Sequence39:夢渡りは再会する
「あ、迎えの方が来てくれたみたいですね。」
ウィリアムが、通りの向こうからでも、歩いてくるのが分かる長身を見つけて駆け寄ると、彼はその長身には似つかわしくないか細い声で挨拶した。
「お、お久しぶりです、ウィリアム君。」
アクアリスで最も栄えている大通りを抜けた先、国立マリンブルー高等学院から待ち合わせ場所として指定された広場で待っていたウィリアムたちに声を掛けてきたのは、典礼堂でも会ったジャン・ジャック・ピエリネリラだった。
ジャンは、あの場に連れて来られたということは学内でも将来を有望視されている一年生であるだろうに、他の生徒を呼びに行かせるのではなく、自ら待ち合わせ場所まで赴いてくれたらしい。
「こちらこそ、お久しぶりです、ジャンさん。」
その厚意にウィリアムも精一杯の礼を以って頭を下げる。
「そして、キングスフィールド高等学院の皆様方、此の度はお招きに応じて下さり、誠に感謝致します。私、国立マリンブルー高等学院の一年生でデュアルフット部に所属しております、ジャン・ジャック・ピエリネリラと申します。」
続けて、皆に向かって挨拶と自己紹介をするジャン。
それに対して、すぐさまキングスフィールドの面々もそれに応答する。
「私はダンデリオン・エルド・キングスフィールド。」
「サフィアス・メルツィア・ノーリッジと申します。」
「アレクシウス・フォン・ウォールゲイトだ。宜しく。」
「フレデリック・ハウンド・グレイ。」
「ゲオルギアス・ハウンド・グレイ。」
「エリオット・パルマ・マリアリースです。」
順々に名乗るキングスフィールドの生徒たち一人ずつに対して、ジャンは懇切丁寧に返礼していく。
典礼堂で会ったウィリアムの第一印象通り、ジャンがとても真面目な性格であることがよく分かる。
「それでは、早速ですが我がマリンブルー高等学院へ向かいましょう。」
そう言ったジャンを先頭に皆で歩き出す。
「ここから学院は近いんですか?」
「はい、港から続く大通りを経た広場までがこの街で最も栄えた場所ですから、そこから学院はすぐ傍に作られています。やはり、人が集まる場所にあることは重要ですから。」
「なるほど。」
ジャンの説明にサフィアスは頷いた。
そして実際、そんな簡単なやり取りをしながら歩いているとそれらしき建物が見えてくる。
キングスフィールド高等学院とは趣が異なるものの、威厳という観点から言えば負けず劣らず、美麗な異国の宮殿を思わせるような外観の建造物であった。
「ようこそ、これが我らがマリンブルー高等学院、通称“竜宮城”へようこそ。」
校門を抜け、グラウンドに併置されたクラブハウスへ向かう。
クラブハウス内もやはり王都では見ない類の装飾品などで飾られ、エリオットなどは商家の血が騒ぐのか、目を皿のようにして調度品などを眺めている。
「では、こちらが更衣室となりますので、ここでお着換え下さい。」
ジャンに促されるようにして更衣室へ入ると、それぞれが荷物を入れられる棚は三分の二ほど埋まっている。
「今年のマリンブルー高等学校は、随分と新入部員が多いんだな。」
その光景に、アレクシウスが素朴に驚きを示す。
その意見には、ウィリアムも同意した。
主に貴族が通うことの多い高等学院では、部活動の類は基本的にそれほど盛んな訳ではない。普通であれば、チームを組むのに最低限のメンバーが集めるのに一苦労なほどで、最悪の場合は集まらずにそのまま廃部になってしまうこともあり得る。
それが、こんなに集まるというのはある種、異常なことだった。
しかし、そんなウィリアムたちの驚きに対して、ジャンが慌てて否定する。
「ああ、いやいや、すいません。実は、そこにある荷物の内の半分は、うちのチームのものではないんです。」
「え?」
「実は、直前になって突然、もう一校がせっかくだから一緒に参加したいと申し出てきまして、断る理由もなかったので承諾してしまっていたのです。ただ、その連絡をキングスフィールドの方々へ伝えるのが間に合わず、これに関しては非常に申し訳なく……」
そう言い淀むジャンの顔は、本当に申し訳なさそうな表情をしている。
しかし、実際に考えてみれば、ジャンの言葉にそこまで激烈に批判すべき点も見当たらない。
練習試合が多く組めることは互いにとって得であるし、地理的な関係で連絡が物理的に間に合わなかったことも事実であろう。
「あ、いえいえ、気にしないで下さい! それで、そのもう一校というのは」
「よお! ようやく来たのか!」
唐突に背後から発された声が、説明しようとしていたジャンの言葉を遮る。
その溌剌とした声にはウィリアムも聞き覚えがあった。
振り返ると、そこにいたのはウィリアムの予想通りの人物。
レッドブレイズ高等学院デュアルフット部の一年生、アレン・ダイヤーだった。




