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Sequence47:未経験者は覚悟を決める

「ええっ!? き、聞いてないよ!」


「……大丈夫なのか、それは。」


 驚きを隠せない顔でそう言ったのは、キングスフィールド高等学院デュアルフット部の二人。

 エリオット・パルマ・マリアリースと、サフィアス・メルツィア・ノーリッジ。


「勿論です。この選択については、そもそも最初から決まっていたことですから。」


 そして、そんな二人に対して、動揺することなく答えるのはウィリアムだった。


「事前に伝えていたように、マリンブルー高等学校と練習試合を組んだ目的は、これまでの練習では不足していた魔術(スキル)に対する経験を補う目的です。そして、それが最も不足しているのは、僕たちのような経験者ではなく、高等学校からデュアルフットを始めた二人なんです。だから、二人をスタメンで起用することはまず大前提としてありました。」


 ウィリアムは、二人をマリンブルーとの練習試合でスタメン起用する理由を説明していく。


「それに加えて、レッドブレイズ高等学校も合同練習に参加して試合を組んでくれることになりました。今回は不測の事態ではありますが、こういう風に複数の試合を一日に組まれることは今後もあり得ることでしょう。そういった時に、常に同じスタメンを起用するのは体力的に問題が生じます。どうしたって、誰かが交替しないと回らないんです。」


「そ、それはそうかもしれないけど……二人はそれで良いの?」


「「問題な~し。」」


 エリオットの問いに応えたのはグレイ兄弟。


「俺らはこういうこともあるだろうってのは何となく分かっていたし」


「それに、一応の経験があるとは言え、ダンデリオン殿下だって他の経験者四人ほど積んできているって訳じゃない。ここはやっぱり、試合に出ておいたほうが得でしょ。」


 特に何の反論もなくスタメン交代を肯定するグレイ兄弟。


「すまない、恩に着るよ。」


 そんなグレイ兄弟の言葉に、ダンデリオンも頷く。


「ついでに言えば、試合を外から見る場合には、しっかりと相手を観察してフィードバックを行うことも重要な練習になる。その点でも、ダンデリオン殿下にそれを任せるのはあまりに酷だし、俺もそういった部分を論理的に伝えるのはちょっと苦手なんだが、二人は戦術面の理解も問題がなくスムーズに意見交換することが出来るからな。」


 目にしたものを直感的に学ぶことは得意なアレクシウスは、しかしそれを上手く言葉に出来ないという自身の苦手な部分を認めながら、スタメンから交代させられる二人がグレイ兄弟であるべき合理的理由の説明を補足した。


 確かに、ここまで聞けば自分たちがグレイ兄弟に替わってスタメンで出場することに、何の反論もすることは出来ない──と、頭では理解が出来る。


 しかし、デュアルフット未経験で入部したエリオットとサフィアスの二人は上手く頷くことが出来ずにいた。


「まだ、納得いかない部分がありますか?」


「……いや、無いと思う、けど」


「うむ……」


 それでも、やはり歯切れの悪いエリオットとサフィアス。


 正直、彼らは、自分たちですら一体、何が踏み切ることに対して躊躇になっているのか分かっていない部分があった。


 しかし、そんな二人の心情を唯一、理解の出来たダンデリオンが口を開く。


「怖い、んじゃないかな。」


 ダンデリオンの言葉に、アレクシウスが疑問符を浮かべた。


「怖い、ですか?」


「うん、そう。君たちは、怖がっているんじゃないかと、僕は思う。」


 ダンデリオンは、ごく自然なことであるかのように、そう言う。

 その言葉は、幼い頃から多くの人々と交流を図り、彼らの意図の裏の裏まで読まなければいけなかったダンデリオンだからこそ説得力のあるものだった。

 ダンデリオンの言葉に、何となく腑に落ちたような顔をしたエリオットが呟く。


「そう……かもしれません。考え直してみると、僕は、怖がっているのだと思います。」


「それは、何に対して?」


 ウィリアムの質問に、今度はサフィアスが答える。


「……恐らく、負けることに対して、ではないかと。」


 その口ぶりからして、どうやらサフィアスも、ダンデリオンの言葉にようやく自身の心情を客観的に把握することが出来たようだった。


 そして、二人の言葉に、経験者組の全員が一様に目を見合わせる。そして──


「ぷはっ」


 一斉に笑い出す。


「え、ええ?」


 突然のことに困惑するエリオット。

 サフィアスも同じような様子で周囲の面々を見渡している。


「ああ、いや。申し訳ない。別に、馬鹿にしたとかではなくて。でも、」


 アレクシウスが、咄嗟に噴き出してしまったことを詫びてから、言葉を続ける。


「皆、まさかお前たちがそんなに勝ち気だとは、申し分ないと思ったんだよ。」


 アレクシウスのその言葉に、経験者組が頷いた。


「だって、そうだろう。普通は、初めての試合で敵と接触するのが怖いとか、そういうことを初心者なら言うもんだ。それがまさか、最初っから負けたくない、なんて。」


 確かに、言われてみればその通りかもしれないと、エリオットたちは思う。

 デュアルフットは敵との激しいコンタクトの起きるスポーツだ。

 治癒魔術があるとはいえ、場合によっては大怪我を負う可能性もある。


 増して、エリオットはスポーツ自体が未経験、サフィアスもどう贔屓目に見たところで体力自慢があるというよりも頭脳派の人間なのだから、そうした危険性を恐れていてもおかしくはないはずだった。


「まあ、入部していきなりやらされたのがテズニア先輩との一対一(1V1)だったからなあ。よっぽどヤバい相手とじゃあない限りは、そんなにビビることも今更になってないよな。」


「ああ、それは、そう……かな。」


「うむ……。」


 一瞬、エリオットとサフィアスが遠くを見つめるような目になりながら、そう答えた。

 やはり、テズニアとの練習は、未経験者組にとっては何らかのトラウマに近いものとなっているのかもしれない。

 そんな厳しかった練習を思い出したお陰で少し冷静になったエリオットが、反省の言葉を述べ始めた。


「でも、言われてみれば、欲張りなことを言っていたのかもしれない。僕らは、デュアルフット未経験者なのに、最初っから勝ちたいだなんて。」


「ちょ、ちょっと待った。」


 その言葉を、慌てて止めに入るアレクシウス。


「別に、俺たちは何もそれを責めているんじゃあない。さっきも言っただろ。申し分ない、って。だから寧ろ、その逆だよ。」


「逆?」


「ああ。だって、そうだろう。最初っから負けたい奴なんかいるはずもない。そんで、負けたい奴と組みたい奴もいない、って話さ。そうだろ?」


「うん、アレクの言う通り。」


 アレクシウスの問いに、ウィリアムが頷く。


「確かに、最初っから全てが上手くいく訳はないでしょう。僕らだって、試合中に出来ることは、練習でやってきたことの半分以下でしかないですから。しかし、だからって負けて良いなんてことはないです。その言い分は全く以って正しい。」


 そう言ったウィリアムは一拍を置くと、改めて二人だけではなく、その場にいる仲間全員にはっきりとこう伝える。


「だから、勝ちましょう。そもそも、いつもと違うスタメンにするからって、僕も負ける気は最初っからないんですよ。」


 その顔は、迷うことなくまっすぐに未経験者組の二人を見つめていた。


「よし、じゃあ、折角だから景気付けにやっとくか、あれ。」


「あれ?」


「そりゃ、キングスフィールドと言えば、あれに決まってるだろ。」


 ウィリアムが疑問符を浮かべると、さも当然のことであるかのように、アレクシウスは輪になっているメンバーの中心へ手を伸ばした。


「ああ、なるほど。」


 すると、皆は納得したように、彼の手に自分たちの手を乗せていった。


「誰がやる? ウィリアム? それとも殿下がやります?」


「ここは、ウィリアム君にやって貰いたいな。」


 特に迷うことなくダンデリオンはウィリアムに音頭を取って貰えるよう促す。


「……分かりました、それでは不肖、僕が筆頭選手として、行きます──」


 大きく息を吸ったウィリアムが、更に大きな声で掛け声を発する。


 それは、キングスフィールド高等学院でデュアルフット部における伝統的なコール。


「キングスフィールドに!」


「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」


 全員の声が一斉に響き渡った。


 それと同時に、重ねられていた全員の手が大きく、力強く掲げられる。


 そして、エリオットとサフィアスの顔からも先程まであった表情の陰りは取れ、既に迷いは振り切ったかのような表情でグラウンドへと向かっていくのだった。

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