Sequence30:幼馴染は通じ合う
大きく試合の動いた第2シークエンスに続く第3シークエンスは、意外にも先程までと全く同じ盤面となった。
セット・タイム中、最初に動いたのはKDCで、ミッド・レーンに煙幕を最速で設置。
それはあたかも、同じ盤面での再戦を挑んできているかのような仕掛け方だ。
大きくリードを奪われたはずのKDC側から、敢えての同じ盤面への誘導。
それに対して、学院側も受けて立つように同じくミッド・レーンにこれまでと同様の煙幕を張る。
先程のシークエンスで奪った分のポイントは、オンプレイ中の臨機応変な運用のために温存してある。
結果的に、学院側としては練習してきたセット・プレイの練度を更に上げる機会に恵まれた形となったと言えるだろう。
フィールド上では各レーンの選手たちがぎゅっと絞るように中央へポジショニングを寄せていく。
ミッド・ベルトを軸とした力と力の真っ向勝負になることは、誰の目から見ても明らかだった。
「プレイ!」
そして、フィールドに響き渡るジョルジオの声でシークエンスが開始される。
各選手が同時に動き出す。
ミッド・レーンでは、スパイクを保持したウィリアムとマクシムがほぼ同時に煙幕を利用して突入。
そこから、またもやウィリアムがBショート側へと煙幕の中からクロスのコースへと飛び出してくる。
ここまでは、先程までとほぼ同じ盤面上の展開だと言えた。
この時、ウィリアムは考えていた。
この盤面、本来であれば大きくリードを奪われたKDC側は作戦を変えてきてもおかしくない状況。
通常であれば、わざわざこちらが得意としていて、尚且つ成功している作戦にずっと付き合う義理などないからである。
しかし、彼らは寧ろ自分たちから進んでこの盤面を構築してきた。
そこにある狙いとは何か?
練習試合としての、経験値目的?
なるほど、確かにそれはあり得るだろう。
実際、試合の前も、試合の最中も、マクシムはそれらしいことを言っていた。
恐らく、この練習試合では、KDC側にはジョルジオ部長から幾つかの依頼が出ている。
それらは全て、自分たち学院の一年生を成長させる目的で指示したものだろう。
しかし、果たして本当にそれだけだろうか?
確かに、彼らは年長者だ。大人の余裕で、僕らのために一肌脱いでくれる部分はあるかもしれない。
だけど、その一方で同時に、だから負けても良いと思えるような競技者はいないのだ。
だとすれば、仕掛けてくるなら、このシークエンス。
前回シークエンスで大きく中央を割られて得点を奪われた相手チームならば、それを奪い返しにくるのではないか。
「ウィル!」
そうウィリアムが思った瞬間、アレクシウスから大きなコールが上がった。
それに反応して視界の端、クロスへ入ってくるアレクシウスへウィリアムの注意が向けられる。
しかし、コールを上げながらも、アレクシウスの視線はウィリアムと交わらない。
その瞳は、ウィルの向こう。ミッド・レーンの煙幕を捉えていた。
だが、それは幼馴染たちにとって十分なアイ・コンタクトだった。
「スルー!」
瞬間、ウィリアムはアレクシウスへパスせず、スパイクを保持したまま縦に切り返すことを選択。
そして、アレクシウスはクロスへの軌道から更にミッド・レーン側に加速することで、ウィリアムと自身の守備ゾーンを交替させた。
デュアルフットにおいて、基本的に選手の行動はスパイク保持者を軸に立ち回りが決定する。
それはルール上、スパイクを前にパスをすることが出来ないことに由来する。
スパイク保持者よりも前に出てしまった選手は、改めて戻るまで何も出来ない状態、所謂死に体になってしまうからだ。
ただ、何事にも例外は存在する。
それが、例えば今回のようにクロス中にポジションを交替して、役割を変更する場合だ。
いまこの瞬間、確かにアレクシウスはウィリアムからスパイクを受け取ることこそ出来なくなったものの、フィールドの最前線において真っ先に敵の攻撃と衝突する急先鋒へと変化した。
それは、攻撃と防御を同時に行うデュアルフットならではの、最も難しい判断が必要とされるプレイの一つと呼んでも過言ではない。
その判断を可能にした要素が何だったか、アレクシウスにもまだ上手く言語化は出来なかった。
先程までのシークエンスであれば、マクシムが飛び出してくるはずの煙幕に何の揺らぎもなかったから?
或いは、フレデリックのポジショニングが前回までよりもミッド・レーン寄りになっていて、そこから相手側の中央で勝負したい欲求も見えてきていたから?
勿論、それらも正しい気はする。
少なくとも、判断に至った要素の一つとしては。
だが、それだけではない。
俺だったら?
一回目は青天で転がした相手から、シークエンスが進むに連れて状況を改善され、遂には見事に抜き去られた後で、黙って守備など出来るか?
勿論、出来る奴はするだろうし、俺だって必要な場合はそうする覚悟はある。
例えば、負けたら終わりのトーナメント形式なら、そういった事態も山ほど出てくるだろう。
けれど、いまこの瞬間は、負けても終わりの試合ではない。
だからこそ、負けたままではいられないのではないか?
詰まるところ、アレクシウスは相手の負けず嫌いを信じたのが、判断の決め手だったと言えるだろう。
そして、それは少なくともこの瞬間においては正解であった。
「吹き飛ばせ!」【解呪の熱風】
アレクシウスは温存していたポイントを利用して、自陣のミッド・ベルトに設置されていた煙幕の魔術を掻き消す。
すると、そこには、先程までのようにBショートへの守備支援に回ることなく、そのままスパイクを保持して突入してくるマクシムの姿が露わになった。
そのマクシムに向かって、一直線に駆けるアレクシウス。
衝突の勝敗は、一瞬で決着へと至る。
マクシムへとアレクシウスが決めたタックル、それはまさかの、第1シークエンスでアレクシウスがマクシムに決められたものとほぼ同じ、コンパクトに腕を纏めて瞬時に相手を青天に倒すそれだったのだ。
一回目の勝負で完膚無きまでに倒された相手に対して、抜き返すだけではまだ完全なる復讐とは言い難い。
改めて相手を同じように倒し返してこそ、完全に勝ったと言える。
それはかつて、確かに座学以外であれば、武勇を誇るウォールゲイト家において麒麟児の名を欲しいままにしていた兄たちの訓練を見様見真似で模倣してしまうことで“鬼子”の異名で呼ばれていた神童の復活した瞬間だった。




