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Sequence28:兄は若干の後悔を抱く

「セット・タイム!」


 第2シークエンスの開始を告げる声が審判のジョルジオから発される。

 設置された魔術(スキル)は、前回シークエンスと同様、どちらもミッド・レーンへの煙幕(スモーク)だった。

 観衆の視線は再び魔法陣で描かれたフィールドの中央に集まり、緊張が走る。



「プレイ!」


 しかし、前回シークエンスと同じだったのは、そこまでだった。

 審判であるジョルジオの掛け声とほぼ同時と言ってよい、先程よりも遥かに早いタイミングでウィリアムが煙幕の中からBショート側へ飛び出してくる。それと同時に、Aサイドのフレデリックとゲオルギアスは自陣の空いたスペースであるミッドへ寄りながらも大きく前に進み、先程のようなロング・パスを出させない牽制の位置にまで詰める。


 KDCのBショートを守るイスラ・アルジャイルは、それ見て、堅実ではあるが保守的で無難な作戦だと判断していた。

 セット・プレイの内容を基本的に前回から貫いてくるだろうことは予想済み。マクシムに完璧なタックルを決められたとはいえ、事前に練習してきた作戦を即座に変えるなどという行為はプライドが許すはずがない。特に、貴族を中心に構成されたチームなら尚更だ。

 ただ、それでも前回シークエンスで味方が綺麗に青天で倒された姿が脳裏に焼き付いただろうことは想像に難くない。それが、早めに外へ切り出す反応となってしまったのだとイスラは予想する。

 確かに、早めにBショート側へ切り出すことによって、マクシムから距離を取ることは出来る。マクシムは先程に実力を示した通りクラブで最もタックルを得意とする選手で、それを警戒するのは当然のことである。しかし、それは同時に、その分、自分たちの思考を相手に晒し、選択肢を狭めてしまいかねない行為でもあった。

 クロスは相手に幾つもの選択肢を同時に迫れる分岐の多い作戦だ。しかし、ミッドを守るマクシムを避ける姿勢が透けて見えてしまえば、Bショートから縦にクロスへ走り込む選手からAサイドまでの切り返し全てがあり得ない、という予想が付いてしまう。残るは、クロスを偽装(フェイク)にスパイクを持っているミッドの選手が縦に再び切り込むか、Bロングへパスを出すかの二択しか残っていない。

 そうして選択肢が限られてしまえば、如何にクロスと言えど守ることは格段に容易くなる。

 そうなれば、KDC側は余裕をもって攻撃を行うことが出来るだろう。


 一応、IGL(インゲームリーダー)を務めるのが平民、しかも夢渡り(ワンダラー)であることは事前に知らされていたため、そうしたプライドに拘らない作戦で来ることもKDCでは警戒をしていた。

 しかし、朱に交われたば何とやら。長いものに巻かれたのか、それとも抵抗しようとしたものの無理だったのか、詳しい経緯までは分からないが、どちらにせよここで大きく作戦を変えることが出来ないようならそれほど恐れる相手ではないのかもしれないと、イスラは脳内で敵の評価を改めようとした──その時だった。


 ウィリアムは、前回シークエンスと同様に縦に走り込んでくるアレクシウスへ、先程のような交差の瞬間よりも遥かに前でパスを放ったのだ。

 この瞬間、盤面は一気に均衡状態まで戻される。

 クロス後に縦へ切り込むウィリアムと、そこから更に外へのパスを警戒していたKDC側のBサイドを守る二人の選手は、ウィリアムとダンデリオンがそのまま阻害行動(ブロック)に入ることによって死に兵となってしまった。

 残っている活きた駒は、学院側はBショートからミッド側へ斜めにクロスへ走り込んでいるアレクシウスとAサイドの二人。KDC側もミッドのマクシムとBサイド側から支援に来るのを併せた三人。

 現状だけ見れば動ける駒は同数。

 ただし、将来性の面では、オン・プレイ中にクロスでパスを一回成功させている学院側は、次のシークエンスで魔術(スキル)に使用するポイントを一つ、KDCよりも多く獲得することがこのままだと出来てしまう点で差がついている。


 これは、紛れもない学院側の挑発だった。

 確かに、このままスパイク保持者がそれぞれ守備に回ることなくすれ違うように敵陣へ突入すれば、互いに最大得点を稼げるだろう。だが、その場合、得点は同じでも、魔術(スキル)ポイント分、学院側がアドバンテージを獲得することになる。

 そのアドバンテージを看過して同じ最大得点で納得するのか。しかも、得意なマクシムのタックルを捨ててまで。

 学院側の選択は、KDC側の選手たちにとってそんな意図として伝わっていた。

 つまり、プライドを問われる側が、学院からKDCへ一瞬で変わったのだ。


 そして当然、貴族のチームにプライドがあるのと同様、平民のチームにだってプライドはある。

 特別な試合ならともかく、練習試合においてそのような挑発行為を行われて尚、無視することの出来るプレイヤーなど存在しない。


 必然、KDC側はマクシムがスパイクをパスして、アレクシウスに対する守備へ回った。

 結果的には、前回シークエンスと同様、Aショートから縦に突入(エントリー)してくるアレクシウスに対してマクシムがタックルに入るシチュエーションが出来上がる。


 しかし、ここで思い出すべきは、ウィリアムがシークエンスの初手で前回と違う行動を取っていたことによって生まれた差異だった。

 前回シークエンスよりも遥かに早いタイミングでクロスを敢行した学院側のアレクシウスは、先程よりもミッドから遠い位置のポジションで突入(エントリー)してきている。結果、マクシムは先程のように煙幕ギリギリからタックルへ入ることが出来ない。謂わば、外へと釣り出される格好となっていた。


 それは、アレクシウスがマクシムのタックルを観察が出来る時間的猶予を確保する。

 事実、マクシムの目には強烈にある姿が焼き付いていた。

 自分がタックルに入るその瞬間まで、何も恐れることなく真っ直ぐにこちらを見つめているアレクシウスの姿が。


「両チーム、共にセット・ラインの突破ならず!」


 スコアだけ見れば、前回と同様にお互いが無得点のまま第2シークエンスは終了した。


 異なるのは、先程はマクシムの手を借りて立ち上がっていたアレクシウスの貌。


「なるほど、なるほどなあ! こんなことも出来んのか!」


 そう叫びながら物凄い勢いで立ち上がったアレクシウスが、今度は逆に起き上がろうとしていたマクシムへ手を貸す。


「感謝するぜ。今回はさっきと違って、あんたの動きをちゃんと目で追った上で、それを身体全体できちんと受けることが出来たからな。」


 その声色は、得点を得られなかった者のようには全く見えない。実際、彼は、得点こそ得られなかったものの、別の何かを掴んでしまったのだろう。


 その姿を見て、マクシムは若干の後悔を覚える。


 ああ。恩人から頼まれたとはいえ、これはもしかしたら厄介な敵を増やしてしまったのではないか、と。


「長年に渡って培ってきた技術をこうして曝け出させておいて、貴方たちが()を叶えられなかったら、恨みますよ、ジョルジオ殿。」


 誰にも聞こえないような小さな声で、そう呟きながら。

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