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Sequence32:学生は招集される

「それで結局、今日はどういった会合なんでしょう。」


「うーむ、まあ、総会なんて大仰な名前は付いているが、言ってしまえば各校の顔合わせだな。」


「顔合わせ、ですか。」


 ジョルジオの言葉に、ウィリアムはそう問い返した。


 先日のキングスフィールド・デュアルフット・クラブと練習試合を終えた後の懇親会でジョルジオから呼び出されたウィリアムに命じられたのは、ある会合へ一緒に参加せよ、という内容だった。

 二人はいま、その会合に向かう馬車に乗って移動している最中である。


「そうだ。例年、年度の始めに王都にある学院の中で、デュアルフットの高等学院リーグに参加しているチームの主将が招集されて行われるのが総会でな。」


「で、では、ジョルジオ部長の元チームメイトだった方々に会える可能性が?」


 途端に目を輝かせるウィリアム。


「ああ、まあ、奴らが主将になっていればだが、恐らくほぼ間違いなくなっているだろうからな。時間に余裕があれば、紹介してやらんこともない。」


「本当ですか、お願いします、約束ですよ。」


「ああ、分かった、分かった。」


 さながら遊びに連れて行って貰える子どものように──実際、彼にとってはそうなのだろう──興奮を隠せないウィリアムの姿を見てジョルジオは苦笑いしながら承諾してくれた。


「……ところで、そんな場所に一年生の自分を連れ立って構わないんでしょうか?」


 その返答に満足したウィリアムは、今度は別の質問をジョルジオに投げ掛ける。


「ああ、それは問題ないんだ。総会の目的には、春の新人戦に向けた会合というのもあってな。だから元々、新入生からも一人、同行させるのが決まりとなっている。まあ、他校の奴らと交流を図るも良し、そうでなくとも各校の次期エースたちを確認する良い機会だからな。声を掛けるならお前だと思ったんだ。」


「え、他校の同世代と会えるってことですか!?」


 なるほど、それなら自分が連れて来られたのも納得だと、ウィリアムは頷く。

 確かに、他校の主力メンバーを把握することは重要である。

 それはあくまで戦略的な観点からであって決して自分の好奇心からではないと、ウィリアムは逸る気持ちを抑える。


「お前、俺の元チームメイトたちに会えるって話の時よりワクワクしていないか。」


「えっ、いや、そ、そんなことないですよ」


「大方、去年の試合で既に見ているあいつらよりも、まだ見ぬ好敵手に出会えるってことのほうが楽しみなんだろう。」


「いや、だから、そんなことないですって。」


「そうか? まあ、別にどちらでも構わないがな。」


 些か図星を突かれて焦るウィリアムを、揶揄って遊ぶジョルジオ。

 そんな風に二人で雑談をしている途中で、馬車が停まった。どうやら目的地に着いたらしい。


「よし、行くか。」


「は、はい!」


 二人で馬車を降りると、総会が行われるらしき会場の入り口前に一人でぽつんと立っていた男が駆け寄ってきて、声を掛けてくる。


「おお! 久しいな、ジョルジオ!」


 そこにいたのは、いままでウィリアムがデュアルフットの試合でも対峙したことのないような長身を誇る大男だった。


 だが、ウィリアムは彼のことを知っていた。


 彼こそが、まさに先程も話題に出ていたジョルジオ部長と共に黄金世代と呼ばれていた元チームメイトの一人で、攻撃に定評のあった部長とは正反対に、守備の要を任されていたイザーク・パーク・フランベルン。


「おお、イザーク! どうした、こんなところで。」


 元チームメイトとの再会にジョルジオも喜ばしそうな声で挨拶を返す。


「いやあ、それが一緒に総会へ来るはずだった一年生が、トレーニングがてら走って行くと言ってな。方向音痴の気があるので心配だったのだが、どうしても聞かなくて、仕方なく先に来たものの、案の定こうして待たされている始末だよ。」


 そうやって笑うイザークの顔は、言うほど待たされていることを気にしている風ではない。


 その時、ふと、イザークの視線がジョルジオの背後に控えていたウィリアムに気付く。


「ん。もしや、お前の後ろにいるのは」


「ああ、こいつがウチの後輩だ。紹介しよう。ウィリアムだ。」


 そう言うと、ジョルジオはウィリアムの肩に手を置きながら後輩を紹介した。


「おお、そうか。彼が例の。どうも、はじめまして。イザーク・パーク・ブランベルンだ。」


 それを受け、イザークはウィリアムに握手を求めてくる。

 ウィリアムが応じると、イザークの手は大人でも珍しいだろう大きさで、特に力を籠められた訳でもないのに、とてつもない力強さを感じさせた。


「は、初めまして。ウィリアムと申します。イザーク様のことは、去年の試合などで拝見させて頂いたので、存じております。素晴らしいディフェンス・ラインの構築でした。」


「そうか。そいつはありがとう。」


 ウィリアムの言葉を衒いなく受け止めるイザークは、その堂々とした立ち振る舞いから、絶対的な自信を感じさせる。

 そんな二人の交流を一通り眺めていたジョルジオが、改めてイザークに質問を投げ掛ける。


「それで、イザーク。お前はどうするんだ。俺たちと一緒に、先に入って後輩を待つか?」


「いや、まだ開始時刻までは余裕もあるし、ギリギリまでここで待とうと思う。実際、どうやらまだお前たち以外のチームもまだ来ていないみたいだし。」


 ジョルジオの誘いを、イザークはゆっくりと首を振って断った。


「ああ。まあ、ウチは王都の中心にあるから会場まで近いが、他はそうでもないからな。」


「そういうことだ。だから、気にせず先に行ってくれ。」


「了解。それじゃあ、また後でな。」


「ああ。」


 ジョルジオは、そう言ってイザークとにこやかに別れる。ウィリアムは、改めてもう一度イザークへと頭を下げてから、ジョルジオの後を追った。


 会場の正門を抜け、少し歩いたところでふと、ジョルジオがウィリアムに声を掛ける。


「……お前は、どうしてウチの代が解散したのか、訊ねないのか?」


「え」


 一瞬、戸惑うウィリアム。

 確かに、彼らの関係性には謎がある。

 元々は黄金世代と呼ばれたチームメイトで、次代の覇権は間違いなしと噂されていたジョルジオたちが、突如として解散し、それぞれ別の高等学院に転校したなんて、普通ならあり得ない事態だ。

 場合によっては、目と目が合うだけで一触即発になるような関係性の悪化だって考えられる。

 しかし、いま見た通り、ジョルジオとイザークには全くそんな様子もなく、寧ろいまもまだチームメイトであるかのような親しさで会話を行っていた。

 もしも、他のメンバーとも同じような関係性であれば、彼らが解散した意味とは果たして何なのだろうか?


 歩きながらウィリアムはそれを考え、しばし無言の時間が続く。


 ただ、その後に彼の口から放たれたのは意外にも、しっかりとした否定の言葉だった。


「……訊かないですね。」


「何故? 自分で言うのも烏滸がましい話だが、私たちの世代は黄金世代とも呼ばれるほど注目度の高いチームだった。それがいきなり解散して、メンバーがそれぞれ別の学院に移ったことに興味は惹かれないのか?」


「惹かれない訳じゃあないですが──」


 一息を入れて、ウィリアムは言葉を続ける。


「別に、他のチームに移ったとしても、同じデュアルフット・プレイヤーじゃあないですか。部長たちが何を考えているのかまでは自分に推し量ることは出来ませんが、決して敵対している訳じゃあない。試合が終われば敵味方無し(ノー・サイド)。きっと向いている先は何処かで交わっているんだろうと、何となくの直感ですが、そう思うからです。」


 いつかその視線が交わる先で分かる答えなら、敢えていますぐに訊く必要はないと、ウィリアムはまっすぐジョルジオを見つめながら言い放った。


「……そうか、それならそれで良いんだ。」


 その言葉に、それだけ呟いたジョルジオは、一瞬、笑ったような気がした。

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