまでの余裕が残念ながら存在しなかった。


 正直に言えば、エリオットは事前にウィリアムからマリンブルーの特徴を聞いた時、スロー展開ならば同時に攻守を行うスピーディーな展開に付いていくよりも自分たち未経験組には余裕があるのではないかなどと考えていた。

 エリオットは、何という浅はかさだと、自分のことを叱りつけたくなる。

 お互い見合ったままゆっくりと間合いを詰め、既に両陣営はセンター・ラインを挟んで今にもぶつかる直前という距離まで近付いている。

 実際の時間としてはそこまで経っていないにもかかわらず、初心者であるエリオットには余りにも長い時間に感じられる対峙は、お互いの喉元に鋭利な刃を押し付け合っているかの如く、文字通り一色触発の緊張感で、予想よりも遥かに早いスピードで体力を奪われていくのをエリオットは感じていた。


 しかし、それでもマリンブルーは自ら動く気配を決して見せない。

 この不動の城門を思わせる相手のディフェンス・ラインに対して、キングスフィールド側は自分たちのほうから飛び込んで行かなければ、そのままジリ貧の消耗を強いられてしまう。


 必然、勝負を仕掛けるのはキングスフィールド側。


 ミッドのウィリアムが、少しでも相手のディフェンスを揺さぶろうと前に仕掛ける。

 これは勿論、擬装(ダミー)

 本命は、ウィリアムの前進に合わせて寄った相手の隙を突くようにして、チーム内で最もフィジカルの強いアレクシウスがスパイクのパスを受け取り、彼を軸に吶喊する。

 相手を綺麗に抜き去ってゴール・ラインまで攻め込むのではなく、何とかセンター・ラインを越えて、相手セット・ラインで最低限のポイントを稼ぐための作戦。


 しかし、既に予想よりも遥かに体力を消耗させられ、緊張に震えていたエリオットは、思うように脚が動かず、これまで練習してきた通りの攻撃支援(フォロー)に入るスタートを切ることに失敗してしまう。


 本来ならば、相手のディフェンス・ラインにアレクシウスが打ち込んだ楔を更に押し広げるようにしてウィリアムとエリオットが防御支援(カバー)に駆け付けてスパイクを奪い取ろうとする相手を剥がして相手陣地に攻め込むはずが、この遅れによって結局、キングスフィールドはセンター・ラインを割ることなく、第1シークエンスを終えることになる。


 この時、エリオットは、不幸中の幸いは、マリンブルーもスパイク保持者が吶喊したアレクシウスへの守備に参加していたため、キングスフィールドも得点を奪われなかったことだと、出来る限り体力を回復させるように深呼吸しながら考えていた。


 そんな彼の様子を、マリンブルー高等学院デュアルフット部の一年生筆頭、ジャン・ジャック・ピエリネリラが鋭い視線で見逃していなかったことに、まだ気付かないまま──。

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