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Sequence35:夢渡りは自己紹介する②

 再び新たに部屋へと近付いてくる足音が聞こえてきたのは、ウィリアムたちがグリーンウッド高等学院の二人と会話を始めてから程なくのことだった。


 聞こえてきた足音は四つ。


「失礼する。」


 最初に一例と共に部屋へと入ってきたのは山を連想させるような筋骨隆々の男。

 静かな声でありながら、肉厚な存在感で威厳を感じさせるその生徒は、去年までキングスフィールド高等学院で黄金世代の一人として数えられていた、キアーノフ・エイファ・イデアカラー。そのフィジカルを用いて、敵と格闘(グラップル)状態に入った味方の攻撃支援(フォロー)に参加するのを得意とする選手だった。


「よお、キアーノフ。」


「ああ、久しいな、ジョルジオ。相変わらずそうで、何よりだ。」


 ジョルジオが声を掛けると、無骨に返答するキアーノフ。


「うわっ、テンション低っ。久しぶりの再会なんだから、もうちょっと何とかなんないの、キアーノフ。」


 そんなキアーノフに対してヨシュアがちょっかいをかけると、キアーノフに続いて部屋に入ってきた男子生徒が呆れたような声を出した。


「貴方こそ、その軽薄な態度はどうにかならないんですか、ヨシュア。ここは神聖な典礼堂の円卓ですよ。」


「うわっ、こっちも相変わらずだ。」


 そんな風にヨシュアに頭を抱えさせたのは、マイヤー・ウィン・ギヴリール。彼もまた、黄金世代の一人として、去年までキングスフィールド高等学院で活躍していた生徒だった。体格的にはそれほど大きくはないが、その圧倒的な魔術(スキル)運用能力と、攻守あらゆる状況に対して臨機応変にサポートが可能な献身性に定評のあった選手である。


 そして、そんな二人の後ろには、それぞれ一人ずつ、ウィリアムやレイと同じように連れて来られたのであろう、一年生らしき生徒が付き従っている。彼らは扉の前でどうするべきか分からないらしく、少し困った様子だ。


「ほら、そんなことよりさっさと二人とも座ったらどうだ。後ろの後輩たちが、いきなり目の前で茶番を始められて困っているだろう。」


「うむ。」


「いや、茶番ではなく、私は本気で言っているんですがね……。」


 その様子を見かねたのか、ジョルジオがキアーノフとマイヤーに着席を促すと、二人は──マイヤーは些か不満そうにしながらではあるが──円卓の空いている席へと座った。

 そして、彼らの後ろに付き従っていた二人の一年生も、ジョルジオに対して一礼してから、それぞれの先輩の隣に座る。


「あとは、イザークだけか。門の所にいたから、皆も会っただろう。」


「ああ、何か後輩を待ってるとか言ってたね。」


 ジョルジオの問いに、ヨシュアが答える。それと同時に、キアーノフとマイヤーもやはり同じように会っていたらしく、頷いていた。


 それを受けて、ジョルジオは円卓の天板下に設置されている時計を確認した。


「まあ、もうちょっとで開始の時間だから、あいつもそろそろ入ってくるだろう。どうする? とりあえず自己紹介をしておくか?」


「まあ、私たちのことはともかく、一年生たち同士は知らない者も多いですからね。それを交流させるのもこの会が開かれる目的の一つですから、早速やりましょう。」


 そう言ったのは、マイヤー。


「では、私から。マイヤー・ウィン・ギヴリール。本年度より、マリンブルー高等学院でデュアルフット部主将を務めることになりました。宜しくお願い致します。」


 マイヤーは、礼儀正しい挨拶と共に、円卓に座っている皆に対して頭を下げた。

 それに続いて、マイヤと同じ制服に身を包んだ一年生も挨拶をする。


「は、はじめまして。マリンブルー高等学院に所属しています、ジャン・ジャック・ピエリネリラです。主にミッドやABショートあたりの中央レーンを得意としています。宜しくお願いします。」


 ジャンは、体格こそ大きいものの、それに似つかわしくない、些か大人しめな口調で挨拶した。


「キアーノフ・エイファ・イデアカラー、アンバーロック高等学院デュアルフット部主将。宜しく頼む。」


「フィリップ・ミラ・ストラウスです。キアーノフ先輩の下で、学ばせて貰っています。ポジションは主にロング・レーンを中等学院まで担当していました。同学年の方々におきましては、長い付き合いになると思いますので、今後とも宜しくお願いします。」


 武骨で無口なキアーノフとは対照的に、緊張からか早口に捲し立てるような口調で喋るフィリップ。


 そんな彼らに対して、レイたちも先程と同じように自己紹介を返す。


 やはり、今回も夢渡り(ワンダラー)であることを名乗るのにウィリアムは緊張したが、レイと同じように、ジャンとフィリップも特にそのことについて悪い印象を抱くような素振りは反応から窺えず、ほっと胸を撫で下ろした。


 そして、その時、廊下からバタバタと走る音が聞こえてくる。


「すまん、ギリギリまで待たせてしまった! ほら、お前もしっかり謝罪しろ!」


「うおっ」


 そう言いながら入室してきたのは、ようやく待ち人が来たらしいイザーク・パーク・ブランベルン。


 そして、共にやってきた男子生徒が、イザークに頭を鷲掴みにされるような形で謝罪の姿勢を取らせられていた。しかし、その光景はなかなかに圧巻で、仮にイザークほどの長身でなければ、その後輩らしき男子生徒の頭を下げさせるのは難しかっただろうと思えるほど、彼も同じように身の丈が一年生離れした体躯をしていた。


「構わない。時間にはちょうど間に合っているしな。それより、座って自己紹介を。」


 イザークの謝罪に対して、ジョルジオは責めることなく、入室を促す。


「感謝する。」


 そうして席に座ったイザークが改めて自己紹介する。


「レッドブレイズ高等学院でデュアルフット部主将を務める、イザーク・パーク・ブランベルンだ。宜しく。」


「アレン・ダイアーって言います。宜しくお願いしまーす。」


 イザークに続いて自己紹介したショーンは、緊張などとは無縁そうな軽い口調で挨拶をする。しかし、何処か愛嬌のあるショーンに対して嫌悪感などは湧かず、寧ろウィリアムは素直にその肝の太さについて感心させられた。


「お前、もうちょっと悪びれてだな……」


「まあ、まあ、別に良いじゃない。彼みたいな子もいないと、俺が浮いちゃうよ。」


「浮かない努力をすれば良いのでは?」


 イザーク、ヨシュア、マイヤーがそれぞれ発言し、そこで特に何を言うでもなく静かにどっしりと構えて座っているキアーノフ。


 ウィリアムは、いま目の前にあの黄金世代と呼ばれた五人が座っていることに興奮する。


 そして、自分と同世代で彼らに見込まれたのだろう選手たちがいることにも。


 そこに自分も呼ばれているのだということなどは、すっかり棚に上げて忘れながら。


 その姿は、きっと横にアレクシウスがいればいつも通り「デュアルフット狂い(オタク)」と呆れられていたかもしれない。

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