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Sequence45:一年生は強敵に学ぶ

 浜辺を駆け抜ける足音が二つ。アレン・ダイアーとジャン・ジャック・ピエリネリラ。


 それぞれレッドブレイズ高等学院とブルーマリン高等学院の一年生筆頭を務めている選手が、レース形式のロード・ワークで先頭争いを繰り広げていた。


 現段階では、二人の状況は横並びの一線。その状態のまま、彼らが一歩、また一歩と進む度にゴールまでの距離は近付いていく。


 既に後続の足音は遠く聞こえなくなっていた。ここからの逆転はもはやあり得ない。


 首位争いは既にこの二人のどちらかに絞られたと言って良いだろう。


 そんな中、アレンは若干の違和感を抱きつつあった。


 それは、同じ先頭を行くジャンが、余りにもピッタリと自分の真横に並走を続けていること。


 折り返しコーナーで大外から抜き去るパフォーマンスで誇示した通り、走力としては自分のほうが上にいることは間違いない。

 そんな自分がいま全力で引き離そうと走っているにもかかわらず、全くジャンのことを突き放すことが出来ない状態にある。


 かと言って、ジャンは自分を追い抜く訳でもない。


 まるで影の如く、自分の真横にピッタリと貼り付いているかのように走るジャンから、アレンは走りのプロフェッショナルとして、何らかの不気味さを感じていた。


 明らかに、相手は狙いを付けた走り方をしている。


 そして、その狙いは、復路を半分ほど過ぎたあたりでようやくアレンにも段々と理解が出来てきた。


 まず、波打ち際の最も海側にポジショニングしているアレンは、いま自分の足元が打ち寄せては引いていく波によって刻一刻と足元の状況が変わる中で走らなければいけない。


 確かに、往路で先行していたジャンの後ろ姿を見ながら走ることによって、砂浜での繊細な重心運びはある程度まで学ぶことが出来たし、実際にはジャンより若干劣っている技術を誤魔化せるだけの脚力差もあった。


 しかし、走行中の脚を、足元の砂ごと引いていく波が持っていってしまう際など、復路に入ってからは往路では学べなかった技術が必要となる場面が多々あり、アレンはこれまで以上の体力と集中力の消費を強いられてしまっている。


 そこで出来る限り足が海に浸かる深さの浅い浜辺側を走りたいとアレンが思っても、いま自分の真横にピッタリと着いて走っているジャンの身体が壁となって、そちら側への移動を絶対に許してくれない。


 結果、アレンはいま走っている最中ずっと、文字通り身体にべったりと何かに纏わり付かれているかのような感覚に陥っていた。


 そして、相手の思惑を理解が出来てきたところで、最初のスタートを切ったラインが視界にはっきりと入ってくる。あそこまで戻ることで、このレースはゴールを迎えることになる。


 そこまで来て、アレンは自身の失策を明確に自覚していた。


 やられた。


 そして、やらかした。


 それが、正直なアレンの感想だ。


 そんな中、ふとアレンの頭に主将のイザーク・パーク・ブランベルンの顔が浮かぶ。


(ああ、いっつも言われてたんだけどなあ……。)


 思い出されたのはイザークの説教。


『お前は、判断が早すぎる。もっと慎重に検討を重ねて、勝機を明確にしてから仕掛けるべきだ。』


 その通りだと、アレンは反省する。


 往路において、ある程度の技術をジャンから盗んだ自分は、それと自慢の脚力をもってすれば復路での勝負には充分勝てると計算した。


 しかし、往路から想像していたよりも遥かに復路で求められる技術の複雑さは高く、そしてその消耗を避ける手段を相手はしっかりと潰しにきた。


 勝負を逸ることの危険性を、自分はまだまだきちんと理解をしていなかった。


 アレンは、アウェイ環境とはいえ、自慢の走力勝負で初めて同学年の生徒を相手に負けたことにより、初めて頭だけではなく、身体で学びを得ていた。


 そして、これまでの行いにも反省と修正が加えられる。


「なあ。」


 アレンが、口を開く。


「……」


 ジャンからの反応はない。


「さっきは、一番に試合をしたいって割り込んだけど、あれ、やっぱなしに出来るかな。」


 それは、アレンが今回のレースを通して学び、反省した結果として彼なりに出した答え。


 先行する者から学べるものを実際よりも下に見積もり、逸って前に出ようとしてしまったが故の失敗。


 であるならば、自分が次にすべきことは、今度こそきちんと見て学んでから行動をすることだろう。


 だから、最初に試合をしたいという申し込みは取り下げなければならない。


 そんなアレンに対して、ゴールを目前に相手よりも消耗を抑えて残した最後の末脚をラストスパートに使うジャンが、去り際に告げていく。


「承知した。」


 とは言え、ジャンはジャンなりに、アレンに対して思うところがあった。


 往路の中で自分の走りを盗んだアレンに、更なる学びの姿勢を与えてしまったこと。


 それは、果たして本当に正しかったのか、と。


(今後とも、決して油断の出来ない相手……か。)


 しかし、そうして互いに得たもの、そして将来的な可能性とは別に、ひとまずこの勝負に関する結果は嫌が応にも下される。


 先頭でゴール・ラインへと飛び込むジャン。


 アクアリスの砂浜で行われたレース形式のロード・ワークはこうして幕を閉じる。


 勝者、ブルーマリン高等学院一年生筆頭、ジャン・ジャック・アレン。

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