Sequence34:夢渡りは自己紹介する①
「ここだな。」
典礼堂の中を歩いて五分ほど経ち、ウィリアムたちはどうやら目的の部屋に辿り着いたらしい。
木製の重厚な扉を押し開けると、その先は円卓が中心に置かれた部屋が広がっていた。
「上下のない円卓だからな、誰が何処に座っても良いことになっている。こうやって時間がバラバラに集まる時なんかには余計便利だな。」
そう言いながらジョルジオは適当な席を引いて座ったので、ウィリアムもその隣の席に座ることにした。
机に座ったウィリアムがよく見てみると、机は二重構造になっており、透明な天板を透かして下部分に設置された円卓全体を使った大きな時計が見えるようになっている。
「まあ、まだ集合時間までそれなりに余裕があるが、ぼちぼち皆も集まってくるだろう。」
そうジョルジオが言ったそばから、廊下を慌ただしく歩いて──というより、ほぼ走って──くるような音が聞こえてきた。
「ほら。しかし、あいつは足音ですぐ分かるな。」
「ああーっ! ジョルジオに一番乗りを取られたー!」
大きな音をたてながら扉を開けて部屋に飛び込んできたのは、去年まで王立キングスフィールド高等学院のデュアルフット部に在籍していたヨシュア・リーン・トアミナ。そのしなやかで長い手足を活かした超快足の選手として、主にAロングを担当していた選手だった。
ジョルジオと同じく、黄金世代を築くと目されていた有名選手の登場に、ウィリアムは目を輝かせる。
「相変わらずだな、ヨシュア。」
「そっちこそ、時間に正確なのは変わらないね。お陰で一番乗りを逃しちゃったよ。」
「集合が午後からならともかく、今日のような早めの午前集合であれば、集合する時間の順番なんてのは概ね目的地とどれだけスタート場所が近いかで決まるだけだろう。それに、そういう意味で言えば、俺よりも先に着いていたのはイザークだぞ。あいつとは校門前で会っただろう?」
「ああ、うん。何か、走ってくる後輩を待ってるんだってね。その話を聞いた時は、ちょっと共感が湧いちゃったよ。」
そこでウィリアムはふと気付く。恐らくジョルジオはとっくに気付いていたのだろう、その事実を口にする。
「お前の場合は、お前が相手を置いていく側だろう。……それは良いが、ヨシュア。お前の後輩は何処だ。」
「えっ? あれ?」
ヨシュアが驚きの声を上げると共に、まだヨシュアが入ってきたばっかりで開けっ放しになっていた扉の向こうから声が聞こえてくる。
「先輩~! 何処ですか~!」
「あちゃあ、また置いてきちゃってたのかあ。」
その声を聞いて、ようやくヨシュアも自分の状況に思い至った様子になる。
「まあ、建物に入ってしまえば、概ね一本道だから迷うことはないだろうが、早く呼んで安心させてやったらどうだ。」
「そうだな。お~い、こっち、こっち!」
ジョルジオに言われてヨシュアは扉の外へ顔を出すと、大きく手を振って向こうからやって来ているらしき後輩を呼んだ。
「ああ~っ、良かったあ! もう、迷ったらどうしようかと思ってましたよ!」
「いやいや、ここは一本道だから大丈夫だって言ったじゃん。」
「それに、そもそも廊下で走るのは良くないですって。学内ならともかく、こんな由緒正しき場所で走るなんて流石にマズいでしょう。」
「あ~、分かった、分かった。次からは気を付けるから、さっさと部屋に入ろうぜ。」
「まったく……失礼します。」
部屋の外から漏れ聞こえてくるやり取りだけだと、正直どっちが先輩後輩なんだか分からなくなるような会話の末に、今度こそ後輩を連れてヨシュアが改めて部屋に入ってきた。
ヨシュアと後輩の二人も、ウィリアムたちと同じく円卓の適当な席を引いて座る。
二人が座ったのは、概ねウィリアムたちとは円卓を挟んで正反対の位置に当たる場所だった。
「じゃあ、初対面の相手もいることだし、自己紹介でもしながら他の奴らを待つか。俺はヨシュア・リーン・トアミナ、いまはグリーンウッド高等学院でデュアルフット部の長を任されているよ。どうぞ宜しく~。」
「はじめまして。レイ・アレンです。同じくグリーンウッド高等学院、入学したばかりの一年生ですが、宜しくお願いします。」
着席したヨシュアとその後輩、レイが所属と学年を述べて、お互いに自己紹介の流れが始まる。
レイは、小柄ながら礼儀正しく、きっちりとした姿勢で座っているため、実際の身長よりも大きく見えた。それだけでも、彼が体幹の強い優れた選手だということが手に取るように理解が出来るほどに。
グリーンウッド高等学院側の自己紹介に対して、ウィリアムたちも同じように自己紹介をする。まずは先輩であるジョルジオから。
「ジョルジオ・アルク・ロードスタだ。王立キングスフィールド高等学院主将を務めている。宜しくお願いする。」
しかし、自分の順番が回ってくるまでに、既にウィリアムの内心に僅かな緊張が走っていた。
つい先程に、夢渡りに対する悪意をぶつけられたばかりであるため、仕方のないことではあろう。だが、ここでいきなり流れを断ち切って名乗らないまま済ます訳にはいかない。
ウィリアムは大きく深呼吸を一度すると、意を決して名乗りを上げた。
「ウィリアム、です。夢渡りですが、ジョルジオ部長から特待生としてスカウトを頂き、現在は王立キングフィールド高等学院でデュアルフット部に所属させて頂いています。宜しくお願いします。」
一瞬の沈黙。
それを最初に破ったのは、ウィリアムからすれば意外な人物だった。
「凄いですね、特待生なんて! 大変な苦労をなさったでしょうに。」
口を開いたのは、レイである。
その目には悪意や警戒心などなく、純粋に驚きと尊敬の念が込められているように見えた。
一方、ヨシュアのほうは、まるで知っていたかのように、特に何も大きな反応を見せることなく、ウィリアムの挨拶に対して軽く手を振っている。
どうやら彼らは夢渡りに対して敵意を向けないタイプの人間らしいことに、ウィリアムはほっと胸を撫で下ろした。
そして、レイの発言を受ける形で、ジョルジオが軽口の矛先をヨシュアに向ける。
「苦労で言えば、君もそうだろう。先輩がこんなそそっかしい奴で、元とは言え同期として申し訳なく感じるよ。」
「いえ、正直いつものことですから、実はそんな気にはしていないんです。」
「おお、急に後輩らしい可愛げのあることを言うじゃん。」
「でも、今後も言い続けますから、きちんと直して下さいよ。」
「努力しま~す。」
再び、レイの小言を軽口を叩きながら交わすヨシュアの会話が始まる。
それに時折ジョルジオがツッコミを入れていく。
そんな形で、更に新しいメンバーが到着するのを待ちながら部屋内の会話は続いていった。




