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Sequence41:一年生は練習を開始する

「おお、ここが……」


 遠征してきた他校組の皆は一様に驚きを隠せない様子で周囲を見渡していた。


 それに対し、地元組であるマリンブルーの面々は何処か誇らしそうにしている。


「うおお、海! 初めて観たあ!」


 そんな中、アレンが大はしゃぎで叫びながら砂浜へと駆け出していく。


 そう、いま、三校合同練習に集った面々は皆で先程までいたマリンブルー高等学校を離れ、この王国で最も有名なアクアリスの海へと繰り出していた。水平線まで続いた美しく輝く海に、大陸でも唯一とまで言われるほどきめ細やかで柔らかな砂浜で知られる場所だ。


 と言っても、何も遊びにきた訳ではない。


 マリンブルーのジャン曰く、ここの砂浜は観光や漁業に差し支えない範囲の一部をマリンブルーのデュアルフット部が練習場として一時的に借りているのだと言う。


 アレンを追うように、ウィリアムたちも砂浜へと足を踏み出してみる。


「おおっ、すげえ!」


 隣で、アレクシウスが感覚の違いに驚きの声を上げた。


 舗装されている道路どころか、その辺の平地とも全く異なる、足元が沈み込む感覚。


「確かに、ここで走り込み練習しているとなれば、足腰が鍛えられそうだね。」


 ダンデリオンが感覚を確かめるように何度も足で砂浜を踏みながらそう呟いた。


「ええ、しかもジャンさんから先程に聞いた話ではただ砂浜を走るのではなく、波打ち際を走るということでした。常に足元の状況が変わり続ける状況で波に足を取られないようにすることで、バランスを保って正しい重心で走る技術を磨くのでしょう。我々が毎日違うコースで、行き交う人々で刻一刻と変わる状況の中で行っているロードワークにも通じる部分がありますね。」


 サフィアスも練習の意図をきっちりと掴んでいるようだ。流石に、秀才で知られるだけあって、サフィアスはこの辺の勘所を掴むのが上手いと、いつもウィリアムは感心させられていた。


「うわっ」


 その横で、実際に足を波に取られて転び、ずぶ濡れになっているエリオット。濡れた服がぴっちりと身体に貼り付いて、彼の細身な身体のラインがはっきりと露わになっている。


「あいたたた」


「あらら」

「大丈夫?」


 そんな彼に、グレイ兄弟が二人で手を貸して助け起こす。


「あ、ありがとう。」


「「どういたしまして。」」


 なるほど、事前にジャンから濡れても問題のない練習着を貸し出されていたのは、このためだったのかとウィリアムたちは納得した。


 普通の練習着であれば、水を吸い込んで重くなった服が身体へ貼り付いてしまい、練習するどころの話ではないくらいに邪魔になって仕方がなかったかもしれない。


「それじゃあ、皆さん、集まって下さい!」


 そんなことを考えていると、ジャンが集合の合図を掛けた。


「それじゃあ、ルールを説明します。」


 ジャンが勝負の内容を語り出す。

 とは言え、これは普段、彼らが恒常的に行っている練習の延長だという。

 それは、この砂浜を使ったロードワーク。

 借り切っている砂浜の端から端を往復で一周する一つのコースに見立てたレース。

 但し、行きは一列になった状態から砂浜の部分を自由に走るが、端まで辿り着いた順に帰り道は波打ち際を走らなければならない。

 横に広がることが出来ない上、波に足を取られるため、後ろから抜かすのは非常に困難となるコースの設定だった。


「普段からこの練習を行っている我々が若干有利なのは気になりますが」


「いやいや、そのくらいは当然でしょ。ねえ、ウィリアム。」


 ジャンが僅かに顔を曇らせながら発した言葉に、本当に何の皮肉もなくそう答え、同意を求めてくるアレン。


「ええ、ホストの立場ですから、そもそも有利にならない条件を探すのは難しいでしょう。」


「そう言って頂けると、大変にありがたいです。」


 そう言われて尚、頭を下げるジャンは、やはりまだ納得はいっていないのだろう。

 それを見て、ウィリアムたちは皆、生真面目な男だと思っていた。

 一見、気弱で謙虚そうに見えるが、公平な勝負の上で勝ちたいと考える彼がマリンブルーで一年生の代表として選ばれている理由の一端がこういう部分に現れているのだとウィリアムは考える。

 そしてそれは、彼は甘く見てはいけない相手だという事実を示していた。

 実際、それはこの後、レースの中でも明らかになる。


「それじゃあ、皆さん、用意は出来ましたでしょうか。一周目は、試走も兼ねた練習とします。」


 ジャンの問いに、皆が頷いて応える。


「それでは行きます、位置に着いて、レディ・ゴー!」


 合図と共に一斉に走り出す面々。


 とは言え、差はすぐさま現れる。


 極限まで柔らかな砂浜に足が吸いこまれるようにめり込み、キングスフィールドとレッドブレイズのメンバーたちは殆どがまともに走れていない。

 それと較べると、マリンブルーの面々は力強く順調に歩を進めていく。


 その中でも、最も先を進むのはジャン。


 ただ、ジャンは内心で驚愕していた。


 普段からこのロードワークに一緒に行って、慣れているマリンブルーの足音は耳だけで何処に誰がいるのか判断が付く。


 しかし、いま、ジャンの耳には、聞き慣れない音が一つ、真後ろで鳴っているのだ。


「走りに関してはさ、あんまり舐めて貰っちゃ困るんだよね。俺、初めての勝負でも、全く負ける気はないから。」


 その声で、ジャンは振り向かずとも誰か理解する。


 それは、先日の式典まで走ってくるという理由で遅刻した男。


 レッドブレイズのアレンだった。

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