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Sequence26:部長は目論む

「セット・タイム!」


 審判を務めるジョルジオ部長の声と共に、試合開始が告げられる。

 最初に訪れるのは魔術(スキル)事前設置(プリセット)が許される30秒のセット・タイム。

 この時間内に設置された魔術は、発動した際の効果と持続時間が跳ね上がるため、有効なセット・プレイを事前にきっちり決めておけるか否かが大きなアドバンテージを作ることになる。特に、遅延(ディレイ)で発動した場合は奇襲の意味合いも加わり効果は絶大で、オン・タイム中の趨勢は大部分がこの時点で決まってしまう重要な時間と言っても過言ではない。


 王立キングスフィールド学院デュアルフット部とキングスフィールド・デュアル・クラブが選択したのは、共にミッド・レーンへの煙幕(スモーク)。これによって、互いのセット・ラインに挟まれた中央ベルトの真ん中は敵味方からほぼ視界が遮られたことになる。


「プレイ!」


 ジョルジオの声でプレイが開始される。

 開始されてから秒にも満たない最初の数瞬、周囲で見守っている人々の視線は当然、煙幕(スモーク)が張られた中央に集まる。

 左右対称(シンメトリー)な盤面は最終的な接点(コンタクト・ポイント)がギリギリまで分からない。

 このまま煙幕内で接敵するのか、それとも、左右にスパイクを振るならABどちら側になるのか。


 固唾を呑んで見守る周囲の面々が最初の動きを視認したのは、Bショートのアレクシウスが勢い良く内側のミッドへ斜めに切るような形で走り込む姿だった。

 そして、それとタイミングを合わせるように、ミッドの煙幕(スモーク)内から突き破るようにして、真横へ飛び出してくるウィリアム。


 それは、所謂クロスと呼ばれるセット・プレイだった。この作戦は、交差する二人が対面の敵から受けている自分へのマークを外しながら複数の選択肢を作り出すことが出来る。例えば、縦に走り込んだ味方にパスをする、振りをしてスパイク保持者が裏をかいて自ら抜け出す、かと思えばそこからロングへパスを出す、といったように。非常に簡単ながら相手陣営にもたらす混乱の効果は非常に大きい極めて有効な作戦だ。


 それとほぼ同時、KDC側も動きを見せる。こちらは、煙幕の中から鋭いパスがAロングを飛び越してAロングまで投げられた。


「ッ! フレッド! 守備支援(カバー)!」


 瞬間、鬼気迫る声でAロングのゲオルギアスがAショートを守っている双子のフレデリックに要求する。

 当然ながら、盤面上では全てが連動しており、B側を攻撃に使用する際でもA側が全く関係なく切り離された状態でいる訳ではない。

 今回のキングスフィールド学院のように、Bショートでのクロスを敢行する際にはAショートの選手も攻撃支援(フォロー)守備支援(カバー)の両方を想定して少し寄り目に絞ったポジショニングをするのが定石である。

 特に、フレデリックとゲオルギアスは、二人の間を割るように突入(エントリー)してくる相手に対して門を閉めるかのように二人でダブル・タックルを同時に決めるのを得意としているため、通常より遥かに距離を開けていても問題ないという自信があった。

 その自信自体は決して間違いではない。確かに、Aショートとロングの間を攻めるような普通の攻撃であれば、二人は難なく止めることが出来ただろう。

 ただ、今回は、その数歩分の自信が、魔法陣で描かれているフィールド・エッジにギリギリまで届くような鋭い勢いのAロングへの飛ばしパスに合わせて迷いなくKDCのAサイド選手たちが走り出しているのに対して、反応の遅れを作り出すことになってしまった。


(相変わらず上手いな。)


 審判として冷静に盤面を見つめているジョルジオは内心で改めてそう驚嘆する。


 実際、その盤面運びの冷静さに、エリオットのように今年から始めた初心者ならともかく、周囲で見守っていた人々の中でデュアルフットに多少の知識があるメンバーたちは、皆がどよめきを隠せない様子だ。


 現状の盤面を整理すれば、Bサイドで3対3(3V3)、Aサイドで2対2(2V2)が出来上がったということになるだろう。定石で言えば、Bサイドで学院側が有利を作ろうとしたが、すぐにAサイドでクラブ側が有利を取り返したことで、数的にもアドバンテージ的にも互角な展開になったと言える。それが、ただパス一本で作り上げられてしまう。


 流石は、長くデュアルフットに携わってきた選手の多いクラブ・チームだけあって、老練な立ち回りと言えるだろう。

 当然、それを一年生たちに学んで貰うことも、ジョルジオが彼らと合同練習を組んだ目的の一つではあった。

 だが、学ぶべきはそういったマクロ面の技術だけではない。

 例えば、ミクロな技術についても、彼らから学ぶべきことが多い。

 そして、ジョルジオにとって、その技術を最も活かせる、且つ活かすべき選手がその技術をいままさに身をもって体感しようとしている。

 ジョルジオの視線が捉えているのは、恵まれた体格を武器にウィリアムへのクロスへ走り込むアレクシウスの姿だった。

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