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Sequence3:宰相家子息は募る

「どうでしょう、フェルディナンド先輩。唐突な提案で申し訳ないですが、これから先輩たちに即席でもチームを組んで貰い、彼の実力を測るための試合を行う準備が可能でしょうか?」


 ダンデリオンが訊ねると、フェルディナンドは些かぎこちなく頷く。


「こちらは、簡易試合(ショート・ゲーム)形式で宜しければすぐさま手配可能です、が……」


 続く言葉に詰まりながらウィリアムのほうを窺うフェルディナンド。何を言い淀んでいるのか、周囲の皆が奇妙に思う中、的確にそれを言い当てて見せたウィリアムの言葉は、ウィリアムにとっては極めて意外なものだった。


「彼の仲間になってくれる者がいないのではないかという、心配ですか?」


 ダンデリオンの問いに、フェルディナンドは些か言い辛そうに答える。


「……はい、その通りです。こちらが言うのもおかしな話かもしれませんが、こうして王家の方々まで関わる大きな騒ぎになってしまった以上、なかなか手を挙げる者がいるとは思えません。実力の証明という目的がある以上、公平を期さなければいけませんから、面子に不足があっては問題となります。」


「なるほど。それはその通りかもしれない。」


 ダンデリオンが頷く。

 確かに、フェルディナンドの言い分は、極めて正論だった。

 いま、ウィリアムの味方をいきなりしようという生徒はそういないだろう。

 やる気のある面子が足りなければ試合が成立しない。試合が出来なければ、実力も測れない。


 しかし、何か別の良い手段がすぐ思い浮かぶかと言えば、答えはノーだった。


 そんな中で、ダンデリオンが改めてフェルディナンドに告げる。


「まあ、しかし、僕が言い出した以上、ウィリアム君の味方は私たちで何とかしますから、フェルディナンド先輩は早速ですが準備のほうをお願いしても宜しいでしょうか。」


「……そう申されるのであれば御意のままに。それでは一旦、御前を失礼致します。そちらは、準備が出来次第、クラブ・ハウスからグラウンドに出てきて頂ければ。」


 そう言ったフェルディナンドが背後の何人かに目配せすると、彼らはそれぞれ自分の仕事を明言されずとも理解したらしく、それぞれに仲間を引き連れて動き出し、フェルディナンド自身も深く一礼した後に去って行った。


 それを見送ったダンデリオンが再び口を開く。


「では、ウィリアム君の味方集めに取り掛かろうか。一応、訊いておきたいんだけどアレクシウス君は」


「勿論、参加します。」


 食い気味に答えるアレクシウス。その返答は、些か無礼であるような気がしたウィリアムは慌てたが、ダンデリオンはやはり気にする様子も特段なく、ただ感謝を述べた。


「そうか、僕の唐突な提案だったのに、助かるよ。」


「いえ、俺も不当入学に手を貸したなんて侮辱されたままじゃあ気が収まりませんでしたから、渡りに船でしたので。こちらこそ、ありがとうございます!」


 そう言ってアレクシウスは笑った。その頼もしさに寄り掛からざるを得ない自分の情けなさに、ウィリアムは少し泣きそうになるのを我慢した。いまは、泣いている場合ではないとウィリアムも理解している。


「とは言え、ウィリアム君と二人じゃあ、デュアルフットのチームを組むには人数がまだ足りないね。」


 とは言え、一人目の参加者を得て一歩進んだものの、引き続き芳しくない状況についてダンデリオンが周囲を見渡しながら呟く。

 その通りだと、ウィリアムも考え込んだ。幾らアレクシウスが仲間になってくれて状況が少し進んだと言えど、デュアルフットのチームを組むには、仮に簡易試合(ショート・ゲーム)形式だとしても最低あと三人は必要になる。問題はいまだ危機的状況なのだ。

 そんなウィリアムの耳朶を次に打ったのは、ダンデリオンの信じられない言葉だった。


「それじゃあ、ひとまず二人目の仲間は、僕でどうかな。」


 その一言に、周囲がどよめく。


「殿下!?」


 勿論、最も焦ったのは一緒にいたサフィアスである。


「止めるなよ、サフィ。言い出しっぺは僕なのだから、責任を取らないといけないだろう?」


「し、しかし……」


「大丈夫さ。一応、ルールは理解しているし、以前に後学のために自分で実際の練習に参加した経験だって実はあるんだ。後は、まあ、本当ならサフィアスとも一緒にやってみたいんだけれど、君はデュアルフット経験がないものなあ。」


 そう言いながら、本当に残念そうな顔をするダンデリオン。だが、すぐに表情を切り替えて、次の言葉を続ける。


「まあ、いまは仕方ないか。その代わりに、サフィアス、君に頼みたいことがある。勿論、するつもりはないけれど、万が一に怪我をしてしまった時のサポートとして医療班を君には頼みたいな。」


「……失礼。皆さん、しばしの間、殿下と話すお時間を頂きます。」


 サフィアスはそう言うと、パチンと指を鳴らす。すると、ダンデリオンとサフィアスには、まるで周囲に厚い壁があるかの如く何も聞こえなくなった。


「おお、相変わらず無詠唱でも見事な音声遮断の魔法だね。それで、周りに僕らの声が聞こえないようにして、一体、何の話?」


「まったく。さっきの提言、ああいうのは僕の役目なんだから任せて貰わないと。ダンデがいきなりああやって決めてしまって、独断専行の傾向があるなんて噂が立ったらどうするつもりなんだ。僕を将来、暴君の治める国の宰相にするつもりか。」


「それはすまなかったよ。でも、どうせ君だってそうするだろうと思ったからさ。」


「じゃあ、何も後悔はしていない、と?」


「そうだね。それと、多分だけど彼、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだからさ。」


 言葉遣いこそ柔らかではあるものの、そう言い切ったダンデリオンには何かを勘付いた上で断固として意見を曲げないだろう姿勢が伺えた。幼馴染であるサフィアスには、それが嫌でも分かる。


「その口ぶりだと、どうやらそれだけじゃあないな、ダンデ……。」


 サフィアスの問いに、笑顔だけ浮かべて返事とするダンデリオン。


「はあ。わかった、じゃあ、もうちょっと僕にも任せてくれよ。」


 その様子を見て、提案を撤回させるのに折れたらしいサフィアスは呆れたように首を振りながらそう言うと、周囲に張っていた音声遮断の魔法を解除した。


「皆さんお待たせしました。先程にお聞き頂いたように、これからウィリアムさんの実力を測るために模擬試合が行われ、そこで我々は彼の味方となってくれる者を、引き続きあと二人ほど募集したいと思います。勿論、ダンデリオン王子に任された通り、怪我などがあった場合のサポート役は私が責任を持ってこなしますから、ご安心を。これでも私は、それなりの医療魔術は収めていますので。」


「ははは。一応、僕から付け加えさせて貰うなら、ここにいるサフィアスは、僕の知る限り、同年代で並ぶ者はいないどころか、王城でも一目を置かれている程の魔術師だよ。彼が全力でサポートしてくれるなら、本当に怪我の心配はいらないと思ってくれていい。」


 王子が笑いながら補足しているのを、サフィアスは無表情で受け流す。その自慢しない態度が寧ろそれだけの自信があることの裏付けであることは周囲の者たちにも理解できた。


 とは言え、皆は顔を互いに見合わせている。

 いま新入部員歓迎会の会場に残っているいる学生は一年生のみ。彼らはやはり、この降って湧いたような事態にどう対応して良いのか、悩んでいるようだった。


 そんな彼らを見て、サフィアスの瞳が、眼鏡の下で一瞬だけ煌めく。


「じゃあ、こういう言い方ならどうだろう。誰か、入学早々から、先輩に一泡吹かせてやりたいって上昇志向の強いチャレンジャーはいないでしょうか? “競技者スポーツマン”たち。」


 そこでサフィアスが煽るように放った言葉が、周囲の空気を一変させる。


 すると即座に一人、我先にと群衆の中から手を挙げる者が現れた。


「失礼します。それは、彼と一緒に試合で実力を示せた者も、一気に上級生から認められるチャンスだという認識でいいでしょうか?」


 そこにいたのは、琥珀色の瞳を鋭く光らせた、細身ながら強気そうな少年だった。


「うん、多分そうなるんじゃないかな。実際に二年生相手に試合をするんだから、否が応でも実力を認められることになるはずだよ。」


 彼の問いに、ダンデリオンもそう答える。


「なら、やります。こんな幸運、滅多にあるもんじゃない。」


「そう言って貰えると、ありがたい。それじゃあ、残りあと一人かな」


「いいえ、」


 ダンデリオンの声を遮るようにもう一つ声が重なると同時に、先程の少年の後ろから新たにもう一人の人物が現れる。


「「俺たちが二人で一緒に出ますよ。それなら五人、問題ないでしょう?」」


 ウィリアムが声の主を確認すると、そこにはもう一人、手を挙げた少年と全く同じ外見をした少年が立っていた。

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