Sequence25:夢渡りは忠を尽くす
「両チーム、入場!」
審判を務めるジョルジオの声と共に、王立キングスフィールド学院デュアルフット部とキングスフィールド・デュアルクラブ、通称KDCのメンバーがそれぞれセット・ラインへと整列する。
事前の話し合いにより、最初の練習試合は一年生主体のチームを学院側が出し、それに見合ったメンバーをKDC側に組んで貰って行うことになった。
「両チーム、キャプテンは前に!」
ジョルジオの声に従って、ミッド・レーンを守るウィリアムが学院側からは出る。
KDCから出てきたのは、Aショート・レーンのマクシムだった。
「意外です。マクシムさんが出てくるなんて。」
「妹を助けてくれた恩人たちの相手をしたくてね。本当は二年生主体のチームと試合するメンバーに入る予定だったのを、無理矢理に変更して貰ったのさ。」
ウィリアムの問いに、マクシムは笑って答えた。
「そっちも、こう言っては失礼かもしれないが、君がキャプテンなのは意外だな。」
マクシムからも、こちらの構成に対して問いが投げ掛けられる。
「てっきり、ダンデリオン王子が出るのかと思っていたけれど。」
「ええ、僕もその予定だったんですけど……」
そう返答しながら、ウィリアムは試合前の出来事を思い返した。
元々、ウィリアムは先日の簡易試合の時と同じように腕のキャプテン・マークはダンデリオンが付けるものだと思っていた。
しかし、試合開始直前にユニフォームを先発メンバーに配る際、ジョルジオはそれを特に何を言うでもなく、ごく自然にウィリアムへと手渡してきたのだ。
当然、困惑したウィリアムは辞退しようとする。
「え、いや、これは僕じゃあなくって……」
そう言いながらウィリアムが視線を向けると、しかしそこにいたダンデリオンは笑いながら言う。
「いやいや、僕には荷が重いよ。幾ら練習試合とは言え、長い伝統を誇るキングスフィールド学院のキャプテン・マークを僕のような素人に毛が生えた程度の人間に巻かせる訳にはいかないでしょ。」
「で、でも、簡易試合の時は……それに、そんなこと言ったら不正入学を疑われた夢渡りの僕なんか」
「ああ、まだあの時のことを気にしているのか。」
ウィリアムの言葉に、ジョルジオは呆れたように言った。
「先日の簡易試合は、確かにお前の実力を試す意図で組まれたものだったから、仕方なくダンデリオンが一時的にキャプテン・マークを巻かせたに過ぎない。そして、いまはもう、少なくともここにいる一年生たちの中でお前の実力を疑う者などはいないだろう?」
ジョルジオが周囲を見渡しながら尋ねると、それに対して先発メンバーに選ばれた面々が応答する。
「異議ありません。」
ダンデリオンは先程と同じ笑顔で。
「異議なーし。」
「異議なーし。」
二人でストレッチをしていたグレイ兄弟は声を揃えて同時に。
そして、ウィリアムの後ろからポンと肩を叩くアレクシウス。
ウィリアムは助けを求めるような目でアレクシスを見つめる。
しかし、返ってきた言葉は無情にも、ウィリアムの背を押すものであった。
「どうせ、お前がIGLもやるんだし、さっさと諦めろ。」
それ以外の控えに回った面子の中にも、特に反発するような表情を見せる者はいない。
どうやら、ウィリアムを除けば、この決定は満場一致らしい。
幼馴染であるアレクシウスにまで言われてしまっては、もはや逃げ道が存在しないことをウィリアムは悟るしかない。
「ほら、皆もこう言ってるんだ。早く受け取ってくれ。」
ダンデリオンに急かされるようにして、慌てて受け取るウィリアム。
「わ、分かりました。謹んで拝命します。」
そう言いつつも、この時はまだウィリアムの手は震えていた。
「ああ、頑張ってくれ。」
それを見つめながらも、ジョルジオは気にする様子もなく、爽やかに笑っていた。
試合前のやり取りを思い出しながら、ウィリアムは改めてマクシムに返事をする。
ウィリアムに頑張れと言ってくれたジョルジオは、何かを期待していたように思う。
それは、彼自身の口から直接聞いたことはないし、そもそもそれが何なのかもウィリアムには想像が付かない。
ただ、自分をこの王立キングスフィールド学院という恵まれた環境に拾い上げてくれた相手の期待に応えなくて良いはずがない。
そして、自分に努力が出来ることは、ただひたすらにデュアルフットのみ。
ならば、やることなど、とっくの昔に決まっていたのだ。
そんなウィリアムの声は、先程までの困惑を既に振り切っていた。
「やるからには、全力でやらせて貰います。」
そう言い放ったウィリアムの表情を見つめていたマクシムは、ふっと一瞬だけ表情を柔らかくする。
「迷いのない瞳だ。良いチームと、仲間に出会えたんだな。」
ただし、それも束の間、すぐさまマクシムの表情は強者のそれに移り変わった。
「まあ、こちらは最初から全力でいくつもりさ。俺たち平民は、いつだって生きることに必死だ。そんな俺たちだからこそ、こうして休日の時間全てを費やしてまでやる趣味に手を抜く奴なんかいるはずがないことは、君だってよく分かっているだろう。」
「はい。大人になってもデュアルフットを続けている人が多いこのクラブを、僕も尊敬しています。」
「そうだ。我々のデュアルフットは貴族が学生の間だけ楽しむものとは全く違う。それを知っていて尚、そちらへ行った君に、改めてこちらの良さを思い出して貰えるよう、全力で立ち向かわせて貰う。」
「望むところです。」
互いの熱い視線が空中に火花を散らす。
「両者、握手!」
そうして一通りの会話を終え、審判に促される形で試合前の握手を交わすことになるウィリアムとマクシム。
二人の間で力強く交わされる握手。
試合を前に集中し始めたウィリアムの手からは、先程キャプテン・マークを受け取った際の震えはまるで嘘だったかの如く既に消え失せていた。




